表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サテライトクラスタ  作者: 樫木佐帆
12/40

サテライトクラスタのバックグラウンド 前編

2010年制作。2022年3月アップデート。

注:46,283文字あります。




前文として。



桜のようなゲームを作ってみたかったんだ。

サテライトクラスタというタイトルには色々含まれているけれど、

個人的には略称であるサテクラ、ほら、桜とtechが入ってるじゃない?

あ、ぴったりだな、と思ってさ。

桜というかソメイヨシノはクローンで日本中に咲いているのは有名な話だよね。

オリジナルのソメイヨシノから接ぎ木して増えていった。

そういうのをイメージしてるんだ。

…ゲーム内で?  いや、違うよ。現実でだよ。


──ブルー・フォレスト社「ラインブレイカー」「サテライトクラスタ」開発・企画者 飲み屋での発言



新しいエロゲ買ったんでオナ休暇を申請します。

え? だめ? まいったなあ。半日出勤とか…だめだよな。はい。

ほら、手動かしてるじゃないですか。

ちゃんと納期に合わせるんで代わりにお願いがあるんだけど。

ああ、簡単ですよ。えっとね、神咲美鈴の召喚を要請します。

…あ? エロゲの話じゃねえよ。

一度しか言いません。よく聞いて下さい。

サテライトクラスタに神咲美鈴の召喚を要請します。でなければ、殺す。出来なくても、殺す。


──同じく「ラインブレイカー」「サテライトクラスタ」開発・企画者 会社内での発言



「サテライト」 とは

 satellite(衛星)の音訳。ラテン語では「satelles」。

 元は従者や随行者の意味。

 現在では「衛星」や「人工衛星」、「共存」や「本体から離れて存在するもの」という比喩を含む。


「サテライトウイルス」 とは

 他のウイルスと共存することで感染・増殖する性質を持つ寄生ウイルス。


「クラスタ」 とは

 cluster(房・集合体)の音訳。クラスターとも。

 ディスク装置の記憶領域の単位。「セクタ」の集合体。

 複数の計算機を束ねたもの。並列計算機。

 ネットコミュニティでは嗜好の近いユーザーをまとめる概念として使われる。


「ソメイヨシノ」 とは

 染井吉野、学名:Prunus × yedoensis。

 学名の×は自然種間交雑種の表記であり、人工交配種の場合この表記は用いられない。

 エドヒガンザクラ系品種コマツオトメとオオシマザクラの交配で生まれたサクラの園芸品種。

 種子で増やすと親の形質を必ずしも子に伝わることがないため、接木もしくは挿し木などの栄養繁殖の方法をとる。

 クローン植物であるが故に条件が整えば一斉に開花する。桜前線が成立するのもこのため。

 寿命として60年と言われているが、樹勢回復により樹齢百年を越えるものもある。

 現在、千葉大学中村郁郎・静岡大学太田智などの研究グループがソメイヨシノの交配再現実験を行っている。



舞台、そして、バックグラウンド。



 舞台は鋼織世界クラスタ。


 クラスタは私達が生きている2010年代の日本社会をそのままコピーしたような世界だ。


 現実とまったく同じと思って良い。舞台はその時代の、架空のアーケードゲームが中心となる。


 2000年代後半からアーケードにてネット接続してプレイするゲームが発生し始めているのは実感として分かるだろう。


 ネットゲーム。古くは1974年、32人同時の通信対戦をサポートした「Spasim」というマイナーゲームに始まり、1991年にAOLがサービスを開始した「Neverwinter Nights」、1997年には全世界で300万以上の売り上げを記録した「DIABLO」、

あまりにも数が多いので省略するが、数々のネットゲームがリリース、またはサービスを開始された。


 そこから歴史は進み、家庭用ゲーム機でもネット接続が当たり前のようになった。

日本アーケード界では2001年に筐体とインターネットを連携させるシステムが開発され、2002年からはプレイデータの集計やオンラインアップデートのためにネットが使用されるようになった。


 2007年になるとPCを含むネットゲームではアクションやシューティング要素を含むものも普通になり──


──ここからが架空の話、鋼織世界クラスタの世界になる。


 非常に現実と似ていて、それでいて違うために、長い物語が必要となるがお許しいただきたい。


 最初に1つのアーケードゲームについて話さなければならない。


 2009年、ネットワークに本格的に対応されたアーケードゲーム基盤ベースにて、ゲーム開発会社であるブルー・フォレスト社が「ラインブレイカー」をリリースするところから物語は始まる。

「ラインブレイカー」とは、自らカスタマイズした機体と武器でネット上のプレイヤーとチームを組み、ただひたすらに戦闘するというシンプルなロボットゲームである。


 その「ラインブレイカー」だが、前評判としてはあまり期待されていなかったと思われる。何故ならロボットゲームというのはゲーム業界の新人がよく企画に出すテーマであり、家庭用ゲーム・アーケードゲームでは定番中の定番。それで大ヒットするとは到底思えなかったからである。大ヒットアニメを使ったゲームよりは人気は出ないだろうと言われていた。


 また「ラインブレイカー」はクレジットで「ゲーム内時間を買う」というそれまでのゲームとは違うシステムを取っており、1クレジットでのプレイに慣れていたアーケードゲーマーの不安を招いていたというのは事実である。操作形態もPCゲームのようなマウスで操作するというものであり、リリース当初はPCでもプレイできるタイプのゲームを、何故アーケードで金を払ってまでプレイするのかという声が強かった。10人対10人というのが一つの売り文句となっていたが、PCゲームではそれくらいの人数の対戦は当たり前で、特に目新しい所がない、というのが「ラインブレイカー」に触れる前のプレイヤーの意見だった。


 だが、その声は「ラインブレイカー」に触れた瞬間、すぐに覆される事になる。


 驚異的な中毒性を持っていたのだ。


 同系統のPCネットFPS・TPSよりもシンプルでわかりやすいタッチパネルインターフェイス。それまで必要とされていたストーリーを最初から削り、ネットでのチーム対戦に専門特化。コアという最終撃破目標物を巡っての攻防、プラントという場所の制圧でのエリア内移動。自分のプレイスタイルに合うように機体を改造し武器を持ち替え、ネットワークで日本中に結ばれたプレイヤー達による10対10の即席チーム戦が繰り広げられる。タッチパネルで指示などを味方に送れるが、チャットの種類が微妙に少ないために味方内での読み合いが始まる。「クレジットでゲーム時間を買う」というゲームにとってデメリットだと思われたそのシステムは、通常600秒だが目標物破壊にて短時間で終了する戦闘(試合)の関係で微妙なゲーム時間が残り、時間が足りないがもう1プレイだけ対戦したいというプレイヤーの心理を動かし、クレジットを追加させる。


 残りゲーム時間との葛藤。これまでのゲームで考えなくても良かった要素が入れられたのである。言うなればパチンコでの「もう千円つぎ込めば大当たりするはず」という金銭感覚の一時的麻痺に似ている。非常に良くシステムが組まれ、それら全てが機能していた。


 普通にゲームとして面白く、またアーケードゲームの特性である1プレイ有料と同一基盤と光ネットワークによる同条件がプレイヤーを本気にさせた。


 お金が平等でも不平等でも、上手いやつは上手く、下手なやつは下手。

 シンプルな原則。これはアーケードだから出来た事である。人気は瞬く間に全国へ広まった。


 同時期、より、2年近く前になるだろうか。2006年の冬。日本にて巨大掲示板群を運営していた管理人がとある動画サイトを立ち上げた。独自とも言える、コメントが任意のタイミングで画面に流れるように表示されるシステムがネットユーザーの中で人気になり、2010年には動画と言えばその動画サイトとまで言われるようになった。


