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諦めの黒色

ビバーチェ様へのご挨拶を済ませると、タイミングを見ていたのか、あちらこちらの貴族からのご挨拶ラッシュが始まった。


代わる代わる「ご挨拶を…」と来る貴族の中には、シルヴェストル家の姿もありカミーユとも接触したけれども……女好きは伊達じゃなかったようで、「花のように美しいお嬢さん、今度僕とお茶でも」と、手を握られはしたもののやんわりお茶も断り、大事にはいたらなかった。

そんな中、1番警戒していたていた、疑い深い宰相の息子シリルとはパウデヴェイン家が今回は不参加のようで出会うことがなかった。


「(しかし、あからさまなものはお母様がブロックしてくださったけれど、公爵家の立場やアクエリアスの恩恵をあやかろうとする人達がほとんどね…)」


生まれ変わる前は社会人としてよく向けられていた、人を品定めする視線をひたすらに浴び、7年ぶりのそれになんだか憂鬱な気持ちになった。


「…あら?ルイ?顔色が良くないわね」


…バレてたか。


「…ちょっとだけ気疲れしてしまいまして」


正直にそう答えると、正式な社交界デビューでは無いとはいえ初めての交流の場だったものね……うーんとお母様は少し考える素振りを見せると、そうだわ!と手を叩き、


「今日は、お茶会に伴って庭園も解放されているし、気分転換に庭園内を少し歩いていらっしゃい。」


「でもご挨拶が…!」


「大丈夫。そんなに長いこと戻ってこないのは困るけれど落ち着いてきたし、少しだったら誰も気にしないわ。ね?」


お母様は優しく言っていたが、確かにごまかせていても、疲れた表情を晒してお茶会に参加し続けるわけにはいかない。

お母様の優しい気遣いに甘えることにした。


「…お言葉に甘えます。ありがとうございます」


「いいえ、いいのよ。いってらっしゃい」


お母様と離れ、庭園内を歩くと、初めはチラホラと人がいたものの、 お茶会の会場から離れれば離れるほど人気もなくなり、やがて広い庭園内のはずれで1人になった。


「静かで、いいところね…」


花がみずみずしく咲き誇り、白い雲が青空の中ゆっくりと流れていた。

少しだけと思いハンカチを敷いて木陰に腰を下ろすと、鳥たちのさえずりが聞こえてくる。

絵本の中のような景色に、さっきまでの嫌な気持ちが溶けていくようで心地が良かった。


どれくらいぼんやりしていただろうか、


「ねぇ。」


「!!」


突然聞こえた声に慌てて立ち上がると、目の前に1人の男の子が立っていた。

お茶会の参加者だろうか。整った容姿に上等な服を着ており、高貴な身分であることが伺える。


動揺したのを出さないように、どうしました?と声をかけると、


「向こうには戻らないの?」


男の子はお茶会の方向を指さしそう尋ねた。


「…ちょっとだけ疲れてしまって休憩させていただいていました。」


「つかれたの?」


「…ええ」


男の子は私の答えに少しだけ驚いた顔をすると、


「……俺と一緒だね。」


小さい声でそう答えた。


「あなたも疲れましたの?」


「うん。俺も疲れた。」


そう答えた男の子の顔色はパーティーにただ疲れた子供の様子にはみえず、無表情ながらも暗く、なんだか消えてしまいそうで不安になった。


だからだろうか、


「……では、一緒に休憩致しましょう。ここにかけてぼんやりするのです。落ち着きますよ」


とうっかり声をかけてしまった。

いやいや、まてまて。自分はともかく、

いいお洋服を着たお坊っちゃんに木陰に座らせて大丈夫なのか??


「(いや、絶対大丈夫じゃない…!)

じ、地面に座るなどはしたないですわよね、失礼しまし「座る。」えっ」


短くそういうと、私が驚くまもなく先程私がいた所に座ってしまった。

誘ったのは自分だが、思わずぽかんとしていると、


「??隣、座らないの?」


「あっ…座ります…。」


不思議なことになってしまったなぁと考えつつも隣に座った。

相変わらず、景色は美しいのだが、隣に人がいるとどうしても無言と言うのが気になってしまい、ちらりと隣を見る。

ラブマジでは見たことがない人間であることから、攻略対象では無いことが分かるが、それにしても一つ一つのパーツが人形のように整っており、美形さんだ。生気のない表情が非常に惜しい。


「(…そういえば、見慣れすぎて気が付かなかったけど、この子黒髪黒目だわ)」


この世界の黒とは闇の魔力を持つものに与えられる色であり、この世界の人は不吉だからとあまりその色を好ましく思っていないことが多い。

ましてや黒髪黒目となれば闇の魔力が計り知れないほど濃い証だ。


「(お茶会の参加者かと思ったけど、あっちの世界に入ったら最後、なにされるかわからないわね…きっと避難してたんだわ)」


「……なに、この色が恐ろしい?」


じっと見つめていたからだろうか、遠くを見つめていた無表情がバッとこちらに向けられ、問いかけてきた。

その目は無表情ではあるものの、暗く悲しい感情が渦巻いていて、あなたもその辺の人と同じように黒に怯えるの?と言われた気がして、


ちょっとカチンときた。



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