主人公補正が欲しかった
「あら、まだ荒いけど飲み込み早いわねぇ。」
いいセンスよ。と器を覗いたローズ先生は褒めてくれた。
「あ、ありがとうございます!」
やれば出来るものね…!
蛇口に感謝したのは生まれて初めてだけど!!
「徐々に入れ物は小さくしていくから、それで少しずつ調整を覚えてきましょ!じゃ、次よぉ」
そう言ってとローズ先生は指をパチンと鳴らすと、辺りに水がバッと散り、入っていた器が砕けてバラバラになった。
「さ、この器をさっきと同じ状態に戻してみてちょうだい」
「はい!」
呼吸を整えた私は、先程と同じように今度は光の魔力を絞りながら、バラバラになった欠片を元に戻そうとイメージした。
が、戻らない
「…もう1回」
何回やっても戻らない。
「…どうして?」
「…うん。水よりも光の方が時間かかりそうねぇ」
「感覚的には同じようにやってるつもりなんですが…今度は少なすぎるんでしょうか?」
器が戻らないどころか、ウサギにもならないということは足りないのかも?と思い聞いてみると、
「いいえ。魔力は十分。さっきよりは上手く調整できているわぁ。」
その言葉にちょっと安心した。
流しているはずなのにウサギにもならなかったから少し不安になった。
流石にこれだけやってちっとも進歩がないのは流石に凹む。
ではなんで使えないんだろうかと考えていると、
そうねぇ…とローズ先生はなにか思い至ったのか、口を開いた。
「…ルイぼっちゃま、光の魔力で出来ることはなんだったかしら?」
「はい、物体の修復と、浄化です。」
「正解よ。」
パチンとウインクをしてローズ先生は続けた。
「修復と浄化。実態がない物を操ることになるわ。
それって実はとっても難しいことなのよねぇ。
火や水、土みたいに物理的に形があるタイプの魔力は"こういう風に使う"って使い方が想像しやすいけれど、光や闇の形がないタイプの魔力は実態がないから使うってイメージがほかの魔力と比べて難しいのよ。」
「たしかに…」
水は蛇口で制御できるけれど、光は蛇口で絞れないわ…
ローズ先生の言う通り使い方というものがイマイチピンと来てない自分に気がついた。
ラブマジの主人公であるヒロインは、同じく光の魔力の持ち主だった。
ただそこは乙女ゲーム。
ヒロインは、何となく最初から魔術の使い方が分かってしまうという主人公補正ありだったからプレイヤーは何一つ苦労しなかったのである。
「(こんな感じかな…?でポーンと魔術使えてたのよね。)」
「…闇や光の魔力を使う人間がホイホイ居たらいいんだけれど、そもそも数が少ないしねぇ」
ま、こればかりは理屈よりも感覚だから回数こなしていくしかないから、地道にいきましょと、ローズ先生は私の肩を叩いた。