 当然ながらゲーム関係も“ゲームプレイ動画”または“ゲーム実況動画”として大量発生する。プレイ動画に関して最初はPCゲームやPCに繋いだ家庭用ゲームが主だったが、その流れでアーケードゲームもハンドデジタルカメラで撮影したものが増殖。

 そんな中「ラインブレイカー」を含む2010年付近のアーケードゲームはモニタに繋いで観戦する事を想定して作られており、モニタに繋げられるという事は外部出力ケーブル経由して録画が可能であることを示唆していた。


 いつ、誰が、最初にやったのかはわからない。だが。


 2010年7月時点、その動画サイトでのアーケードプレイ動画を検索すると「ラインブレイカー」関係はいつの間にか1万を越えていた。2012年には3万を越えている。


 これはアーケードゲームのプレイ動画としてはトップとなる動画数であり、1日に20以上の動画が投稿されている。2010年から5年間「ラインブレイカー」がアーケードゲームで不動の地位を築いたのはこのプレイ動画の影響が強い。プレイ動画こそが最大の広告宣伝となりえるからだ。

 ゲームに関する情報が、雑誌・掲示板・ブログから動画へと変わっていった時代でもあった。


 百聞は一見に如かずであり、百枚の静止画は1つの動画に如かず。


 このプレイ動画の発生によって株を下げたゲームも少なくない。ストーリーに重きを置くタイプのゲームはネタバレになるからだ。ストーリーが浅ければ、それだけその浅さが露呈してしまう。


 掲示板の登場でもそれは起こっていたが、動画は一発でわからせてしまう威力がある。「ラインブレイカー」には建前上のストーリーしか無い。だからこそ、プレイ動画が宣伝効果となり得た。


 上手い人が次々と動画をアップロードし、動画を見た人がプレイや機体カスタマイズに反映させる。研究は繰り返され、「ラインブレイカー」プレイヤー全体のレベルが急速に上がっていった。


 2012年から物事は劇的に変わり始める。


 「ラインブレイカー」バージョンが1.6へ。新たなプレイポイントが追加された。組織的に複数人で動くとチーム全体貢献として3ポイントが与えられるように仕様変更された。例えばコア攻撃を通すのに一人が囮になるというプレイがあるが、その囮役にもポイントが与えられるようになり、敵のほとんどが自チームベースを急襲している時に誰かが敵ベース前プラントを取るとポイントが与えられるように変更されたのだ。


通称プラント奇襲と呼ばれる行為だが、それが味方プレイヤー全員にアナウンスされる。また囮役や前線維持にも。


「ラインブレイカー」の10対10の“組織戦”という要素に、より重きが置かれたのである。「ラインブレイカー」はチーム戦であり、決して一人では勝てないように調整されている。


 そして、プレイヤーの間で幻とまで言われた初期機体ブランドの3段階目が遂に使用可能になった。元々バランスが良いとされた初期ブランド機体の現時点での最終段階。それは他の機体を凌駕する性能を持っていた。


 もともと初期機体ブランドを使っているACEランクプレイヤーはこの3段階目を手にして鬼のようなプレイを見せた。


 同じ年の冬。


「ラインブレイカー」バージョン1.7へアップデート。


 全ての機体パーツ、武器性能、マップ構成が修正対象となりプレイヤーを驚かせた。特に産廃とされていた武器と不人気のマップ構成に大幅な上方性能修正が入った。


 目玉となったのは巨大兵器である。バランスブレイクとも言われる兵器を投入したのだ。


 BBSではバージョン1.7になってから話題が絶えず投稿され、一方、動画サイトには検証動画が数多くアップロード、そこから新たな兵装戦術が生み出された。


 アップされる動画数は更に加速する。バトル動画、検証動画、ネタ動画。


 この年、「ラインブレイカー」の関連動画数が35000を越えた。リリースから3年が経っても尚、その人気は衰えずBBSのスレッドは600を突破。リリースから約2年半、プレイヤーの間ではそろそろ「ラインブレイカー2」が出るのではないかと噂される。


 1.7からチャットが細かくなった事により指示系統がよりわかりやすくなった。


「ラインブレイカー」は一人でスーパープレイをやって見せても、自チームのコアダメージが大きければ全体として敗北とされる。


 そこでプレイヤーが考えたのが、チーム戦、言いかえれば“組織戦”で、どうやって勝利へと繋げるかである。


 最初は小さな動きだった。


 組織戦に興味を持ったプレイヤー各々が「組織」や「戦術・戦略」に関する情報を集め始めたのだ。ちょうど若い世代の間で「組織」というものに関して注目されてきた時期と重なる。MMORPGで仲間との輪を保つために組織論の基礎をネットで仕入れて反映するという動きが出てきたのだ。


 もともと日本人は島国という国柄が影響しているのか、組織で戦った時代(戦国時代・第二次世界戦争)を美化する傾向にある。そして日本人の特性として勤勉というのがある。日本が技術大国なのは勤勉さがあっての事だ。


 たかがゲームに組織論が反映されても、なんら不思議は無い。当然と言える動きかもしれない。


 組織論を覚えたプレイヤーが目覚しいプレイをし、その動画を簡単な解説つきでアップロードする。それを見た別のプレイヤーがまた組織戦について学び、反映させる。


「ラインブレイカー」プレイヤーを中心に、そのような新しい学習の流れが発生していった。


 学習は、学習を呼び込む。組織戦そのものから経済へ、戦争へ、各国の時代へ、人物へ。ネット時代だからこそ、ネットの情報は浅いのかもしれないが広範囲に情報はリンクされる。広範囲。例えばウィキペディア日本語版だけでも68万ほどの記事がある。これからもっと増えるだろう。


 誰も把握不可能な情報量。それがインターネットにて自宅から、ネットカフェから、携帯端末からアクセスできる。インターネットの情報は言うなれば雑多だ。嘘や事実ではない情報も多い。だからこそ立体的に情報を組み合わせて物事を見る事ができる。インターネットの海へ、雑多で猥雑なる情報の海へ。そして人は情報の海の泳ぎ方を知る。


 2000年代、ネットによって人が受け取る情報量が飛躍的に増加した時代。インターネットは影響を受けやすい未成年、主に高校生や中学生の思考マインドを変えていった。


「ラインブレイカー」はそのようなタイミングで登場した。

もっとプレイが上手くなるように、もっと組織的に動けるように。金は有限。だからこそ学習しなければ。そして、より多くの知識を取り込みたいとするネットユーザー各々によって、ネットを使った新しい学習方法が考え出された。


 その結果は、ゲームセンターとは全く違う場所、中学・高校・大学での学力テストに出る事となる。2010年から急速に学力を伸ばす生徒・学生が全国的に発生したのだ。特に進学校ではなく、普通・普通以下の偏差値の学校でその傾向は顕著だった。


 一部ではあったが突然の全国学力アップに教育関係者は困惑する。ゆとり教育での学力低下に悩んでいた教育関係者にとっては嬉しいニュースだが、何が作用したのかは謎であり要因を探る事になった。そして組織や戦術・戦略に関する本などが若い人を中心に売れている事を突き止めるが、購入動機が「ゲームのため」、特に「ラインブレイカーのため」というのが多数で、またも教育関係者は困惑する事になる。教育に悪影響とされていたゲームが学力をアップさせたという事実。


