『学校の勉強が社会になんの役に立つんだよ』
誰だって思ったし、自分だって思ったこと。ただ口に出した事はない。
小さいとか幼いの言葉を並べると、無知である事が大きかった。
代表的な言葉として、
『学校の勉強が社会になんの役に立つんだよ!』
確かに使わない授業なり、技術なりある。
教える者を批判するという意味が強いけれども。
「それでは社会に役立つ学校をしましょうか」
社会という大きいところを1日だけ体験しよう。
それはとってもシビアで、そのような感情は抱かせてくれない。
まだ年月経たない人達には厳しいものであり、ゆっくりと社会を知るには学校という義務を付けたゆる~い小さい社会が必要であった。
伊賀吉峰は、そんなちょっと生意気な子供達に、服従必死の大人社会を体験させてあげようと。一日、社会体験授業を開催してあげるのだ。
◇ 通勤 ◇
ダッダッダッダっ
「はぁっ、はぁっ!?」
「ふぅ、ふぅ!」
体育が好きか嫌いか別れるところである。手軽に遊べるとしたら、サッカーか。ゴールがありゃあ、バスケだろうか。その中で一般の子供が嫌いな運動として、上位を占めるならマラソンではないかと思う。
ただ、よく考えてみよう。
サッカーやバスケ、野球。そーいったスポーツを社会でやるだろうか?ごく一握りだ。
毎日毎日、マラソンのようにタフな仕事をこなすため、タフな体と健康管理は必須。
社蓄の一日はマラソンから始まるのである。いや、それ以上かも。
つまらない陸上競技の模倣が朝からイヤを言わせず、実行される。
「か、階段ダッシュ!?」
「駅構内ダッシュ!?」
地響きなど当たり前。
1つの列車全てに人間を押し込んで進み、1つの駅で激しい乗り換えが起きる。
ミギイィィッ
「ぜ、ぜまい……」
「潰されてる……」
満員電車の暑さ、圧縮される力、目的の駅に降りるための体力と技術。声をかけて譲ってもらう大変さにありがたさ。全員同じような時間で仕事を始めるのだから、この混雑は必死と言えよう。
「通勤のテストは東京駅マラソンだからな!ラッシュ時の駅構内を3周してもらおう!!」
「で、できるかぁっ!」
「大迷惑じゃあないか!」
◇ 呪文 ◇
「では、1時間目の社会体験授業を行ないます。1時間目は”呪文”です」
「え!?さっきの、授業じゃなかったの?」
「通勤ですよ。授業じゃないです。通学と一緒ですよ」
「伊賀先生!ひでぇっ!」
仕事をする以前の難題。
仕事へ向かうという大変さ。
「学校の遅刻は笑って済むものです。しかし、社会はそー甘くありません。あなたの給与、あなたの評価に繫がるものです。社会人になったら、甘く考えないでください」
「おいおい!そんな社会があると思っているのか!?」
「ちなみにバス編、自転車編、徒歩編、車編。台風編など、色々盛り沢山ですよ。台風だからって仕事を休めるとは思わないように。ちゃんと働く方がいますからね。お前等、社会を舐めている」
初っ端から大ハードな事が授業扱いにされない。
社会に必要な事だけを求めた今日1日の初っ端がおかしい。生徒達は思う。
「というか、”呪文”って授業はなんだよ!?」
「魔法を唱えるのか!?」
「半分は当たりです。ただし、メラやイオの類いではなく、バイキルトやスクルトを唱えるといったところでしょう。さぁ、練習です。はい、私に続けて」
『お客様の安心安全第一を念頭のご対応をします』
「お客様の安心安全第一を念頭のご対応をします」
『1日10営業、笑顔で訪問、笑顔で説明、笑顔で勝ち取る』
「1日10営業、笑顔で訪問、笑顔で説明、笑顔で勝ち取る」
『無事故無違反、安全運転の徹底で今日も働く』
「無事故無違反、安全運転の徹底で今日も働く」
『ありがとうございました!1000を言えるお客様にお応えしましょう』
「ありがとうございました!1000を言えるお客様にお応えしましょう」
・
・
・
なんだこれは。体育関係の気合の入った掛け声とはまったく違う。どことなく優しさを感じるが、闇を隠せていない呪文の数々は……。
「こ、こんな授業。役に立つのか?」
「はい!そこ喋るな!!一からやり直し!!お前等、ちゃんと呪文を唱えなかったら!罰として最初からな!連帯責任で全員やり直し!」
「な、なんでだよ!?」
「規則なんです!いいですか!この”呪文”という授業はですね!洗脳授業なんです!」
「俺達が洗脳されるの!?どーいう事だよ!使えねぇ呪文!」
「今日一日働くあなた達をしっかりと洗脳するために必要な授業なんです!間違えたり、小言を言っていたら!即座にやり直し!」
