精霊の愛し子
お父様はドクターが部屋を出ていったのを確認すると、指をパチンと鳴らし、周りに聞かれたくない話をする時の魔法
…水のドームで結界のように私達3人の周りを覆った。
「……これでいいな。
お茶会の日のことだが、一体何があった?魔力は覚醒したのだろう?」
「はい。覚えていることが正しければ…」
私はお茶会の日に何があったかを2人に説明した。
ノアという男の子に出会ったこと。
ノアが落とした石に触れた途端化け物が現れたこと。
怪物が傷を負っているノアを仕留めようとしたため、それを阻止しようとしたら魔力が覚醒したことを話した。
「…そこから先の記憶はありません」
「ふむ…」
「…お父様…ノアはどうなりましたの…?」
記憶にあるノアは…私を庇った反動の怪我で満身創痍だった
具体的にいえば今すぐにでも治癒魔法をかけなければならない状態であったように思う。
「(私に…というより"ルイ"に治癒魔法は使えないし、誰かが騒ぎに気づいて駆けつけても…間に合うか…)」
最悪の状態を考え込んでいると、帰ってきた言葉は予想外にも、
「あぁ、その件だが…ノアという少年は結果的にいえば無事だ。
私達も彼から直接話を聞いたのだ。」
という言葉だった。
「…ノアから話を?」
「…とりあえず、順を追って話そう。」
お父様の話はこうだった。
私が気を失ったあと、大きな音と揺れに駆けつけ大きな音と揺れに駆けつけた兵士たちが、水で濡れている岩の山の横で倒れている私たちを発見した。王城内でこのような騒ぎが起きてはお茶会どころではないため、お茶会は急遽お開きとなった。
翌日、目を覚ましたノアがエトランゼ家を訪ね事情を説明しにきたのだが
「…彼が言うにはルイを庇った際に確かに深めの傷を負ったはずだったのに、目が覚めた自分は無傷だったという。」
「ということは…誰かが治癒魔法を…?」
「そうなる。しかし、現場に治癒魔法をかけられる人間が来たのは2人を発見したあとだった。……どういう意味か、わかるな?」
意識のないノア
目覚めたばかりの魔力
気を失う前の光
「まさか…でも、そんなはず」
お母様が私を抱きしめる力が強くなった。
嫌な予感に心臓が嫌な音を立てた。
「……ルイ、お前には2つの魔力が宿っている可能性が非常に高い。
ひとつは水、そしてもうひとつは光の魔力だ。」
「わたくしが……精霊の愛し子であると……?」
静かに考え込む私を見てら堪えきれないとばかりにお母様が涙を零した。
「…あなた…やっぱり何かの間違いですわ…
だってこの子は…ルイは…女の子ですのよ…!」
そう、わたしは女だ。
精霊の愛し子…とはこの世界の歴史上、数百年に1度にのレベルで産まれるとされる、魔力を2つ持つものたちの総称である。
ゲームの中では直接出てくることは無かったものの、単語としてはでてくる、いわば常識のようなものだ。
彼ら愛し子たちは、精霊にとても愛されている分、偉大な魔術師になることもある。
しかし、彼らのほとんどは愛し子であるためにその力を狙われ、若くして命を落とすことが多い。よって、愛し子であることを隠して暮らすものが多い。
しかし、貴重なことには変わらないが、まれにいるというレベルの人間だ。いるにはいる。
ただ、全て男性なのだ。
過去、この世界の歴史上において女性の精霊の愛し子は存在しない。
さらにこの世界の"ルイ"は愛し子ではない。
アクエリアスの加護を受けた天才、それだけの青年なはずなのだ。
それが恐らく私がルイとして生まれたことによって、既に何らかの変化が生まれてしまっているのだろう。
「(ルイとして生まれた時点で何らかのズレは起こると思っていたけど、まさか愛し子とは……)」
この貴族社会において異端なものは排除の一択をとられる。
現実世界のように多様性は認められないことがほとんどだ。
さらに公爵家令嬢とはいえ自分は女だ。
男性ほど価値が重くはみられない。
「(世間…いや家族からも捨てられる可能性が高い……
せっかく生まれ変わったのにこの人生、たった10年で終わるの…?)」
魔力が早く目覚めないかなーと思っていた自分が急に妬ましくなるほど、普通の10歳児には重すぎる現実をどうにか飲み込もうとしていると、お父様が静かに私に目線をあわせて話しかけてきた
「……ルイ、愛し子となったお前が普通に生きていける方法がひとつだけあるんだ。
…ルイ、お前は今日から男として生きるんだ。」