世界から必要とされないハンパモノ
私は冒険者、だった。
いちいち「だった」とつけたのは、今は冒険者ではないからだ。
ほんの一年くらい前まではダンジョンに入ったり砂漠を駆け抜けたりして過ごしていた。
それが今では、このていたらく。
何があったのかなんて、話したくもないんだけど、私は不注意から足を1本失うことになり、冒険者生命を断たれてしまったのだ。
最初は悔しいなんてもんじゃない。
毎日泣いて暮らしたかったけれど、家族もなく辺境の村で過ごしている私を同情してくれる人なんてほとんどいないし、そんな後ろ向きは性に合わなかったので、50分泣いたところで踏ん切りがついた。
幸い、冒険者ギルドにそこそこの貯金もあったし、書写ができる魔法使いだったので、技術を生かして巻物屋を始めた。
町をつなぐゲートの近くで秘薬を拾い、近くの空き地に小さな家を建てて帰還の巻物を1本25gpで売り始めたら、ありがたいことに顧客がついた。
(もちろんギルドで販売の許可は取った。無許可販売は後が怖い)
最近では秘薬と空の巻物を持ってきて
「これを使って帰還の巻物を作って欲しい。報酬は1本15gpだけどいいか?」
と言ってくれる商売人もでてきたから、作るのもずいぶんと楽になった。
店舗と言ってもほぼ自宅だし、不自由な体で町に出たり、秘薬拾いをするのはやっぱり面倒なので、こういった下請け仕事はとても助かる。
ただ巻物を作るだけの、単調な毎日が過ぎていく。
それはそれでいいのかなと思うんだけど、やっぱりつまらない。
冒険がしたいなと思う時がある。
できないのはわかってるんだけど、無性に腹が立って暴れたくなる夜だってある。
そういう時はとりあえず暴れて、落ち着いたら部屋を片付けるようにしている。
その時のむなしさったらない。
ただ何となく生きている、って感じなのかな。
私の巻物を買いに来てくれる人がいなくなったら、世界から必要とされないハンパモノはどうしたらいいんだろうとウツウツ考えることもあるけど。
考えたって仕方ないから、前向きでいたいと思う。
思うことと体がついてこないのが人間なんだけどね。