 教育関係者も半信半疑だったが、テストを重ねる毎に全国平均学力は上がっていき、認めざるを得なくなった。


 2018年の少し前だっただろうか。


 その「ラインブレイカー」を制作したブルー・フォレスト社内の動きとしては、「ラインブレイカー」企画開発者が「ラインブレイカー2」ではなく次回作となる企画を書いていた。



 コードネーム:「サテクラ(仮)」



「ラインブレイカー」の2ではなく「ラインブレイカー」のシステムを踏襲した別のゲームの企画だった。


 2015年か2017年に提出する予定だったのだが、その中身は2015年の時点では実現不可能な内容だったため、制作チームが偽の企画書を用意、ブルー・フォレスト社の上層部にプレゼンする事になる。


 上層部はリスクの少ない「ラインブレイカー」の続編では無く、後継である事に眉をひそめるが、元々「ラインブレイカー」はそんなに収益を上げないだろうという上層部の読みが良い形で外れて大ヒットにしたこと、「ラインブレイカー」の後継でプレイシステムは基本的に「ラインブレイカー」と同じであること、今度は24人対戦であることを受け、ブルー・フォレスト社上層部は“サテクラ”の企画を許諾する。


 24人と言う事は1つの戦闘で一気に3クレジット、300円を24人分奪える。

そして店のスペースに寄るが最大12×2、24台設置可能である。24台と言えばそれだけでアーケードゲーム店が開ける。


「ラインブレイカー」筐体は貸し出し制であり、筐体購入資金は安いが、1クレジット100円に対して30円が掛かる。


 簡単な計算をしてみよう。


 戦闘に必要なクレジットは1クレジット30円×24人分×1日に行われる戦闘数。


 この戦闘数を仮に200とした場合、1日で1440000円が収入として入る計算となる。


 1ヶ月で4320万円。1年で5億を越える。戦闘数が2倍なら、3倍ならと考えてみよう。ゲームセンターが午前10時営業の午後10時閉店として、時間にして720分。1戦闘は約10分。5分以内で終わる戦闘もあるが。つまり少なくとも72回分の戦闘が行われ、クラスが違えば箱と呼ばれるグループも違うので約5倍として360回。360回の戦闘×30円クレジット×24人×12時間=約311万円。それくらいは最低稼げる。それらを考慮すると企画を通さない筈が無かった。


 実際、昨年度では赤字決算の一因だったアミューズメント事業が「ラインブレイカー」などのリリースで営業利益を約14億円にまで伸ばした。開発資金は2015年から開発チームに渡る事になる。


 同年。山潟県(架空)の中核市である香佐市(架空:人口約60万人)にて大規模な人気同人シューティングゲームの二次創作イベントが3日間行われる。


 小規模コミケなどの二次創作イベントなどは各地でたまに開かれていたが、一つの同人ゲームの二次創作のみ、それも3日間連続というのは異例とも言えるイベントであった。山潟県香佐市は表現に関する規制がまだ少ない。これが数多の同人サークルを呼び込む事になる。


 数ある同人サークル、全員の香佐市への足(電車・バス・飛行機など)を用意したのも功を奏した。また深夜バスのラインや宿泊先のインフォメーションサイトを作り、来客者の誘導を行った。


 大都市でさえも人気同人ゲームのみで3日間のイベントを開く事は無いというのに香佐市は実行したのだ。この同人シューティングゲームを知らない開催側は誰もが失敗するだろうと思っていたが、蓋を開ければ来場者数は3日間で延べ43万人。香佐市で毎年行われる祭の観光者数の約3倍であった。


 会場はメインである「香佐Messe」の他、香佐市にあるイベントホール各地などでも行われ、周辺地域の経済を一時的に潤す事となった。イベント開催時は交通渋滞や会場でのトラブルなどが頻発したが、ゲームファンと香佐市住民との交流もまた行われ、香佐市住民はゲームへの理解を深めた。


 このイベント効果により、後に香佐市は「エンターテイメント産業特区」として国に申請する事となる。


 同年、開発会社であるブルー・フォレスト社がゲーム雑誌やゲームサイトの取材を受け、「これからは新武器や新マップなどの追加はあるが、大幅なアップデートはないかもしれない」と発言。


「“ラインブレイカー”はアーケードであり、新作を期待するゲーマー達のためにいつかは席を外さなければならない」

「最終アップデートはバージョン1.9。予定では1.8は今年の冬、1.9は2年後になる予定」


 これが憶測に憶測を呼び「ラインブレイカー2」が出るのではないかという噂が飛び交い、BBSの「ラインブレイカー要望スレ」というスレッドでは、何人ものプレイヤーが要望を書き込むという事態が起こった。


 公式では炎上というネットでの失言による信用低下スパイラルを恐れ、BBSなどなかったからである。


 だが、一人の男がいた。


 それはブルーフォレスト社の広報でありながら、2chやニコ動向けに発言してしまう、「ラインブレイカー」担当でありながらヘタレプレイなために皆に愛された、最強の広報担当。


 名前は伏せるが、噂では頭に牛の角を付けているらしい。その男が裏で、見えないところで、皆の意見をブルーフォレスト社に繋げた。繋げないまでも皆の意見というのは把握していたのだが、牛の角を付けた最強の広報担当の情熱に負け、本来は数ヶ月先に出すはずの情報を公開した。


 この事態に対し、ブルー・フォレスト社は「ラインブレイカー2ではないが後継となるゲームは計画されている」とネット上で発言。


 そして「ラインブレイカー」後継ゲームについても言及。



──“ラインブレイカー”の後継。“ラインブレイカー”から生まれし異端なる私達の子供。

──私達はその子供に“サテライトクラスタ”と名付けました。



 その発言に、プレイヤー達はネット上で様々な反応を見せた。


「ラインブレイカー」がシリーズにならず終わるのは間違いないが、その遺伝子を継いだ後継ゲームが出る。


 プレイヤーの反応は割れた。組み換え自由なロボット+アバター+自由なプレイヤーネームを重視するものは「ラインブレイカー」継続派、新しい「ラインブレイカー」の次が見たいものは「サテライトクラスタ」派である。「ラインブレイカー」継続派としては「ラインブレイカー」は完成しているゲームで、そのラインを壊さなくても安定だからヴァージョンアップは歓迎するけれど、何もかも新しくなるのは不安、という意見が多かった。またPS4で「ラインブレーカー」が出るとの噂もあった。


 しかし全体的に見れば1.9を待ちつつ「サテライトクラスタ」を待つという意見が多数派であった。それだけ「ラインブレイカー」がゲーマー達に愛されていた証拠でもある。


「サテライトクラスタ」というタイトルが何を意味するのか、プレイヤーによる予想が始まる。


 2013年、

 山潟県の香佐市が「エンターテイメント産業特区」の計画を制作、後に国に認定申請し認められる事となる。


 意外な程に早かったのは、大地震が発生した場所というところがあったのかもしれない。復興手段として3日間イベントが作用し認められたという事でもある。


 元々は「ゲーム特区」の計画だったが、ゲーム単体では審査が通りにくいと判断しエンターテイメント全体を取り込んで申請。国の教育関係者がゲームの教育効果を調査している時期と重なったため、データ収集目的で認可された。