この授業の恐ろしさは洗脳される事と同時に、これによって連帯意識を高め、負の感情を沸き立たせるものである。こんなつまらない授業をつまらない事で繰り返されるのは、非常にイタく。仕事になればこんな呪文なんて、まったく意味がないのも知っているからだ。
◇ 営業 ◇
「ありがとうございました」
作者はコミュ障かつ対人恐怖症なので、営業が壊滅的にできません。
いつも顎を落として、人と面を向かう事はないです。
「こちらの商品はですね、その、えっとー」
「はい、ダメーー!それではお客様は釣られません!営業の基本、商品やサービスの説明に大事なのは、メリットをとにかく伝える事です!メリットを大きく伝えるのです!ハッタリだってかまやしない!ご利用していただくことが最優先です!」
どんなサービスには良いところ、悪いところがある。人の多くは悪いところを見る傾向が強い。
「良いところを見れる人間になりましょう。そこで問題です。なぜ、人の多くは悪いところばかり観ると思いますか?」
「そ、それは……あー、なんだろ」
「良いところだって見るけど。でも、なんか。なんて言えばいいか」
「答えは人を蔑む事で自分の立ち位置を確保、安心する事です。テストで点数の低いという事実をバカにするでしょう?運動のできない子を哂うでしょう?その多くの本心は、自分が誰かに優っているという安心を持つためです!どんな場所でも、どんな時でも、自分が安心になれるところを人は求めるのです」
なんだか、ムッてしたくなる答えを突きつけてくる。
反論。
「なんですか!その言い方!」
「私達が傷つけ合う生物だって言うんですか!?」
「その通りです」
「人間はそんな悲しい生物じゃないですよ!」
「獅子は縞馬を捕食するでしょう。そして、獅子同士で食い合う事も珍しくないです。人間もそんな生物の例に漏れず、知性と秩序を添えて、ナワバリを守るのです。野生動物以上に曖昧で歪なナワバリを人間は守るのです。皆さん、全員と友達ですか?嫌いな人だっているでしょう。また、好きな人もいることでしょう?」
セールストークを始めとした、”何かを讃える”基礎を中心に。
飛び込み、キャンペーン、お客様対応、商品勉強など様々な学習を行なわれる。
まず、何かを讃えるのなら、何かを傷つける事で差をつける。
悲しく多くあること。
◇ 製造 ◇
「3時間目は製造です。皆様に配布物があります」
授業名は製造。ここまで多くある商品が生み出される過程。
男子にも女子にも配られたのは抗菌ペーパー。箒とかぞうきんとか、バケツとか
「不衛生はいけません」
「これ掃除じゃあないか!」
色んな物を作るという授業。その上で必要なのは
「空間の整理整頓です。食品工場でしたら、汚れは問題になります。手洗い、消毒も当然」
「サボってる人もいるんじゃないですか?」
「だからいけませんよ。そーいう人になっては……。なんにしろ、工場に勤める方、料理人になりたい方などいるかと思いますが。そーいう技術を私は教えられないので、専門分野で学んでください」
「授業投げた!!」
どんな仕事も整理整頓をする技術が必要である。ただキレイにすることはまだまだ3流の甘ちゃんの発想である。
「整頓と整理は大切です。物事にはちゃんとした流れがあり、それを把握するために知識と経験が必要です。整頓することで物事を単純化、高速化していき。整理することで管理と安全を守る。お使いのPCのデスクトップはキレイですか?」
「どこに向けて言ったんですか?」
「汚いところでは気力を削られます。キレイに保つ意識と継続は必ず、成長と結果に繋がりますよ」
ここまで色々と酷すぎた授業ではあったが、これだけは優しくてタメになりそうな授業であった。
「ふぅー、キレイになった」
「やれば必ず実るのが掃除です。当たり前ですが、やりゃあできるという自信を付けるのは、掃除なんですよ。ルンバに頼っても良いんですけど、整頓はしてくれませんよ」
◇ 対応 ◇
「4時間目です。もうすぐお昼ですね。休息は次の時間です」
給食が待ち遠しくなるお昼の時間。腹の虫が良い感じで鳴っているところに、最悪の授業をぶっ込んでくる。まだ子供達は知らない。
「あー、飯食いてぇ」
「分かります。私も腹が減っています。すると、イライラしてきます。そんな時に”対応”という面倒がやってくるのは珍しくありません」
単純な肉体労働や複雑怪奇な頭脳労働とは違ったもの。
勝負なんて事はないのに、どちらかが降りるか降ろすかの我慢比べとなるのが、対応と呼べるものだ。
