表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

第一話

アニメ化した異世界召喚物見て、これ一般家庭で起きたら最悪だな、と思い書いてみました。


「お主は救世主っちじゃ、我が国を救うために召喚されたのじゃ」


 救世主っちと呼ばれた男性は呆然とする。喋っている言葉は分かるが、何を言っているのかがわからない。

 男手一つで育てている中学生の息子くんから「いま塾を出た」と連絡を受け、準備していた夕食の最後の仕上げをしていたはずではなかった?


「救世主っち、この国は巨人族の脅威に晒されておる。救世主っちは強力な精霊の加護を受けている。その強大な魔力を以ってこの国を救うのじゃ」


 救世主っちの呆然をよそにひたすら喋り続けるこの男は、この国の国王どんであった。

 その隣には齢二十代半ばの王女ちゃんもいた。


「救世主っち! 救世主っち! 救世主っち! 救世主っち!」


 歓喜の舞を踊るその他大勢。

 その状況を見て救世主っちは……


「っっっっっっっ、いますぐ家に帰せ!!! この誘拐犯集団がぁぁぁ!!!」


 ……激昂した。


 当然である。虐待母親から息子くんを守り、親権を裁判所に認めさせ、残るは離婚の成立のみという状況まで持ってきて、シングルファザーとして仕事家事の両立をし、職場でも理解を得られてホワイトな環境で仕事している救世主っちは、現実世界で責任重くも充実した人生を送っていた。

「異世界転生! チート! 俺つえー」

 などには微塵も興味がなかった。 


 何より自分が今行方不明になったら息子くんはどうなる?虐待母親が親権を持つのか? 老いた自分の両親か? どちらになっても高校受験対策でナイーブになっている息子くんの心のケアができるものか。息子くんのために貯めた貯金もどうなることか。

 救世主っちは自分の身の心配よりひたすら息子くんの心配をしていた。常日頃息子くんに不幸が起きるくらいなら自分に起きてくれと祈っていた。ある意味その祈りが通じたのかもしれないが、それでもこれでは息子くんも不幸になるではないか。


 激昂した救世主っちの体から少年漫画の主人公のように光が溢れた。


 これには救世主っちもびっくりした。

 呆然としていてあんまり耳に入ってなかったが精霊がどうこう。魔力がどうこうと言うのは本当らしい。

 だがそれがどうした。救世主っちの要求は変わらない。

 帰せ。

 それだけである。


 一方の王国(誘拐集団)側は王国側で驚いていた。

「召喚されたばかりであの魔力」

「歴代最強ですな」

「今代の救世主っちは期待できますぞ」


「救世主っち。召喚された救世主っちは元の世界に戻れないのじゃ」

「救世主っち、この世界を救ってくださいませ」

「ふざけるなぁ!!!」


 完全に平行線だが、人の体力は有限である。救世主っちの勤務先には八時間ぶっ通しでキレられる役員がいるらしいが、それにしたっていつかは力尽きる。

 誘拐集団の世話になるのは不本意だが、と。救世主っちは用意された貴賓室に案内された。


 それからは接待攻勢の日々だった。


 まずは食。だが、世界に名だたる和食を擁し、某世界的グルメ本で世界一星付きのレストランが多いという東京を首都とし、世界中の料理がだいたい食べられる日本を、そしてそこで育ち盛りの中学生男子に弁当含めて三食作っているお父さんである救世主っちを、異世界人は舐めていた。

 自分で作った方が美味しい。寧ろ厨房貸せと言いたいところであった。少なくとも、王国側が期待するような美食で骨抜きには程遠い。


 次に酒。救世主っちは飲兵衛だが、自分の酒量を弁えている飲兵衛だ。そして唯一の贅沢が週末の晩酌のワイン。ワインに関しては資格を取るほどである。その救世主っちを、まだ未成熟の醸造技術の酒で溺れさせることができるとは浅はかであった。

 ただ、酒には敬意を持つ救世主っちである。これはこれでうまいと、出されたものは適切に飲んでいた。


 続けて色。複数の美女を侍らせて……これは救世主っちに即座に拒絶された。息子くんの現状を思えばそのようなことできようものかと。


 王国側はなんとか救世主っちに巨人討伐に従軍してほしいが、拒絶され手詰まりであった。

 ここで王国側に追い風が吹いた。

 救世主っち、召喚前は朝起きて息子くんのご飯作って洗濯干して掃除して息子くん見送って食器洗って仕事して洗濯取り込んでご飯作って食器洗って、休みの日は買い物行って家事して、とまぁ、休む間もなく体を動かしていた。そしてそれが苦でない程度には仕事中毒であった。

 それが今はやることがない。要するに暇なのだ。そこで酒色に溺れない程度の人間性もあり、魔法の講義を受けることに同意するに至った。


 この世界には初めに「精霊魔法」があった。世界にあまねく存在する精霊に語りかけてその力を引き出す魔法である。

 その後、神に祈りを捧げて奇跡を願う「神聖魔法」 そして呪文を媒介に世界を構成する魔力そのものに働きかけて力を引き出す「言語魔法」が生まれた。

 また魔法ではないが自分の生命エネルギーを集中・増幅・制御することで種族の限界を超えた力を生み出す「闘技」が編み出された。


 精霊魔法の国、王国。

 神聖魔法の国、教国。

 言語魔法の国、皇国。

 闘技の国、共和国。

 この世界には四つの国と、王国が脅威と言う巨人族の国がある。


「救世主っちには、この巨人族討伐に同行してほしいのですが、御心は分かりました。もはや無理強いはしません。お詫びにもなりませんが、私が誠心誠意支えさせていただきます」


 講師兼世話係として王女ちゃんがついた。

 そもそも王女ちゃんがこの年齢でも未婚なのは、今年行った救世主っち召喚後の世話役として生まれた時より定められていたからだ。


 そして二年の月日が流れた。


「巨人族の討伐、同行しよう」


 救世主っちがそう言った。

連絡システムを理解したく、「連載」で投稿しましたが、量的には短編でもいいのかも……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