 東北の小さな市ならば他への影響も少なくて済む、国はそのような考え方だった。

香佐市では「エンターテイメント産業特区」に対して地域住民による反対の声も強かったが、2012年の人気同人シューティングゲームの二次創作イベントによる経済効果も無視できなかった。


 周辺の商店・飲食店・宿泊業を巻き込んでのイベントだったため、その経済効果は多岐に渡る。反対の声をイベントでの経済効果で押し切り、一種の賭けとして国に「エンターテイメント産業特区」を申請したのだ。


 それが意外にもあっさり認められて、香佐市、主に市議会議員は困惑した。


 ある香佐市議会議員の息子が「『ライブレ』だよ」と言った。


「『ラインブレイカー』の次のゲームがもうすぐ出るんだ。」


 ゲームをやっていない者には分からなかったが、それは確信めいた言葉だった。


 その市議会議員の息子とは3日間の人気同人シューティングゲームイベントを企画、広範囲に交渉に交渉を重ね、広い人脈や親の力も借りて強引に実行した恐るべき青年として知られる。ネット上には名前が出なかったが香佐市役員の間や二次創作イベント関係では良く話にこの人物が出されていた。エンターテイメント産業特区の計画も、元はこの人物が関係している。


 名を矢上建一郎と言う。


 どうやって3日間ものイベントを計画・実行したのかは本筋ではないのでここでは書かない。まあ、親が市議会委員という事もあり比較的裕福な家庭で、普通の家庭より多い小遣いを使ったのは間違いはない。


 ちなみに2013年も昨年同様の同人ゲームイベントが3日間行われ、来場者数は3日間で延べ46万人となった。


 昨年と違うのは地域商店・商店街などがイベントに協力したという事だ。最もイージーなのは同人ゲームのキャラを使ったキャラものの食品の販売だが、それは一時的、というか突発的にネットで流行るだけである。


 矢上建一郎は各地を回って、事前にこのようなイベントが行われるので、協力できませんかと周り、商品開発を進めた。前年の例もあり、協力者・地元企業、その他もろもろは更に増えていた。そうして地域商店・商店街ではイベントに合わせた商品を用意し、それがイベント来訪者にウケた。


 スタッフも昨年のデータ・トラブルから対応策を持ってイベントに当たり、ネット上のネタとなる騒動としては昨年より減少する。


 今年度のイベントで特に注目度が高かったのは同人ゲーム開発者の3時間に渡るロングインタビュー(録画)であり、この映像は転送され各会場内限定として流された。使われた液晶モニタは全会場で100を越える。モニタは一時的に周辺地域から有料あるいは無償で借りたものもある。


 ネットを使っての転送だったので転送URLの流出による大規模アクセス、それによるサーバーダウン(映像ストップ)が懸念されたが、その辺はデリケートに隠したので問題は無かった。


 このモニタではインタビューの他にインフォメーションや広告、ゲームの音楽や映像が流れ、動画サイトで700万回再生されたリミックス曲が流れた時は各会場で大歓声が起こった。


 ネット生中継も用意。利益の数%を香佐市復興に回すという事で通常より安価でニコ動公式での枠も取得。


 酷いのはネット生中継で初めて紹介されるレア商品もあり、全国のゲームファンを動かした事だ。


思えば香佐市の変化はここから起こっていたのかもしれない。


 そしてイベント終了後はゲームファンが積極的に清掃ボランティアとして会場周辺の掃除を行い、その様子はネットにて色々な形で中継された。


 後にイベント開始から終了までの映像や開催に向けての講座的な動画も公開され、注目を浴び続けることになる。


 この頃から香佐市の賃貸マンション・アパート業に変化が生じはじめる。

 来年も開催が約束されたイベントのために香佐市外から香佐市に引っ越すという動きが出始めたのだ。


 表現規制を掛けた東京から香佐市へ。ネットインフラは既に用意されている。

 派生する動きとして香佐市内の飲食店・書店・レンタルDVD店・ゲーム屋・ゲームセンターの売り上げが増加。予想してなかった動きとしてアニメ映画を騒ぎながら見るというのもあった。つまり震災で受けたフラストレーションを解消する場所。その諸々のデータは親が市議会議員という矢上建一郎に集められ、ネット経由である人物へと届けられる事になる。


 香佐市のイベントを計画した矢上建一郎からネットで繋がる人物、そこにブルーフォレスト社の社員が居た。近年の香佐市の動きは全て矢上建一郎からからブルーフォレスト社の社員に伝達されていた。矢上建一郎が親経由で手に入る情報、全てである。



 本来なら出会うはずのない人と人がネットによって接続される。



 科学反応が始まる。



 付き合いの始めはそう、2009年。大災害の前。最初はゲームのファンという事で繋がった。


 この部分は本筋とは関係ないので省略する。


 話は戻る。


 この同人イベントを企画した香佐市議会議員の息子から情報を聞き、『ラインブレイカー』について調査を行った香佐市は、その教育効果も知ることとなる。結果はもう出ている。遠くでは学力テスト、近くでは2回開催された3日間の同人ゲームイベント、そのスタッフの統率力。


 手品はスマートフォンでの命令伝達にあった。簡潔でわかりやすい命令だと人は動きやすい。問題がある所に人員を集中させる事ができた。


 香佐市では市の中心である野幌町(架空)にて高等専修学校を建設しようと動いていたところだった。人集めの観点から市はこの高等専修学校をゲーム関係の学校にすると決定。


 その客集めの目玉を何とするか。


 情報によるとブルー・フォレスト社が現在計画・制作している『サテライトクラスタ』があるという。香佐市市長はゲームの内容も何も知らなかったが、自らブルー・フォレスト社に出向き、香佐市にて『サテライトクラスタ』のβテストを行いませんかと計画書を持って提案。


 その計画とは来年新設工事予定の高等専修学校をゲームをカリキュラムに取り入れた学校とし、主に『ラインブレイカー』そして『サテライトクラスタ』を扱いたいという内容に始まり、現在香佐市全てのゲームセンターでの大規模βテスト、そして日本はもちろん世界各地のゲーマーを招致、支援を行うというもの。


 ブルー・フォレスト社は上層部は当初、企業ゲーム発表イベントのブースや一部ゲームセンター店舗にて小規模にβテストを行う予定だったが、香佐市のこのぶっ飛んだ計画に賛同、協力する事となる。


 正確に言うと賛同したのは会社側ではなく『ラインブレイカー』『サテライトクラスタ』制作サイドの社員だったが、『ラインブレイカー』というタイトルの影響力があまりにも大きく社員の声を受け入れざるを得なかったのだ。


 この次の日からブルー・フォレスト社の社員が香佐市で動く事になる。


 その裏側。


 この計画内容は全て、矢上建一郎とブルーフォレスト社のある社員とで極秘裏に話し合われ、作成されたものである。つまり、仕組まれていた、ということになる。


 香佐市議会議員の身内とブルーフォレスト社の社員がネット上で繋がってるなど、誰も思わなかった。想像さえもできなかっただろう。その虚を突いたのだ。


 計画が動き始める。本当の復興計画に向けて。


 同年、冬。


『ラインブレイカー』が予定通り1.8にバージョンアップ。


 しかし、基板の限界が近づいていた。リリース当初はネット対戦アーケード基盤として最先端を行っていたが、2013年ではもう他のゲームの基板より劣っていた。それでも2013年も人気があるのは同一基盤と通信網が全て同じで、プレイヤーの技術差がモロに出るところにあったのかもしれない。そしてデータを貯めていくという事は初心者との格差を生み出してしまう。救済策はいくつか取られたが、それも限界に来ていた。