本当ならこんなこと起こらない事、起こさない事が良いものだ。
「『火事が発生したぞーー!』という事が起こったとしましょう」
「いきなり怖いんですけど、ビックリしたぁ」
「機械音でやるなよ」
「様々な例がありますが、対応をよく迫られるのは消防隊員や救急隊員、警察なのでね。その他の対応はまた人間模様が大変ですから」
対応とは、緊急が行なった事である。
火災なんてその最たる例であろう。普通に思い浮かびやすい。
「あなた達は消防隊員です。今、家に取り残された子供を助けて欲しいと、その家族に訴えられました。さぁ、どーします?なんでも良いですよ。答えは色々あります」
「いや、今すぐ助けに行けよ!ちゃんと防火服着てるんだろ!お前等!」
「んー。炎が上がっているところを確認したり、他の消防隊員との連携も必要じゃないかな?」
「消防隊員が言っちゃあなんだろうけど。ちゃんと火元は確認して、事前に抑えておけよ。家を火事にする方がダメじゃん。(放火なら仕方ねぇけど)」
「まず、周囲の安全と飛び火しない事、それと俺達の安全だろう。それから子供の救出に向かう。2次災害や火が飛び移ったら大変じゃねぇか。子供は辛いだろうけど、俺達が到着した時に死んでいたら頑張りが無意味だ」
色々と意見は出てくるものだ。実際にこんな事を起こさないが大切であるが、”対応”とはいつも当たり前にできた事が壊れる事である。
今、サラッと出てきた多くの意見は全て、正論と言える範囲だろう。おそらく、消防隊員としての心がけやルールに乗っ取れば、4番目と2番目が正しいだろうか。しかし、家族としては1番目の意見、気持ちが優先。赤の他人から見れば、3番目か。
全てが正論にもなるし、全てがそうじゃないとも言える。それに対応していく授業。
「色んな意見が出たね。そんなこと巻き込まれないって思う気持ち、自信は大事だよ。純粋な答えはないけれど、ひとつ正しい事はそんな場面に遭遇したら、冷静に対処する事だと思う。消防隊員の正論を説いても、被害に遭われた家族は納得しないだろう。じゃあ、家族の正論に従って無謀な突入をし、消防隊員も子供も亡くなったら、その家族は消防隊員の家族から恨まれることになる」
火災とは分かりやすいが、万人受けする例とは良い難い。
互いの正論、自論のぶつかり合いは頻繁だって言うのに、多くが正しい答えにならない。数学のように簡単じゃない。落とし所が難しい。
最近、自分もまたトラブルと当たったけど。『荷物が届かないから全国探しに行け!使えねぇゴミ野郎』『お前の家に荷物なんか着てないぞ!話し聞けバカ野郎』……っていう感じの、こちらからでも相手からでもどーにもならない問題を、お客様と対応者という感じでやり合ったところです。電話を切ったら、お互いにこんな感じの発言祭りです。
ここまでの事が起こると、本当に荷物が発送されているのかどうかチェック、荷物を引き受けた人物のチェックなどの対応をするんですけれど。そんな事をすぐにチェックできたり、記録できてるわけでもないので未だに終わらず、何もできない状況。中間で最悪盗まれていると、もう私共の手に負えません。が、お客様もそれで納得なんかできません。そもそも、この状況では私共の仕事、言葉、記憶を信頼なんかできないので、『お前等なんか使ったのがバカだった』と言われるのも必死なんですよね。
ホントに届いていないのはこちらの事実ですが、その事をお客様からでは判断、証明もできないのも事実なので辛いところです。互いに分かっているのはお客様に荷物が届いていないという、100%の事実。
「正論や落とし所が難しい対応はいくらでもあるんですよ。それを学ぶのは酷ですよ、ホント。互いに罵倒必死です」
◇ 早食 ◇
「お待ちかね、休憩の時間です」
「やっほーー!」
「飯だーーー!」
休憩時間と言いながら、漢字は”早食”。
各、机に置かれたタイマーは10分を表示。
「食事時間は10分です」
「ゆっくりワイワイ食わせろよ!」
「それでは一流の社蓄は作れませんよ。そもそも、食事をするための準備、片付け、あるいは精算。それから移動なども考えたら、食事時間は5分と言ったところでしょう。ゆっくりスマホ弄る時間もありゃしない。10分もあげるなんて私、優しい」
「ちょっと待ってください!労働基準法では45分の休息が必要ですよ!!」
「ええ、そうです。休息はとらせてます。その休息中、”何をしていても本人の自由”です。休息中に仕事をするのは咎められませんよ」
