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情報

 次の日、裕太は早速クラスの友人、井上一真に情報を聞き出していた。


 一真とは中学からの友達で、女子の情報は一真に聞けばわかると男子生徒の間では有名だった。隣町の女子校も例外ではない。むしろ一真の真骨頂は、他校の女子の情報量の多さだ。

 どこからそんな情報を仕入れるんだとか、他にやることはないのかと普段は一真を馬鹿にさえしていたが、今は一真様と呼びたい気分だ。


「で、誰の情報が聞きたい?言っとくけど、これだぜ?」


 と麺を啜るよな仕草をする。要は情報を教える代わりに好物のラーメンを奢れと言っているのだろう。こんなことになるだろうと思って財布にお金は入れてきた。

 裕太は返事をする代わりに、財布の中から五千円札を取り出し一真に見せつける。



「ふむ、分かっているではないか。流石は中学の頃からの付き合いよの。褒めてつかわすぞ。」



 一真は得意げな顔でメガネをくいっと上下させ、情報が詰まっているであろうメモ帳を胸ポケットからとりだし、偉人のような口調で言う。見た目は優等生なのにおふざけの多い奴だが、周りから好かれてるし、女子にまあまあモテる。



「本題に入るけど、俺が欲しいのは山崎さんの情報なんだ」



 自分のような凡庸な男が、その名を口にすることは中々に恥ずかしいことだったから、できるだけ周りに聞こえないように小さな声で言うが、一真はその名を聞いた瞬間に目を丸め大声を出す。



「山崎さん!?裕太お前、山崎さん狙ってんの!?」



 先程の偉人設定はどこへいったのかなどと突っ込む暇もない。教室にいる生徒の目線が裕太に一斉に突き刺さる。山崎さんはこの学校の男子のみならず女子の認知度も高く、知らない生徒はまずいない。これはまずい。どうにか弁解しないと学校中の笑い者にされてしまう。



「いや、違うって!ほら、地下アイドルの山崎由紀っているだろ?あれの握手会のチケット、狙って応募したのに落選したんだよなぁって話だよ!」



 そんな地下アイドルは存在しない。裕太は追い込まれると嘘をついてやり過ごす癖があった。無理矢理な嘘に一真も察して、



「ああ、そうであったそうであった!皆失敬!!私の勘違いであったよ!!」



 とクラスのみんなに弁解をした。するとクラスの視線は、裕太からゆっくりと離れる。

 なんだ、小川ってアイドルオタクだったのか、どうでもいいけど。みたいな表情を浮かべつつも教室はいつもの空気に戻る。



 ただ一番前の方にいる詩織だけが、机に顔を埋めて肩を震わせながら爆笑していた。詩織の横にいる友達が、どうしたの?っと心配そうな目で詩織を見ている。


 これ以上教室でこの話をしたら、なにか危険な感じがしたので、今日は一真と一緒に帰ることにして、その時に改めて話を聞くことになった。



 放課後、一真と一緒に校門を出るとそこには詩織がいた。



「ねぇ、今から井上くんとどこ行くの?」



 と満面の笑みで聞いてくる。

 恐らくだが俺と一真のやり取りを見ていたんだろう。麺をすする仕草と五千円札を取り出しただけで勘付くなんて、脱帽だ。

 どうせ誤魔化したってついてくるに決まってる。それに詩織にはどうせ口止め料を払わないといけないんだ。ラーメンで済むなら、それがいい。



「しょうがない、詩織も来るか?」



 と頭を掻きながら言う。裕太があまり嫌がらなかったのが意外だったのか、詩織は少し驚いた顔をしたがすぐにいつもの調子で、



「言っとくけど、私ラーメンじゃなくて甘いものが食べたいの。駅前のカフェ!あそこの新作フルーツタルトがすっごく美味そうなの!!」



 と目を輝かせた。ラーメンとはまだ言ってないんだが、麺類ならうどんやそばの可能性だってあるだろうに。エスパーかこいつは。



「でもな、一真がラーメン食べたいって言ってるんだ、なあ一真」



 俺はともかく、あまり接点のない一真がラーメンがいいと言えば、詩織も強引にはできないはずだ。

 すると一真は裕太の思いを汲み取ったのか、フッと笑みを浮かべて裕太の肩に手を乗せ、いかにもお前の気持ちは分かってると言わんばかりの浸り顔で、


「なに言ってんだよ裕太、俺がいつラーメンを食べたいと言った?俺が食べたいのは、駅前のフルーツタルトだ」


 と甘い声で言う。期待した俺がアホだった。こいつは女子に滅法甘い。それが可愛い女子なら尚更で、駅前のフルーツタルトなんかよりよっぽど甘いだろう。あとでこいつには、フルーツタルトを啜ってもらおうと裕太は思った。



「ほら裕太、井上くんも食べたいって言ってるし、ね?」



「分かったよ、行けばいいんだろ行けば」



 めんどくさそうに言うと、一真が耳元で囁く。


「まあそんな怒んなよ。実はな、駅前の喫茶店に山崎さんが来るかもしれねぇんだよ。あそこ、山崎さんの行きつけの店なんだ」


一真は妙に機転がきくときがある。こいつがそこそこモテるのもこういう所があるからだろう。詩織と一真、この組み合わせは面白いかもしれない。


 

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