 2013年、秋と冬の間。大きな動きが起こる。


 ブルー・フォレスト社が香佐市の土地を購入、建物を建設し始めたのだ。


 ゲーム業界ではブルー・フォレスト社の本社移転か支店が出来るとの噂だったが、建物が作られていく内に、実際には直営のゲームセンターだったと判明する。


 それも『サテライトクラスタ』だけの。たった一つのアーケードゲームのために? とゲーム業界ではバカ話として伝わっている。


 しかし『ラインブレイカー』のプレイヤー達は違った。『ラインブレイカー』の収益を知る人も、見る目が違った。


 建物の大きさ、構造、予想される現実的な筐体の大きさから最大何台置けるかを3Dモデルで計算したプレイヤーが、最低でも40台~60台近くではないかという予測を出したのだ。『ラインブレイカー』を置いているゲームセンターでも様々な関係で2台~8台であり、8台を置いているゲームセンターの5倍という予測にブルーフォレスト社の本気を見たのだ。


 ありえない台数。それも一つのゲームだけの。


 写真を分析すればあらゆるメディアに対応した録画機材も揃っている。狂ってるとはBBSでの言葉だが、それは褒め言葉である。プレイ録画が新たなゲームセンターのファクターになっていた事の証明でもあった。


 ブルー・フォレスト社としては『サテライトクラスタ』を全国展開すれば“どうせ”『ラインブレイカー』と同等の収益があるので、ゲームセンター一つ作るくらいは“軽い”と思っていた。『サテライトクラスタ』が失敗しても、何かしら収益を上げる手段は残っている。“それでもだめなら『ラインブレイカー2』を作ればいい”そのようにブルー・フォレスト社上層部は思っていた。


 社内にとんでもない裏切り者がいるとも知らずに。


 ゲーム高等専修学校も急ピッチで建設され始めた。復興の礎の象徴だからだろうか、建設会社もやる気になっていた。建設デザインにはブルー・フォレスト社が関わっている。


 建設図に関してはある人物が関わるが、今は関係しないので省略する。


 中身である授業内容や講師もブルー・フォレスト社が関わった。俗に特別講師と呼ばれる人を招きまくったのだ。


 高等専修学校の特徴として授業に偏りがある事は事実だが、高等専修学校(高等科を置く専門学校を含む)から大学へ編入学する場合、法律による条件をクリアすれば日程の許す限り国立大学を何校でも受験できるという制度がある。つまりセンター試験が無いのだ。(平成10年6月12日法律第101号)


 もちろん高等過程を終え、センター試験を受けて大学に入学する事もできる。ゲーム高等専修学校が本当に認められるためには高学歴大学とされる大学の合格者を出さなければならない。ブルー・フォレスト社はその事も見越して学科や授業内容を組んでいった。


 同時期、ブルー・フォレスト社とも関わるゲーム開発会社がネットでモニタ同士を結んで映像広告を流すというシステムを開発。ゲームセンター内での映像広告の効果を狙ったもので、その元のアイディア・モデルは昨年・今年と行われた香佐市同人ゲームイベントでのモニタ中継である。導入費用が安く、効果も高いと実証されている事から全国のゲームセンターがシステムを導入する。


 この会社は後にICカードによって誰がどのゲームセンターにいるかを検索できる機械・システムも制作している。ゲーセンに入り、カードをかざす、それだけでログイン情報がインプットされる。これでソーシャルハックとは言えないが、プロゲーマーを追える。


 仲間がどのゲーセンにいるかどうか、それにプロのゲームプレイなら誰もが見たいだろう。それでこのシステムは普及した。


 この年、「ラインブレイカー」のバージョンは1.86になり、


「ラインブレイカー」のプレイヤーはラストバージョンである1.9が来年作られるのではないかと予想した。もしかしたら2.0かもしれない。最近のブルー・フォレスト社の動きについて取材が相次いだが、特に注目すべき発言はしていない。裏では最新技術を取り入れての基板開発が進んでいた。


 香佐市では市長選挙が行われた。立候補は前任者含めて4人。前任者は軽い不祥事が明るみに出た事もあり、新しい市長にはこれまで市長選挙で負けていた2番手の立候補者が選出された。


 皆、口々に言うのは、あの子が市長なら、という事だった。あの子とは、矢上健一郎を指す。震災で最も動いた人物。被災者一人一人に声を掛けて、自分がまだ若すぎる事を悔やんで涙ながらに語った人物。


 それは数年後、実を結ぶ。


 2014年、春。それは突然だった。


 全国のゲームセンターを結んだ液晶モニタ、そのスピーカーから、機械的な女性の「サテライトクラスタ」という綺麗なボイスが聞こえ、全国の、その場に居合わせたゲーマー達が何人、モニタの方へと振り返っただろうか。


