やらなきゃいけないこと
「ちょっ!?何して…!」
慌てて傷口を確認すると、ノアの白い皮膚はすっぱりと切れており、どくどくと止まる気配のない出血がノアの服を染めていく。
ノアの魔力のおかげだろうか、こぼれた血は床を汚すことはなくノアの影へと消えていく。
思いのほか切れちゃったや、などとのんきにつぶやくノアが眼に入らないほど、
見たことの無い量の出血に私は焦っていた。
「ちょっとこれ普通に致死量出そうなくらいの出血なんだけど…!ノア!」
「うん。止まらなければ危険だろうね。だからルイ」
「わかってる!」
治れ治れと心の中で祈りながら魔力を流すが、光が包むだけで、
何度やっても治癒されていないノアの腕に、だらだらと冷や汗がでる。
「…ッハァ…ハァ、このままじゃ…」
焦る私をよそに、血を流すノアは冷静に私の腕をつかんだ。
「…ルイ、落ち着いて。力を使うことによる経過を意識して。
…俺の腕をどう直すのか、考えて魔力を使うんだ。」
「どう直すか…わかった。」
呼吸を整えもう一度、私の光の魔力が、出血を止め、肉を皮膚を再生するイメージをしっかりと持ち、傷に触れる。
手が血塗れになるのも気にならなかった。
「治って…!」
暖かい陽だまりのような光がノアの傷を包み込むと、傷はみるみるうちに跡も残さずに完治した。
「や、やれた……よかった……」
治った傷を見て安心して崩れ落ちた私に、ノアはハンカチを差し出して笑顔を浮かべた。
「ね、できた」
「いやいや!ちょっと!!!ノア!!!!荒療治すぎるんだけど!!!」
私の大きな声に目を丸くして目をシパシパさせると、ノアは続けた。
「…でも、掴めたんじゃない?」
そう言われて先ほどの感覚を思い出す。
…確かに、水の魔力とは違い使い方や量を意識するというよりは、
具的的な手順、治癒なら治癒の過程を思い浮かべる必要があると感じた。
となれば人体の構造や、解剖学を学ぶ必要がある。
「…確かに。やるべきことは見えた。」
私の答えを聞いたノアは、役に立ったなら何よりだよ。と満足気に再び席につき紅茶を飲もうとした。
そんな彼の手にあった紅茶を奪い、目を覗き込む。
「…でもこのやり方はこれっきりにして。友達の体を傷つけてまでやりたくはない。」
これでも怒っているのだ。
私のためにしたことと分かってはいるが、ノアの命を危険に晒してまで、やりたいわけではない。
「約束して」
「…わかった。」
「うん、ありがとう。ノア」
心なしか不思議そうな、嬉しそうな顔をしたノアはゆっくり頷いた。




