拝啓、お母様。学園は怖いところです。
「お茶会をしますの。アーリア様もおいでになって?」
魔法と様々な学術を学ぶ王立魔法学院に入学して1週間
ついに来た…
死刑宣告にも等しい、筆頭公爵家のご令嬢にしてこの国の王太子様の婚約者であらせられるアナスタシア様からのお茶会のお誘いです!
うん、本当に皆様とお茶会をするわけではないことぐらい超絶ど田舎の男爵の娘でもそれくらい分かりますって!!
あ、そうそう本当に平和なんです領地。
領民みーんな大家族な上に、僻地なのに加えて旨みが何にも無さすぎて流れ者の犯罪者なんか来るわけないレベルなんですよ!
みんなが暮らしていく程度の作物しか作れないから税金もものすごく安く設定されてるような、人の暖かさ以外なんの取り柄もない領地だからね!大好きだけど!
しかしあれだ、この呼び出しは多分先日王太子殿下に畏れ多くも話しかけられてしまったせいですね…なんか学園は意外と貴族と平民の垣根は低いイメージだけどアナスタシア様達は別格なのでいつも貴族だけで固まってますものね
さて…地獄の放課後やでぇ…おっと口調が乱れました
指定されたお庭に行くと…
「アーリア様!ようこそおいで下さいましたわね!さあお掛けになって?」
「アナスタシア様、本日はお招き下さり有難うございます」
…頭の中で拍子抜け展開にすっ転びつつ、可能な限り丁寧にカーテシー(慣れてないから下手くそ)
…あれ?
普通にお茶会ですね??
アナスタシア様のご友人の令嬢さん達も屈託のないニコニコしたお顔をされてますし…
そこでふと、アナスタシア様が何かを思い付いたような表情になりました
「あ、アーリア様!
もしかして、下世話なロマンス小説みたいな展開を心配されておりました?」
「………すみません、少しだけ…」
「あらあら、それは申し訳ございませんでしたの」
にゃー!頭を撫でないで!小さい子を愛でる表情しないでください〜!
ご友人の皆様も生暖かい視線を投げないで〜!
「そういった、身分差ロマンスからの断罪劇のような出来事も平和だった昔はあったようですわね」
「アーリア様のご領地は、やはり情報伝達が整備されておりませんわね…わたくしの実家の不徳の致すところですわ…以後強化をはかってまいりますわね。
アーリア様、申し訳ございません」
「いえ!とんでもごさまいません!!」
ほえ?!
昔はそんなこともあったらしいよ、と仰るのはアナスタシア様の親友で公爵令嬢イザベラ様
畏れ多くも謝罪してくださったのは新聞事業などを手がけている名門伯爵家の令嬢であるエクレア様でした
学園は優しい世界…?
─────翌日
誰だよ!学園は優しい世界とかお花畑なこと言ってたのは!!私だよ!
いや!アナスタシア様達は優しいよ!私には!
あ、どうも田舎男爵の娘アーリアはこのたび"貴族良識派"所属となりました!
リーダーはアナスタシア様な
実態はそのまま、良識ある貴族の子息令嬢で作ってるグループだよ!
アナスタシア様曰く、結構前から上位の貴族と、下位貴族や平民との垣根は低くなっているらしい
ただ、それは諸刃の剣だったらしい
「身分だけが、グループを形成する時代が終わった結果…様々な思想が生まれてしまいましたのよね…」
今日も私達は学園の食堂の一角に集まり、のんびりとお話ししている
あくまで一角、領地で平民の女の子達みんなと回し読みしてた小説に出てきた特別な席なんて…無かった
主だった派閥については情報通のエクレア様から一通り教えて頂いたよ
伯爵家令息と平民の男の子がリーダー格のグループ…何にも知らない入学当時の私は身分を超えた友情素敵!とか思ってたけど…
「あらいやだ…」
「不快ですわね」
アナスタシア様達は入ってきた彼等に片眉をあげる
彼等はみんな親御さんが聖職者特権を許さない国民の会という極右全体主義組織に属している子達だとか…
「過去に司教の子息を監禁、拷問して逮捕者を何名も出している派閥ですわ
教会に対する破壊行為や慈善事業の妨害など複数の犯罪行為もありましたわね」
…さよなら、私の平穏学園ライフ
食堂の片隅にはよく見れば人形みたいな不気味な無表情で食事をしている貴族平民、男女問わずのグループ……入学当時の私は身分を超えた(以下略
「あの方々が一番話が通じません。触れぬ方がよいですわね」
あの人達は北にある大国カチューシャ帝国との紛争を小さい頃から経験し、血と火薬の匂いの立ち込める中で身分を超えた友情を家ぐるみで培ってきた、クリミアルド再分離独立派の方々だそうで…
「カチューシャ帝国に対する肯定的な発言をうっかり聞かれでもしようものなら、最悪路地に冷たくなって転がる羽目になりますわよ…」
怖いわ!
「お出ましですわね…」
あらゆる派閥が嫌な視線を向ける…食堂の中央に堂々と陣取る一団
学園入学当時の私は(以下略
第二王子の婚約者にしてニューライン公爵家令嬢、マルスーナ様の派閥
貴族は彼女だけで、周りを目つきの鋭い平民の女の子が固めており、その周りを更にガードする様に異様に目付きが鋭く見識・知識に裏打ちされた怒りに燃える平民の男がたくさん付き従っている
「身分制度の最低限の機能を壊したのは明らかにあの方ですわね…」
彼女は「リンネルと小麦、そして鉄」「搾取の構造」という本を出版し、領地で定期的に学習会や講演会などを開いて平民の熱狂的な支持を得ているそうだ
そんな小難しい本はうちの領地には一冊も無いんだけど…
最大派閥、革命的科学社会主義革命的マルスーナ主義派、略して革マル
あまりにも熱狂的な支持故に、彼女は実質的に人海戦術や自爆攻撃で王都もしくはこの国を占領・実行支配できる立場にあり、国王も逆らえない困った存在なのだとか…
いや怖いから!!
領地のお友達の女の子と悪役令嬢とヒロインごっこしても結局、敵になることが出来ずストーリーを即興で改変して謎の大団円にするのが定番だった私には…!この学園の闇は情報量が多すぎる…!!
私、無事卒業できるんでしょうか…?