謎と挨拶
そして…あの日の私が触れた石に関してだが、もちろんノアのものでは無かった。
ノアいわく、その日着る服として用意されていたものに仕込まれており、ピンが外れることによって落ちるようになっていたらしい。着た時点では分からないように魔法もかけてあったそうだ。
さらに、現場に残った砂をエトランゼ家を通して王宮の専門機関で調べたところ、人間が触れると同時に岩のゴーレムが出るように仕掛けてあったことがわかった。
魔力から誰が仕込んだものか探ろうとしたが、術式が複雑に組まれており、地の魔力の持ち主であること以外は不明であった。
ただ一つだけはっきりわかることは
ーー何者かが確実にノアを狙って仕込んだということ。
「…こういう事は初めてじゃないしそんなに心配しなくてもいいよ…って全然、大丈夫じゃないじゃない…」
何らかの拍子でノアがそれに触れていれば間違いなくノアは殺されていた。王宮の中ではあるがお茶会に人が集まっているなかならば、全て手遅れの状態で見つけられていたと思う。
手紙も何通か交わしているが、家のことを話したがらないノアからは詳しく聞けないが貴族であるのには間違いないだろう。
いくら魔力が闇であってもここまで狙われるのには事情がありそうなものだが…
「(…まあ、聞いて欲しくないことは本人が話したがるまで待つのが淑女…いや紳士よね)」
それはさておき、
「全然大丈夫じゃないし、心配だから、何かあったら相談すること…なんならうちに避難したっていいからね、っと。これでよし」
人を上手に頼れない友達へ返事書いて、少し早いが明日のランニングに備えるべく眠ることにした。
早朝、空がうっすらしらみ始める頃に目を覚まし、まだ眠たい目をこすりつつ動きやすい格好に着替え、外に出る。
ノスカールに来てからの日課だった
本邸では無いとはいえ、エトランゼ家にふさわしい広さの敷地はランニングにはもってこいで、この後もランニングをすることになるが、私の知っている推し…中性的とはいえ男のルイになるには、苦手なことでも2倍やる精神で行かねばならない。
女の子のこの体ではやはり男の子よりも鍛えねば同じくらいになれないのをここにきてから痛感していた。
なにせ生きていくためだ。
「さてと」
朝の空気を肺いっぱいに吸い込み私は走り出した。
「さて!ランニングお疲れ様。今日このあとは、魔力のトレーニングとするわ」
「ハア…ハァ…ッ!本当ですか!」
あのあとローズ先生と走ったランニング2セット目の疲れが吹き飛んだ。
「(やっとだわ!)」
何度か魔力を学びたいと言ってはいたものの、体力がないんだから、また倒れる気!?となかなかさせて貰えず、アクエリアスとまだ見ぬ光の精霊に挨拶できていなかったのが気がかりだったのだ。
「ええ。ぼっちゃんの魔力は私と似てて(目)で見る限り大きいから、大変そうだけれど…」
ローズ先生は特殊な魔力の持ち主で普通目に見えない魔力を目で見ることが出来る。
その人の魔力の量や大体の属性まで見えるのだからすごい。
「まあ今日は使うというよりもまずご挨拶からしなければね。」
「どんなふうにしたらいいんでしょうか?」
「カンタンよ。心の中で精霊に語りかけるの。会いたい~お話がしたい~って感じでね」
そう言って指をキュッと組むローズ先生は乙女…のような動きをした。そうするとポンと音を立ててローズ先生の肩に小さな土のはにわのようなものがあらわれた。
「ローズ先生…この精霊って」
「ええ。ノームよぉ
あれ?見せるのははじめてだったかしら」
ローズ先生の肩をうれしそうに走り回るノームは土の精霊におけるトップクラスの精霊だ。
本来トップクラスの精霊に加護をうける者は王宮の魔道士に選出され、出世街道をはしるときいているが・・・
「(ノームの加護をうけている人なんて聞いたことないわ・・・)いったい、何者なんです…先生」
「ううふ、乙女は秘密をもつものよぉん」
とバッチリウインクをされてしまった。
「(…これは、聞いても答えてくれそうにないわね)」
でも、お父様が選ばれた方なので危険ということはまったくないとは思うが、乙女の秘密とやらはなぞでいっぱいだ。