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彼氏

 彼女は泣きながら喋っていた。嗚咽混じりでよく聞き取れなかったが、何度も使うごめんねという言葉だけは聞き取れた。なぜ謝っているのかはわからなかったが、なぜ泣いているのかは察しがついた。トラックに轢かれたのは、彼女の彼氏だったのだろう。だから喫茶店に一人で来ていたのだ。予想以上の真実に、裕太は動揺していた。走って上がった心拍がさらに上がり、ひんやりとした汗が全身に流れる。

 彼女は涙を拭いて、花を置き立ち上がる。


「グスッ……ハァ……じゃあ…グスッ……またね」


 裕太とは反対方向に歩き出した背中は、じゃあまたねの返事を待っているように見えたが、それはもちろんコソコソと隠れている少年の返事ではない。どうしようもないことだが、何もできない自分の無力さに、うんざりする。


 彼女の背中が見えなくなると、さっきまで置物みたいに動かなかったチャッピーが、花束の方に近づいて行ったと思ったら、後ろの狭い路地に入って行った。


「おい、まだ何かあるのかよ」


 これ以上何があるんだと思いながら足を進める。狭い路地は真っ暗でほぼ何も見えない。こんな時間こんな場所にいるのは、幽霊くらいだろう。


「お前ー、こんな時間にどうしたんだよ?よしよし」


 その声は聞き覚えのない若い男の声で、自分に向けられたものだと思い一瞬ドキッとしたが、どうやらチャッピーに向けられたものだったようだ。裕太はポケットから取り出したスマホで路地を照らすと、座ってチャッピーを撫でている男と目が合う。


「うお!!」


 若い男の大きな声が、路地に響き渡った。


「すみません、びっくりさせちゃって」


「は?」


「え?」


「俺のこと、見えんの?」


 驚いた顔で自分を指差し、若い男は勢いよく立ち上がる。


「はい?そりゃあ見え……!!?」


 金髪の髪、背が高い、彫りの深い顔、男前、不良っぽい。全ての特徴が一致している。詩織が言っていた、あの特徴に。多分、この人は山崎さんの彼氏だ。しかしそんなことがあり得るのだろうか。半信半疑で裕太は質問をする。


「あの、失礼ですが、もしかして……亡くなった……立花永遠さんですか?」


「ああ……そうだけど……幽霊の俺が見えるなんて、あんた珍しいな」


 驚きのあまり、裕太はしばらく言葉を発することができなかった。死んだ人間と話すの初めてだったが、生身の人間としか思えないほどはっきり見えている。


「あんた、俺のこと知ってんの?」


「ええ、まあ。ニュースで見たので」


「ニュース?さてはお前!彩花のストーカーかなんかだろ!?こんなことして許されるとでも思ってんのか!?」


「違います違います!なんでそうなるんですか!!俺はその子の飼い主なんです!!」


 盗み見をしていたのは事実だったが、ストーカーと言われるほどのことはしていないので、全力で否定する。こういう類の人間は急に怒鳴るから苦手だ。


「この猫の飼い主?でもなんで俺のことを知ってるんだ?事故のニュースには俺の顔までは出ていないはずだ。やっぱり怪しいな」


「そういうことか。話せば長いんですが……」


 裕太は喫茶店であったことと、チャッピーに案内されたことを話す。しかし、詩織との勝負のことは説明するのも面倒なので話さなかった。山崎さんを知っていたのはあくまで、彼女が有名だったからということにした。なんとか誤解は解けたようだ。むしろ理解がは早すぎるくらいに、彼は納得した。


「彩花がコーヒーをねぇ。あいつは普段キャラメルなんとかだのを飲んでたけどな。でも泣いてるのは、いつものことだ。あいつ、よく泣くから」


「そうですか。因みに、立花くんはチャッピーとはどういったご関係で」


 裕太は同級生であっても敬語を使う。なぜかと言われるとなんとなくだったが、一真には裕太が人と話す時はバリアが見えるとよく言われる。呼び捨てや下の名前で呼ぶのは親しい人だけだ。友達が少ないのもそのせいかもしれない。要するに人付き合いが苦手なのだ。


「ぷはっ!!ご関係?なんだその丁寧な喋り方は!あと永遠でいいぜ永遠で。そういやあんたの名前聞いてなかったな」


「小川です」


「下の名前は?」


「裕太です」

 

「そうか!じゃあ裕太って呼ばせてもらうぜ!」


「いいけど、俺は立花くんって呼ばせてもらうよ」


 裕太のバリアは中々硬い。あの一真でさえ、半年は井上くんだったのだから。


「そっか、まあいいけど。この猫とどういう関係かって?うーん、あんまり覚えてないんだけどな。たしかトラックが突っ込んだ先にこいつがいて、とっさに体が動いちまったんだよな。んで、気づいたら死んじまってた」


 平然と話しているが、凄いことを言っている気がする。色んなことがあって頭が混乱しそうだ。チャッピーは立花くんに頭を撫でられながら、静かにニャーと鳴いた。



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