第二話
二年間、救世主っちは息子くんのことを忘れたことはなかった。身を裂かれる苦悩の日々だった。
だが、二年も下にも置かぬ扱いされて「当然だ」と思えるほど傲慢ではなかった。繰り返すが仕事中毒は魂に刻まれているレベルだった。
そして女盛りの王女ちゃんに二年間世話されていて何も感じないほど枯れてもいなかった。
「救世主っちの息子くんへの思いはその程度か、下半身に負けたのか、ゲスめ」
そう罵るものがいたら、是非とも周囲に知人もなく後ろ盾もなく孤独な状況下でそれでもなお差し伸べられた手を取らない心の強靭さを見せていただきたい。
そんなことができるのは、貧民街の出ながら石油王になったクールに去る人ぐらいなものであろう。実際、その人物の親友の息子の妻は、未亡人になった後、ハリウッドの脚本家と結婚している。
「巨人族討伐に同行する」
救世主っちの宣言に王国は沸いた。
国王どんは盛大な出陣パーティを開き、勝利の暁には救世主っちと王女ちゃんの婚姻を認め、救世主っちを王族として遇すると約束した。王国民は救世主っちを称えた。
二年の間に救世主っちは精霊魔法を十分に習得していた。その力は王国の歴戦の使い手を遥かに凌駕し、わずか一年で巨人族の討伐に成功した。
最後の巨人を倒した救世主っちは、この戦争の意味を理解した。実感した。
巨人族は王国同様に精霊魔法の使い手である。そして精霊は世界にあまねく存在する。しかし、精霊魔法の使い手が多いとその力は分散される。王国が巨人族を排除したかったのは、世界の脅威でも王国の防衛のためでもなかった。例えるなら河の両岸にある二つの村が、河の水を自分だけが使いたいがためにもう一方の村を滅した。それだけであった。
まさにライバルの語源――小さい川という意味から同じ川を巡って争う――の通りであった。
巨人族の分の精霊リソースが解放され、そのリソースは全て救世主っちに集約された。今や救世主っちは救世主っちとしての異能を全て開花させていた。全ての精霊魔法は救世主っちを介して王国の使い手の元で発動するようになった。
救世主っちは巨人族討伐の真相にもっと早く気が付けなかったことを悔いたが、見知らぬ他人より親しい友人の幸せと割り切る程度には切り替えが早かった。
帰国の途をを急ぎ、息子くんに次ぐ最愛の王女ちゃんの待つ王国へ帰った。
そして謁見の間で、討伐成功の労いもそこそこに王女ちゃんから言葉をかけられた。
「救世主っち、救世主っちとの婚約を破棄するわ」