 一日だけの、120秒コマーシャル。


 それだけで十分だった。時間帯をずらして5、6度流すだけでよかった。


 ずっと、待ち望んでいた、もの。


 何もかもアーカイブされる時代になったからこそ、一度だけの限定が生きる。その一度だけの限定情報を得た者、得られなかった者で差が生み出され、想像される。


 考えてみれば最初から仕組まれていた事だった。


 ネットでモニタ同士を結んで映像広告を流すというシステムを開発したゲーム会社。


 そこにブルー・フォレスト社が関わっていた事。


 コマーシャルが流れたのは1日に5、6回で、ゲーマーたちはその興奮をネット上の各地で伝えるものの、どのようなコマーシャルだったのか、説明するのは難しかった。


 情報量がとても多かったからだ。


「ヤバいヤバいヤバい、何がなんだかわからないがとにかヤバい」

「何が起こってる? 俺の妄想だと思われたくないからとにかく誰かに確認したい」

「え、何よ? とりあえず精神リペアしろよ」

「『サテライトクラスタ』のCMが流れた」

「どの局よ?」

「テレビじゃなくてゲーセンにあるモニタ広告のアレで、いきなり流れた」

「事前情報あったっけ? …ん? マジで?」

「本当に誰か、見たって奴いたら書き込んでくれ、頼む」

「うわ、報告しようとスレ見たら、先書かれた。今ゲーセン内ちょっとザワザワしてる」

「あああああああ!!いた!よかった!」

「今、SNSの友達に電話掛けまくってそんときゲーセンに居たか確認中」

「…ちょっと待って、それ、マジな情報なん?」

「いや、もう何人か見たって言うんだから… マジか。今ゲーセンに行くけど流れてる?」

「流れてない。でも見たって奴がいるかもしれない」

「行ってくる」

「を、ツイッターでも騒ぎ始めたな」

「とにかく、どんな内容か教えてくれ」

「情報多すぎる。とりあえずBGMは爽やかなトランスミュージックで、イントロでもう肌がザワっとした」

「一言で言うと機械少女や少年が妖精のようにブーストで空飛んでた」

「見れんかった(´・ω・`)」

「どうして教えてくれなかった青森ェ… 俺そんとき家に居たよorz」

「漏れ漏れもorz 何だこの後悔は…」

「東○やボー○ロイドに近い?空中戦すげえ綺麗なのな。弾飛んでるだけで感動」

「やっと産廃産廃言われてたチビバスの出番がやってきたな」

「地雷涙目だなw」

「機雷とか移動型誘導地雷になるんじゃねえの?」

「先生が歩く日が遂に…!」

「とりあえず広域センサー無い事を祈りたい」

「見てないんだけど今回アバター無しの機体で髪やら何やらのカスタマイズ可能って認識でおk?」

「アバターあったぞ」

「アバターと機体デザインで幾らボッタ来る気だ…受けて立とうじゃないか」

「汚染者が… 俺も財布リペア作業に入る」

「ん? んん? 今回人型なんだよな、2mくらいの。人乗れなくね?」

「遠隔操作って設定じゃねえの? ライブレだって大破したりワープしてたじゃねえか」

「広域センサーカウンターみたいな映像なかった? 機体が目を瞑って周囲確認するやつ」

「邪気眼!? そんなんアリか? …アリです。そういうの超好きです。」

「誰か情報まとめれ」

「とっくにやってる。情報が断片的すぎてどうまとめていいかわからん」

「とりあえず全部そのままコピペでおk」

「というか武器が無い?」

「無いっぽいというか、撃つときに出てきた感じか。魔法か?」

「魔法ファンタジーにしてはメカメカしいよな」

「見てないんだけど、電コイみたいな世界観?」

「あー、それっぽいな。それよりもっと未来感ありまくりだけど」

「洋楽のさ、ビョークの機械同士がいちゃつくPVあるだろ? あれに近い感じがするけどどう?」

「機体デザインは確かに近いよな。つか最初人間!? と思ってびっくりした」

「ビョークのアレというかBadAppleに近いモデルだったな」

「ところでその映像どこにあるんですか…動画サイト周りまくったけど全滅…」

「いきなりだったし誰も録画してねえというか、あのゲーセンの動画広告って基本録画禁止だろ」

「機体に二十四節気の名前付いてたのは分かった。春にして初春とか」

「ジャッジメントですの」

「4期作られねえかな」

「でもPC名と違ったよな。ランクとPCはライブレと同じなんだけど、機体名?」

「違うって、名前の所に“なんたらにしてなんたら”ってさ」

「属性? よくRPGで火とか水とか」

「違うよ。全然違うよ」

「あ、クラスタだからクラスなんじゃね?」

「クラスタとクラス意味全然違うじゃねえか」

「操作形態はライブレとあんま変わりないっぽい? まあそこ変えちゃうとダメになるし」

「各兵装? が、あるのかわからんけど懐かしの慣性移動復活してたな」

「ACで?」

「いや、普通のブーストで」

「なにそれこわい」

「処理速度がライブレと格段に違うから新しい基盤使ってるのか?」

「150万行きそうな感じだな。全国のゲーセン筐体買う金あるかねえ」

「つかAL3.NET大丈夫かよ。処理しきれんだろ」

「今稼動しているAL3のゲームいくつか潰さなければならないレベルだよな」

「いや、俺、あのCM最初から見たんだけど、AL3.NETのクレジット表示無かった」

「どういうこと?」

「AL3.NETサービス使ってないと言う事は確か」

「契約結んでないだけなんじゃね? と言う事は貸し出しも無し?」

「5クレで150円税ってのがそもそもおかしいんだよ」

「いやそれ言うなら時間買うシステムがだな」

「生臭い話はいいんでCMの内容教えれ」

「あのさ、見間違いかもしれないけど、一瞬、美鈴ちんが映ってなかった?」

「あの黄色のポニテ?」

「え、マジで?」

「ほら、あの30秒あたりのところで女の子がくるくる回ってたろ? あいつだよ」

「いやー違うだろ。まさかなー」

「絶対そうだって」

「開発の人がお遊びで入れたんだろ」

「いや、でもさ、曲がりなりともエロゲのキャラだろ? ありえねえって」


 その、まさかだった。


 エロゲー界に於いて伝説の泣きゲーとまで言われ、今も尚、不動の人気を持つエロゲー。ゲーム自体は14年も前に発売された。アニメ化もされ、その最終回は今も語り継がれる。ブルー・フォレスト社は神咲美鈴というキャラが出てくる18禁ゲームの会社とキャラ使用契約を結んだのだ。コマーシャルが流れた日の翌日、ブルー・フォレスト公式サイトにて開発者の言葉と共に明かした。


「神咲美鈴に、もう一度、空を飛んで欲しかったんです」


 これが、エロゲ民を動かした。

 もう一度、美鈴ちんに会える。新しい形で。


 アーケード板の住民はエロゲ民を気持ち悪がったが、アニメを見ている住民は違った。とにかくアニメかそのエロゲをやれ、そうすれば開発者の言葉もわかる、と。「アニメかそのエロゲをやれ」とは文章として間違っているが熱意は伝わる。4日後、「サテライトクラスタ」スレッドにはアニメで号泣したという感動レスが相次いだ。


 ちなみにその中には紙飛行機を飛ばす画像を貼り付ける者がいて、それがきっかけとなり、美鈴ちんを想って紙飛行機を飛ばす小規模オフも行われた。少々気持ち悪いが、パンツ型のゴム動力羽ばたき式飛行機が空を飛ぶオフ会よりかは、まあマシと言える。


 2014年にはこの「サテライトクラスタ」コマーシャル事件があったが、他には取り立てて特に書くこともない。ただ、香佐市のゲーム高等専門学校が建設会社の熱意で急ピッチで建設され、ブルー・フォレスト社の直営ゲームセンターが完成、ブルー・フォレスト社の社員が香佐市のゲームセンターを回り、極秘内部情報として香佐市全体のゲームセンターで2年後に大規模なβテストが行われる事、そして1店で最大12台設置可能という事をリークしていた。なぜこの時期にリークしたかというとゲームセンター側の資金を溜めさせるためだ。ゲームセンター側に資金が無いと、当然、筐体は売れない。


 大ヒットの次のゲーム。それはゲーセン側も期待していた。βなら値段も少し安い。


 外に情報を漏らしたのなら、香佐市全体のゲームセンターがβテスト・ネット接続対象外に、そして現在稼動している「ラインブレイカー」他、ブルー・フォレスト社が関わるゲーム全てがネット接続対象外になる。


それくらいの些細な動きがあっただけである。


 2016年、香佐市のゲーム高等専修学校建設が70%ほど終了する。


 そして早速、入学者募集要項の情報が公開され学校説明会が行われた。2017年の4月からゲーム高等専門学校を開校する事に決まったのだ。これには「サテライトクラスタ」βリリースの関係もある。ブルー・フォレスト社が関わっている事はまだ極秘情報として扱われ公表しなかった。


 ゲーム高等専修学校側は学校説明会にて「ゲームを通じて物事を学ぶという学校であり、ゲーム会社へ就職するための学校ではない」という曖昧な説明をしたため、学校説明会に来ていた中学卒業予定の生徒側、特にその親達は混乱する。

また、入学試験は時間無制限:文字数無制限の「作文」であり、辞書やメモなどを持ち込んでも良いというもの。


 この入学試験にもブルー・フォレスト社が介入しているが、それもまた極秘情報だった。これが常識的な親・学生:生徒側の不安を煽り、入学希望者の低下を引き起こすことになる。


 一部では「楽そう」「同人ゲームのイベントのために引っ越す言い訳が欲しい」という理由で入学希望する者もいた。入学希望者の低下については高等専修学校という仕組みが表面ばかり取り上げられ、一般的に浸透していないのも原因の一つとなった。