「嘘付け!!」
シビアな話し。
「誰かを出し抜くから休息中に頑張るのも1つの手なんです。夏休みの宿題を3日で終わらせるように。それとね、休息をとっていたから残業しましたなんて、通用しないよね(実話)。タダ働きにしてもらうよ」
「クソブラック過ぎる!」
「何を言っているんだい。まだまだ白いですよ、このくらい……。逆に言えば、仕事が終わったら帰りますし、手伝いなんかしませんよ。って事にもできるんですよ。”対応”は唐突に降ってくるので、これを回避するなら早く仕事を終わらして逃げる事なんです。対話ができなければ、向こうも諦めたりするんです。一度対話をすると長いのですよ」
◇ 残業 ◇
「本当だったら今日は午前中で終わらせてあげようと思いましたが、残業って事にしましょう」
「午後の授業を残業扱いですか……」
「ちなみに1つの授業に付き、50分の講和、実習でしたが……この残業は一体何分で終わると思いますか?法的な意味で答えられる方」
答えたくないが
「4時間。240分ですか」
「じゃあ、240分残業をしようか。サービス残業をしなければサイコーだね」
「止めてくれませんか、その言い方」
「パワハラですよ!パワハラ!」
ドーンッ
「甘いぞ、ガキ共!!毎日なぁっ!涙ぐましいパワハラをさせられ続けて、様々なサービスが成されているんだ!お前等はまだ色んな仕事を知らないだろうが、そこにはちゃんと頑張っている人達のおかげがあるんだぞ!!なんでこんな授業をしているか分かるか!!『学校の勉強が社会になんの役に立つんだよ』って事を羨ましくさせるためだぞ!!」
机を叩いたはいいが、ジーンってなって、手を抑えている伊賀。
あれ?これ先生や大人の悩みじゃね?
「確かに技術革新などで仕事はスムーズになった。だがその分、仕事が増やされて、さらに人が減っていく社会だ!まったく!お前達が大人になった時、どんだけ大変になるんだろうって、心配になるよ!最近の子供は英語やプログラミングも授業の必須にされているみたいだし、学ぶ場所も増えて、人間の向上が問われている。これが凄いことなんだよ。俺達よりも大変な子供時代だけど、でも大人になったら絶対にもっと大変な時代が来る」
子供に戻りたいわけではないが、子供の将来は心配してくれている。
学ぶ知識、質がドンドン向上かされ、若い世代の成長は本当に著しい。反面、
「この凄い環境についていけない子供達がいる。学習の質が増えた分、激しい劣等が生まれるものだ。そんな子供達を助けてあげたい、力になりたい。そー思っていても、そんな子供達はきっと分からない。知らない。未来に恐れてしまっている。確かに未来が明るいとは良い難いし、現在イジメという自分だけが特別に浴びていると感じる事もある。だけどな、救える言葉でも行動でもないけれど、自分がやれる事はきっとある。確かに誰でもできる事かもしれないモノでも、自分がそれを伸ばすという努力、楽しみは、環境に左右されない。むしろ、今の時代は後押ししてくれる」
分かりやすいところではこのサイトもそう。小説家になんか成れないだろうけど、こうした場で公表することができ、作品を作り続けることも本人の意思でできる事。マネごとで、道楽であっても、夢を見ている事には変わりはない。
芸能人になるなんて難しい事であるが、動画サイトも色々できて、ちっちゃなテレビ局のようになれる世の中。夢は大きく広がっている。飽和するぐらい。
「大人になったら、お前等の時代に生まれたかったって、後悔するぐらいに楽しんで生きろ」
「……伊賀先生!1ついいですか?」
「うん」
「なんなんですか、この授業……。なんの残業?」
「ウザイ上司と先輩の武勇伝、自慢を聞くという残業なんだよ。ストレスが溜まっているんだよ」
いや、生徒達(下っ端達)のストレスが溜まるだけじゃね?俺達はどこで解消すればいいんだ。まさか、家に帰るまでできないのか……。
◇ おまけ ◇
1人の女子生徒の帰り道。その後ろを付いていく者。
「すいません、学校も終わったのになんで付いて来るんですか?伊賀先生」
「生徒の健康管理のためさ。君、授業中に欠伸ばかりしていて、睡眠不足だったな。ニキビもできている。食事はちゃんと3回、好き嫌いなく魚、肉、野菜、ごはん(あるいはパン)を食しているかな?」
「気持ち悪いんですけど!」
「夜は遅くとも23:00までに寝て、5時には万全の状態で起床するように。女性の支度は男性と違い長いのだから、それぐらい」
「ついてこないでください!!」




