第2王子とビバーチェ様
会場内を少し歩くとビバーチェ様はすぐにどの人か分かった。
豪華な会場の中で一際立派な椅子に、1人しかいない真っ赤なドレス。
口元に広げた扇子の下に優しそうな微笑みを浮かべているものの、その笑顔の中に打算的な考えを浮かべていることがビリビリと伝わってくる。
「(なるほど、ドレス選びの時にお母様から赤いドレスを避けるように言われたのはこのためだったんだわ)」
そしてその横でふんぞり返るのは、キラキラひかる金髪がまぶしい第2王子のフラン様と難しい顔をして控えているアロン様。
…2人ともゲームで見るよりは幼いながらも既にイケメンのオーラが見える気がした。
そんな会場の主催者様にご挨拶すべく私たちが近付くと、自然と取り巻きの貴族たちは道をあけていった。
「あら、エトランゼ家の……ごきげんよう。」
「ごきげんようビバーチェ様。マリー=エトランゼですわ。
本日はルイ共々お招き頂き感謝します。」
なんてことの無い涼しい顔をするお母様にならって
自然と向けられた視線に負けないよう、入口でした時と同様にきちっと礼をこなし母の横に付く。
「…ルイ、ご挨拶なさい。」
「はい。お母様」
「(ここが踏ん張りどころだわ…王妃様含め、警戒対象が3人もいるんだもの。)」
お母様に促されて、1歩前に出る。
1歩しか動いてないのに冷や汗が出た
「…ごきげんよう、ビバーチェ様、フラン様。エトランゼ公爵家の娘、ルイ=エトランゼと申します。以後お見知りおきくださいませ。」
そう挨拶をするとにこやかなビバーチェとは対照的にフランの目付きが鋭くなった。もはや睨んでいると言っても過言じゃない。
……何したってのよ……
「マリー様、ルイ様。先程はご挨拶どうもありがとう。
わたくし、お茶会で、貴女方に会うのを心待ちにしておりましたのよ。さあ、フランもご挨拶なさい」
ビバーチェに促され、そっぽを向いていた顔をこちらへ戻したフランは渋々といった様子で口を開いた
「…ノルディー王国第2王子、フランだ。こっちは俺の付き人のアレン。」
渋々の表情が子供らしくて、思わず笑いそうなのを隠してどうにかよろしくお願いいたしますと笑顔で返すと、フランはそれも気に食わなかったのか、
「……お前、アクエリアスの加護を受けてるんだかなんだか知らないが、いい気になるなよな!!!」
とまたそっぽを向いてしまった。
思わずポカンとした顔をしていると、
「あら……息子がごめんなさいねぇ…?」
「い、いえ。」
「でもわたくしも…エトランゼ家の者は水の魔術に特出した魔術師になるとうかがってますわ。
ルイ様に至ってもアクエリアス様の加護を受けるお人ですもの。
さぞかし美しい魔術をお使いになるのでしょうねぇ?」
やさしそうな言葉の中、スッと目が品定めするかのように細められたのを見た。
「………いえ、わたくしなぞ、まだまだ未熟者ですわ」
そういって静かに頭を下げるが、もう心は冷や汗でびっちょりだ。
おそらく、魔力が覚醒してないことはバレていない、と思うが、
それを抜きにしても、この圧力はここで魔術を披露しては?などと言いかねない空気感である。
それは何としても避けなければまずい。
「(でも王妃様に言われたら断れないぞ……どうする……どうする………)」
血の気が段々引いていくのを感じているとサッとお母様が私の横にたち、
「……ビバーチェ様、申し訳ありません。
このままお話したいところですけれど、どうやら他の皆様もビバーチェ様にご挨拶差し上げたいようですわ」
とあたかも申し訳なさそうにいうと、ビバーチェ様は視線を私からぱっとお母様へ移し、
「あら…ほんとだわ。
残念。ルイ様また今度ゆっくりお話致しましょうね」
と、意外にも深追いする気は無いようであっさり引いてくれた。
お誘いに、喜んでとお返しし、お母様と2人で無事に御前から下がることができた。