生まれ変わりってあるものね
「LOVEMAGIC」
通称ラブマジ
乙女ゲーム業界では知らぬものは居ない、大ヒット異世界恋愛シュミレーションゲームである
演技派の声優陣に加え、繊細なグラフィック、そして何より魅力的なキャラクターに魅せられた女性が多くいた。
かく言う私もプレイヤーの1人であった。
ついさっきまでは。
「大丈夫ですか!!!」
「誰か救急車…!」
人間死ぬ時は一瞬なんていうが、本当だ。
車にポーンと跳ねられて、痛いと思ったらつぎの瞬間こうなっていた。全身が痛いし、寒くて震えようにも体が動かない。
死なんて経験したことないけど、これが死ぬってことなんだなーと他人事のように思えた。
「…!心肺停止です!!!」
「くそっ!救急車はまだか!!!」
周りにいる人の声が遠くなっていく。
重たくなった瞼を閉じると、今までの人生の思い出がパァーっと流れていった。
幼い自分が今の自分になるまでの走馬灯に、ふと、ゲームに没頭している私を叱る母の姿が流れてきて、あーラブマジの続編発売もうすぐだったのになーなんて考えてしまった。
短くまとまった人生を最後までみるとそこで意識はなくなった。
ああ、死ぬ前に推しの顔拝んで死にたかったな……
「…」
「………!……」
ふと、声が聞こえてきた。
くぐもってよく聞こえない声だったが確かに聞こえた。
(もしかして意識を失ったのは一瞬で自分は助かったのだろうか)
と思ったつぎの瞬間、
暗かった視界がパッと明るくなり
「マリーさま…元気な女の子です!!!」
ん?
「……良く生まれてくれましたね…ルイ、素敵な淑女に育つのよ…」
ん???
「エトランゼ家の娘として元気に育つんだぞ!」
ん?????
「アブアブ!」
こちらを見つめる儚げ美人な女性と美青年のような男性。
それと、しわくちゃな小さい手と言葉にならない声に私は確信した。
「おぎゃあああああ!!!(生まれ変わってしまったよおおおお!!!!!)」
ーーーーーーーーーー
あの大絶叫(なき声)からはや10年
「それでは、お休みなさいませ、お父様お母様お兄様」
「あぁお休み」「はい、おやすみなさい」「いい夢をみてねルイ」
家族の声を受け会釈をし、もう身にしみついてしまったご挨拶のお辞儀をして部屋を後にした。
長い廊下を歩き自室に戻ると、侍女達によって寝る支度が済んでいた。
思えば着替えから、ベットメイキング、果てはお風呂まで侍女にやってもらうのに最初は抵抗があったが、こちとら抵抗できない赤ちゃんの頃からやられていたので、慣れというかもはや当たり前のような気がしてくるから不思議だ。
「もういいわ、さがってちょうだい」
「かしこまりました。失礼いたします。」
侍女をはらって1人になりドレッサーに座り鏡に向かう
「はあ…なんどみても…変な感じね…」
水の精霊に愛されたの家柄であることを表す深い夜空色の髪に、長いまつ毛に覆われたキラリと輝く金の瞳。
ちょこんと添えられた涙ボクロには10歳ながらも、恐ろしい事にほのかに色気がある。
普通ならば美少女だなあくらいの感想しかもたないだろうが、私はこの顔に見覚えがあった。
いやそれどころか推しだったのだ。
水の魔術士を排出するエトランゼ公爵家の第二子であり、水の女神アクエリアスに愛された、
ラブマジ攻略対象キャラクター、ルイ=エトランゼそのものの顔である。
ただひとつ違うところといえば
「私女の子なんだよなあ…」
そう、私は女の子として転生していた。
日に日に成長していく自分の姿に毎日思うのは、
……確かに推しの顔拝んでから死にたかったなあと思いましたけども、
推しの顔に生まれ変わりたいとかは言ってないんだけどなあ!!!!であった。
「はぁ…」
思わずでたため息と一緒にドレッサーの灯りを消してぽすんと音を立てベットに倒れ込むとカサッと音がした。
音源を取り出して眺めると、どんどん憂鬱な気持ちになっていく。
「ついにきたかぁ…」
手元にある招待状をながめても現実はかわらない。
そこには読めるようになってしまったこの世界の言葉で
ーーールイ=エトランゼ様
貴女を王家主催のお茶会にご招待させていただきますーーー
そう書いてあるだけだった。