 高等専修学校と専修学校には法律的に明確な違いがあるが、混同しやすい。専門学校や高等専門学校ともまた違うのだが、やはり混同しやすいのには変わりは無い。

新しく実績が無い学校。高等専修学校であるが、扱うのはゲーム。就職の実績はまだ無い。


 わかりやすいエンターテイメント業界であるゲーム関係に就職希望する若い人は多い。しかし、東北の山潟県のゲーム高等専修学校に入ったとして、就職口はあるのか。こうしたマイナス要因が積み重なり中学卒業予定者の入学希望者は低下することになる。


 ブルー・フォレスト社はこうした動きを読んでいた。


 狙うべきは、中学・高校で適応できず不登校・中退した者。フリースクールに通っている者だったからだ。勉強をしたいが何らかの心因的原因で学校に通えないという者を取り込み、それらの者が居心地の良いと感じる空間を作る事を目的としていた。

そのためには初年度、学校社会に適応できていた者を何割か落とさなければならない。混乱を招くような学校側の説明も、ブルー・フォレスト社側が全て台本を用意していた。


 そして実際、初年度入学者は募集定員に対して定員が少ない定員割れを引き起こす。しかしそれは公表していた募集人数と実際に入れる人数が違うためであり、予定通りだった。


 定員割れと言っても誰でも入学できたわけではない。学校側の募集数に対して入学希望者は50人ほど上回っていた。


 入学試験は時間無制限(1日):文字数無制限の「作文」。しかし、作文にあるべき課題である「テーマ」が提示されないのだ。何も書かれていない原稿用紙が一人何枚か配られ、そして入学試験時にて、初めてブルー・フォレスト社が関わっており、社員が試験会場にいる事が告げられる。


 入学試験時の学生の驚きとショックの声は大きかった。


 試験は「作文」を書けという課題で明確なルールは無い。試験中に誰かと話をしても、途中退席して外に行っても良い。その事に気づいて行動できるか、最終的に作文が書けるかという試験だった。


 試験会場内は幾つもの監視カメラが設置されており、その映像はブルー・フォレスト社へと中継されているのだが、これが心理的トラップとなる。カンニングや抜け出し防止のための監視カメラだと誰もが思うからだ。心理的に行動が制限される中、動けるかどうかも試験の内に入る。


 試験開始前の受験生の質問も想定されていた。ブルー・フォレスト社に関する質問はもちろんだが、試験内容に関わるような、「試験中に外に行っても良いのか」等のいわゆる学校遠足でのバナナ=おやつ的な質問である。そのような質問に対し試験官は「貴方が良いと思うなら、どうぞ。責任は取りません。」と冷たく答える。これも下手な動きはできないという心理的トラップとして作用した。


 課題は「無題での作文」である。ルールは無い。だが、この課題の真は「何を一生懸命に書いたか」にあった。何をしても、何を書いてもよかったが、作文の出来、どれだけ力を注いだかというのは見ればわかる。それをチェックし、課題に対して真摯な姿勢で臨んだ者だけが選ばれた。


 試験中に理由を付けて外にでた受験者が、香佐市のゲーム高等専修学校にブルー・フォレスト社が関わっている事を携帯WEBにて伝えた。雪の季節、2016年の春のコマーシャル事件から約2年。「サテライトクラスタ」に関する情報がやっと外に出たのだ。


 ゲーマー達の目の色が一気に変わっていく。


 ゲーム会社が出資しているゲーム専門学校というのは少なくなく珍しくは無い。しかし高等専修学校と言う事は通常の高校教育も受ける事ができると言う事で、専門学校とは一線を画す。


 どのような教育が行われるのか。そしてブルー・フォレスト社直営のゲームセンター。


 香佐市で何が起きているのか。香佐市に何があるのか。ゲーマー達の脳裏に香佐市という存在が刷り込まれる。


 ちなみにこの情報を最初にリークした受験者は合格した。一旦家に帰りノートPCと辞典とスマホを試験会場に持ち込んだのだ。


 一部2017年の話になったが、2016年はさして大きな動きは無かった。

3年目となり恒例となった香佐市同人ゲームイベントも無事終了、香佐市は同人に理解があると香佐市での小規模コミケが何回か行われた。


「ラインブレイカー」もマップや武器を追加。現行バージョンは1.87。静かな年だったと言えるが、全てが2018年の香佐市のゲーム高等専修学校入学試験での事件に繋がっていたと言える。


 後に2017年はブルー・フォレスト社に関する日本ゲーム史に於いて、沈黙と暗躍の年と言われるようになる。


 2017年、香佐市立ゲーム高等専修学校入学試験の数日後。「サテライトクラスタ」のβバージョンが完成する。「ラインブレイカー」で使われていた基盤ベースではなく、最新技術を駆使した新しい基盤にて作られた。ネット上で動く事も確認、いつでも動かせる状態だったが、「サテライトクラスタ」はゲーム筐体だけのゲームではなかった。


 カスタマイズ専用のソフトがあったからである。PC上で動かすカスタマイズ用のソフト。機体データやシミュレートを行うソフト、武器カスタマイズを行うソフト、防具となる服を作るソフト。これらがあって、初めて「サテライトクラスタ」は完成されたゲームとなる。


 開発チームはこれらのソフト開発に取り掛かっていた。

同時期、ブルー・フォレスト社が香佐市の全ゲームセンターにて大規模なβテストを行うと発表。


これが大きな波紋を呼ぶことになる。


 どうして今までロケテストで使っていた店を使わないのか。それに対しブルー・フォレスト社は地震を理由にした。誰も何も言えない理由である。


 カスタマイズソフトも完成、何故か筐体より先に販売された。当然、P2Pネットワークに流れる事となるが、単なるカスタマイズソフトであり、ICカードを持ち、ゲームにID登録しなければその全機能は使えない。また、βテストに合わせたソフトであり、バージョンアップのためにはソフトに同封されたID番号にてオンラインアップデートをしなくてはならない。


 結局P2Pネットワークに流れたソフトはただ持っていても無駄となるが、「サテライトクラスタ」に早く触れたいゲーマーはとりあえずダウンロードし、新作に触れる気分を味わっていた。


 3月下旬、遂に「サテライトクラスタ」筐体が香佐市の全ゲームセンターへ販売、運ばれた。


 ブルー・フォレスト社にはゲーム関係の雑誌やサイトから取材の申し込みが相次ぎ、香佐市周辺のゲーマーはゲームセンターに運ばれ設置された筐体を見に行き、写真で情報をネット上にアップした。


 電源を入れても、その筐体は稼動しない。


 ネットに繋ぎ、バージョン0.1となるβバージョンをダウンロードしなくてはならない。


 それがいつになるのか、ゲーマー達は「ラインブレイカー」や他のゲームをやりつつ、予想し合った。


 4月上旬、香佐市立ゲーム高等専修学校入学生徒を対象に学校案内が行われる。

学校案内はこれまで入学希望者のために何回か行われたが、いくつかの場所・教室は内装工事中として関係者以外立ち入り禁止と限定されていた。そのエリアが解放され、生徒達がコミュニティホールに入ると、稼動状態となった「サテライトクラスタ」の筐体があった。


 音が鳴り、コミュニティホール全体が振動し、筐体では映像が動いていた。

休憩用と思われる各テーブルには鉢植えの花のように小さめの液晶モニタがいくつも繋がれている。


 わぁ、と湧き立つ生徒達。この時はまだ生徒ではなかったが。


 そのスペースの中心、円柱を取り囲むようにして三角に設置されている、一際大きい液晶モニタにオープニング映像が流れる。2016年の春に一度だけ流れたコマーシャルの、完成映像だった。


