いざ、お茶会へ
「…ルイ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ?」
お茶会会場である王城へ向かう馬車の中、ビシッと姿勢をただし、無言で景色を眺める私に心配そうにお母様が声をかけてくれた。
「…ありがとうございますお母様。そんなに怖い顔をしてましたか?」
「そうね。こんな顔だったわ」
そう言って真似をしたお母様の顔はまるで戦争に向かう兵士のような表情だった。
むむ、これは推しのプリティーなフェイスが台無しだ。
いけない…もむか。
ムニムニとやわらか10歳児のほっぺをマッサージしていると、今度はクスクスと笑われてしまった。
「ふふふ、せっかく可愛いドレスにしたんだから、怖い顔しちゃだめよ?ね?」
「…はい。」
今日のドレスお母様が選んでくれたものだ。
シルクの青い生地に金色のバラの花びらの刺繍が無数に散りばめられている可愛らしいもので、公爵家の金銭感覚に慣れてきた私でも一目で上等なものと分かるものだった。
そしてドレスを着飾った私の目の前で満足気に笑うお母様を思い出したらなんだか緊張もほぐれたような気がした。
「(そう、ただちゃんとご挨拶さえ出来ればあとは世間話だけこなせばバレないはずだもの、何も喧嘩しに行くわけじゃないわ)」
落ち着いていこう。そう考えていると、あまり時間の経たないうちに庭園の入口へと馬車が到着した。
従者のエスコートをうけ馬車を下り、視線をあげ衝撃を受けた。
「なんて立派なお城……!」
澄んだ青い空の中に白い神殿のようお城が佇んでいた。
壁にはひとつのヒビもシミもなく手入れされており、そ王城にふさわしい姿に思わずぽかんとしてしまっていると、お母様は優しく頭を撫でてくださった。
「ルイはお城を近くで見るのは始めてでしたね」
「はい……初めて見ました」
そう私が応えると、お母様は屈んでわたしの目線になって
「いい?ルイ、お城というのはこの国の豊かさを表す象徴でもあるのよ。その豊かさを支えるのが民であり、その民を守るのが私たち貴族のお仕事でもあるの。忘れないでね。」
そういうと真剣な顔で私の両手をキュッと握った。
貴族というものに前世では全く馴染みがなかったからこそ、貴族であるというのは楽ではない事だと、この身体に生まれて何度も実感してきた。
貴族はただ豪遊する為の存在ではない。
お母様の手からは限りある財を生かし、民に、国に、役立てる人になりなさいと、言われた気がした。
「はい。身に刻みます」
目を見てそう返すとお母様はちょっとだけ驚いて、すぐに微笑み立ち上がった。
それと同時に城の案内人がやってきて、
「……マリー様、ルイ様おまちしておりました。どうぞなかへ。」
と、案内された。
花のように微笑むお母様の横で深呼吸をし、
「(堂々とやるのよ…ルイ=エトランゼ…!)」
会場に足を踏み入れると、バッと視線が一斉にこちらに向いたのを肌で感じた。
値踏みするような視線の中、少しの動揺をニッコリとした笑顔の下にしまい、お母様と死ぬほど練習した一礼をすると会場がざわめいた。
「…まぁご覧になって!エトランゼ公爵家のマリー様とご令嬢よ。」
「…10歳になったばかりと言うのになんて麗しいのかしら…」
「それにあの髪、アクエリアス様の加護を受けてらっしゃるわ!素敵な水の魔力をお持ちなのね…将来が楽しみ…」
思わずそばだてた耳にチラホラと賞賛の声が入ってきた。
どうやら今のところ誤魔化せているみたいかつ、ご令嬢修行としてやってきたことは無駄じゃなかったということにちょっとだけ嬉しくなった。
「まずは主催様に御挨拶差し上げましょうね」
「はい、お母様」
このパーティーの主催は王家だが、国王は病に伏せておられ出席されていないため、実際の主催は王妃様であるビバーチェ様になる。
「(ビバーチェ様はプライドが高く気難しい方とお母様がおっしゃってたし、粗相のないようにせねば)」
人だかりの中しずしずと会場を進むお母様につれられ、会場の中を歩くと園内の美しさに改めて驚かされた。
美しいバラ園に囲まれた広場には音楽隊が弦楽器を奏で、
あちらこちらにある真白いテーブルクロスの上には色とりどりのお菓子が並んでおり、その周りには豪華な衣服をまとった貴族たちが優雅に歓談していた。
「(庭園のスチルすごい綺麗だと思ってたけど、実物がこれだから綺麗だったのね…)」