ローズ先生の独り言
「……それで?アタシに育てろって?」
「片方の精霊がアクエリアスである以上、お前しか適任がいないんだ。………どうか、頼む。」
ガバッと下げられた親友のつむじと突拍子もない話に、自分は夢でも見ているのかと思ってしまった。
学生時代からの友人でいつも何事もそつなくこなすエトランゼがここまで思い悩むのは、奥さんにプロポーズするかどうか相談を受けた以来だった。
「頼むって…言われても…ねぇ……」
この世界での愛し子はかなり特殊な立場だ。
世間にバレた場合は男の愛し子であっても、その力を求めた人間の食い物にされる。
自分のように魔力目で視ることのできる人間は地の最高位精霊であるノームの加護を受けた者しかいないため、魔力を使わない限りはバレない。
しかし転ぼうとした人間が手を着くように、魔法は息を吸うように使ってしまうものでもある。
魔力を徹底的にコントロールし、100%自分の意思でしか扱うことの出来ないものに仕上げなければ生きていけないのだ。
そんなことは大抵の人間はできない。
だからこそ愛し子は人を避けひっそりと一生を終えるものが多い。
さらに、女の子として匿うとなれば、情報の重みが違ってくる。
今まで世界に存在しなかった者だ。
魔力を使う場所を外部のものに見られて時点で即アウト。
さすがの自分でも情報が漏れないかどうか少し不安になるレベルだった。
「…引き受けてあげたい気持ちは山々だけど、正直厳しいわ。
せめて……女の子じゃなかったら何とかなったかもしれないけれど…」
「なるほど…それならば問題ない。」
エトランゼの自信満々と言った表情に思わず「は?何言ってんだ」と男の言葉で返してしまうと
「ルイには文字通りこれから男になってもらうつもりだ。」
「……ふーん。なるほど。そういうことか。」
「適任がお前な理由、分かっただろ?」
ニヤッとして頭を上げたエトランゼの顔には察しがいいなと書かれていた。
「(地の精霊の最上位から加護を受けている女のカッコした俺が最適ってわけ…)……あーーもーー!わかったわ。引き受ける。
アタシ以外適任いないんでしょ。」
「……恩に着る」
「それで、いつから預かるの?」
「明日、ノスカールのエトランゼ家の別荘に住まわす予定だ。お前も住み込みで頼む。」
真顔で言い放った言葉に数秒の沈黙が流れた。
明日……って!
「…はぁ!?住み込みで!?明日!??もう夕方よ!?!」
「そうだったな。」
「そうだったな。じゃないわよ!!
あんたは昔から余裕って言葉をホントに覚えないわね!!!!」
「ははは。すまん。」
「その悪びれてない顔ムカつくわ!!!」
そんなこんなで大急ぎで支度して、
エトランゼの別荘に向かって、
「貴女がローズ先生ですね」
次の日、素性のしれない私にきっちりと頭を下げるルイおぼっちゃまからは
「ご迷惑おかけすることもあるかもしれませんが、ご指導よろしく…お願いします!」
光と水の混じった見たことないほどの澄んだ魔力を感じた。
それは精霊からの愛情
そして
「…力を貸してくれてありがとう」
精霊への愛情を表しているようで
「はぁ、まったく、最高位2体を同時に呼ぶ…しかも話せる状態でなんて信じられないわァ本当。
……だから、責任を持って一人前にしてやるよ、ルイおぼっちゃま」
…飛んだツワモノになりそうね。