魔力の覚醒
「……ルイ、僕もう行かないと」
ノアの時計を見ると確かに散歩に出てから思いのほか時間が経っていた。
「もうこんな時間たってたのね。
私もそろそろ戻らないと、お母様が心配するから。
………そんな顔しなくても、友達なんだからまた会えるわ。」
一生の別れのような表情でコチラを見ていたノアにそう告げるとパァと表情が華やいだ。ピカピカだ。美形眩しい。
「そうだね…!じゃあまたね、ルイ」
「また会いにくるわ、ノア」
ノアに手を振りつつ見送っているとポロッと彼のポケットからなにか落ちた。
慌てて追いかけ落としたもののところまで行き、見ると、それは黒曜石のように黒く、鈍く光る宝石のようなものだった
「なにかしら…ブローチ?」
ともかくノアに返そう、そう思って拾おうとした時だった。
「…!?駄目だ!!それにさわるな!!!」
「えっ」
不意に叫ばれた大きな声に思わず驚き、
ちょんっと指先が石に触れた途端
バチバチバチ!!!!と大きな音と黒い火花が散り
瞬間、
ぐっといううめき声と、黒い影に突き飛ばされ地面に自分の身体が打ち付けられた感覚に息を飲んだ。
「(…いったい…なにが……!?)」
よろめきつつもどうにか痛む身体を起こした私の視界には
5mはあろうかという巨大な岩でできた禍々しい黒い光を放つ怪物と、
私を突き飛ばしたであろうノアの真っ青な顔色で横たわる姿があった。
「……っノア!ノア!!」
「………」
慌てて呼びかけるがノアは応じず、ぐったりと意識がないようにみえた。そんな中怪物は私の声に反応するでもなく、
ズシリズシリと音を立て、一直線にノアへと向かっていく。
そして、拳を振り上げると、ノアへと狙いを定め振り下ろそうとした。
その瞬間、私の痛かったはずの身体は勝手に動いていた。
「させるかああああ!!!!」
振りかぶられた拳とノア間に割り込み、来るであろう衝撃に目をぎゅっとつむったときだった。
一瞬がスローモーションのように感じた。
心臓がドッドッドッと音を立て、
体が、血液が、一瞬で沸騰したかのようにグワッと熱くなった。
体を流れゆらゆらと揺れ動くその熱に、
なんとなく何を叫べばいいのか分かった気がした。
「……アクエリアス!!!!」
それが正解だ、と言わんばかりにサラリと頬を水が撫でて横を通った。
その水たちはそのままつぶてとなって、ドーンドーンと音を立てながら流星のように岩の巨人へと落ちていく。
ものの数秒後にはただの砂の山がのこっているだけだった。
「…や、やればできるものね……っ!!」
沸騰していた血液が一気に冷え、貧血のような感覚が気持ち悪く崩れ落ちた。
辺りに水が心配そうにふよふよと舞うが、それどころでは無かった。
朦朧とする意識の中、青白い顔の倒れたノアが心配で這い寄ると、顔色は一層悪くなっており、慌てて耳を心臓に当てると既に呼吸がなく、心臓の動きも弱い。刻一刻を争う状態なことが私でもわかった。
「(……この子が登場人物だとかなんだとか関係ない…
友達だもの…絶対にしなせない!!!)」
小さな手のひらをぎゅっと握りしめた一瞬、暖かく優しい光がなった包んだ気したがそこで意識は途絶えてしまった。