 中央のテーブルに座っていた男がコミュニティホールに集まった生徒達を一瞥し、気だるげに言った。



──ようこそ、架空によって鋼の魂になろうとする組織へ。



 学校の教員によってその男が紹介される。


 ブルー・フォレスト社の「ラインブレイカー」そして「サテライトクラスタ」の企画・。開発者、奥村秀明。これまで一切表に出なかった、「ラインブレイカー」の本当の企画・開発者。矢上建一郎から香佐市の情報を受け取っていた人物。


「まあ、立ち話もなんだからそこら辺に座りなよ」


3日後、香佐市立ゲーム高等専修学校入学式が行われる。取材は全てシャットアウトして行われた。


 4月20日午前0時、香佐市の24時間営業している全ゲームセンターが一斉に「サテライトクラスタ」ネット接続開始。


 24時間営業のゲームセンター、これは正確に言うとゲームセンターではない。これにはシングルロケという風俗営業適正化法の規制を抜ける営業形態が関係するが、詳細は書かない。ただ、ゲーム機の設置面積が10パーセント未満であれば、アーケードゲーム専業店では必要とされている警察の許可を得ずとも営業が可能という法律のルールがある。


 24時間営業のゲームセンター、その実は、ネットカフェやダーツ・ビリヤード場運営の形を取っているということだ。


 ブルーフォレスト社の直営ゲームセンターは24時間営業ではないのでネット接続は明日の営業開始時間からになる。


 どこから情報を聞きつけたのか、ゲームセンターには沢山の人が集まっていた。高校生と思われるゲーマーもいたが、この日ばかりは皆、黙認した。


 誰かが、というかほぼ全員が映像録画機材を持ってきており、「サテライトクラスタ」に繋いでいた。「サテライトクラスタ」の最初の起動映像を録るためだった。


 バージョン0.1ダウンロード開始。


 コマンドプロンプトのような黒い画面に白い文字のコードが次々と走り、5分ほど経っただろうか、それは突然、物凄い速さの映像に変わる。故障かと思われた瞬間、


「助けて」


 一瞬だけ表示された文字と共に声が流れる。


 コマンドプロンプト画面と映像が次々と切り替る。


「貴方が憎い」


 一秒間に8回切り替る映像の中に、桜の映像が。


「殺したい」


 一秒間に8回切り替る映像の中に、少女がもう一人の少女の首を絞める映像が。


「助けて」


 一秒間に8回切り替る映像の中に、夜の桜、その木の下で眠る少女の映像が。


 その場に居たダメ絶対音感を持つものが気づいた。


 機械的な音声フィルターを通しているが神咲美鈴の声だと。


「ベータテストは正常に行われます。──とても、正常に。」


 店内BGMが流れる中での10秒ほどの静寂。そして我に返ったようにざわめきが起こり始める。俺達は今、何を見たんだ? という、そのような驚きだった。そしてアーケードゲーム筐体「サテライトクラスタ」は起動した。オープニング映像が流れる。遂にβテストが開始されたのだ。


 運良くプレイ順番で1~8番になったプレイヤーがICカードを購入し、お金を入れ、筐体にカードを差し込む。


すると、あるメッセージが画面に表示された。



──はじめまして、そして、おかえりなさい。



 真夜中だというのにゲームセンター周囲にまで響き渡る歓声が上がった。


 録画担当のプレイヤーの一人が、起動までの映像を録画したデータを直ぐにUSBメモリやディスクにコピー。ノートPCやDVDレコーダーなどの録画機材を持ってきたのは一人ではなかったので、映像は瞬く間にコピーされ、その場に居た全員がコピー映像を求めた。


 一方ではノートパソコンで映像ファイル変換し動画サイトに流そうとファイル変換を始めている。ネット接続環境はゲームセンターの一階、ネットカフェにある。ファイルを変換してそこから流すのだ。ネットカフェにはオープン席があり、プレイ待ちに一時間以上掛かりそうなプレイヤー達がそのオープン席に集まる。一回きりのその映像を何度も確認するためだった。


 ファイル変換遅えよ、と動画サイト用ファイル変換作業をしているプレイヤーが叫ぶ。汚い画像の動画なんて上げたくない。だからビットレートを出来るだけ下げないように、しかし、高画質変換するほど時間が掛かる。他のゲームセンターでも同じような動きがあるだろう。一秒でも遅れたら負けだ。低画質でも負け。


 20分後ファイル変更終了、すぐに動画サイトにアップロード。その5分後、URLが各所に貼られ、一気にその動画が参照されはじめ、弾幕コメントが走ることとなる。


──組織。もうこの時点で組織が形成されつつあった。


 プレイヤーの、プレイヤーによる、プレイヤーのための、組織。他人同士だった物が、祭りのような驚きと喜びを共有して仲間になる。


 ともかく、狂気の一週間だった。


 何かのイベントのように、ゲームセンターには人が押し寄せ、絶える事はなかった。晒し台全てに録画機材が通され、プレイを録画する。アップロードする。話し合う。


 その様子が香佐市立ゲーム高等専修学校の最初の体験授業だった。


 講師は「サテライトクラスタ」企画・開発者の奥村秀明。


 奥村秀明は生徒と初めて会った時、これは一人言だけど、と前置きして、「4月19日の23時55分頃にゲームセンターに行ってごらん」と妙に具体的な事を言ったのだ。


「この事は絶対に漏らさないこと。でないと全国から人が押し寄せて、君ら、潰れちゃうよ。一人言だけどね。これがこの学校での最初の課題かな。何が課題なのかは各自で考える事。」


最初の課題だと言われ、生徒達は皆、何が課題なのか考え、話し合う。生徒達は、まず話しやすそうな者を見つけ、話し、一人また一人と話の輪に加わり会話の声が大きくなる。


 そして課題がまとめられた。


・恐らくは香佐市のゲームセンターでの「サテライトクラスタ」開始を示唆。

・ここでは既に稼動しているので、何か特別な事があり、それを見ろという示唆。

・風俗営業法。18歳未満は22時以降の入店禁止の制限が設けられている。そもそも風俗営業法とは何か。

・青少年保護育成条例。理由のない青少年単独の深夜外出の制限。

・隠れて行ったとしても生徒全員が押しかけるのは異常事態。ゲーセン自体が営業停止になる可能性がある。

・下手に情報を漏らせば全国から人が来てパニック、課題はアウトとなる。

・2016年の春のCM事件から予測するに1度だけの映像となる。現時点で私達と関係者しか知らない。

・よって録画が必要になる。録画機材、録画方法。動画のアップロード。ファイル変換方法。


「みんな、協力しよう」


 生徒の一人が皆に呼びかけるように言った。可愛い声をしている女子生徒だった。中学時代では苛められて引きこもりになり、ネットばかりを見ていた女の子。でも、ゲームが好きで、実況ゲームプレイ動画を動画サイトにアップロードしていた。ブルーフォレスト社の「ラインブレイカー」「サテライトクラスタ」の騒動を知ってからゲームの道に進もうと他県からやってきた、それまでは無力だった女の子。


 瞳は凛を纏う刃のように、美しかった。


 そして、生徒全員で協力しあう事になる。…この時はまだ入学式前だったので生徒ではなかったが。


「あの、ここ使ってもいいですか?できれば19日まで」


 奥村秀明は言った。ここは君らの学校だ、好きに使えばいい。今からでもいいよ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