蹴球
だが、そんなことはどうでもいいと裕太は思った。自分がやるべきことは、彼との約束を守ることなのだ。生前の立花くんがどうであれ、チャッピーを助けてくれた事実さえあれば関係ない。そう自分に言い聞かせる。
結局ホームルームが始まっても山崎さんは学校に来なかった。あんな事があった後だから無理もない。わずかな希望にかけ、3限目が終わるまで学校に居座ったが、やっぱり来なかった。これ以上待っても来ないだろうと思い、裕太はなんとも言えない感情を抱え、学校を後にした。
病院に戻ると、そこに立花くんの姿は無かった。立花くんの代わりにこんな置き手紙があった。
――暇でしょうがねぇから、先に学校行ってもいいか?心配すんな。うまくやる。――
突っ込みどころが多すぎて戸惑ったが、裕太はすぐに学校へと向かう。何がまずいかって、今日の4時限目は体育なのだ。今度クラスマッチがあるので、恐らくサッカーをしているだろう。サッカーは苦手ではなかったが、サッカー部並みにうまいわけでもないし、性格上いつも授業に参加するふりをしている。だが立花君はどうだろう。運動神経がいいと豪語するくらいだから、最初のうちはおとなしくしていても、途中から我慢できなくなっているに違いない。
裕太の悪い予感は的中した。学校のグランドに着いたときに目に飛び込んできたのは、裕太ならぬ立花君の鋭いシュートが、ゴールに突き刺さっている光景だった。そして立花君は雄叫びをあげる。周囲の生徒たちは唖然としている。無理もない。普段おとなしいアイドルオタクの貧相な足から、弾丸のようなシュートが繰り出されたのだから。
授業後の昼休憩に、屋上に立花君を呼び出す。
「お、裕太。彩花はいたか?」
「いなかったよ。休んでた。それより、なんで先に行ったの?」
裕太の顔は不機嫌そのものだ。
「そうか、休みか。というかなんで怒ってんだよ裕太。確かに先に行ったのは悪かったけどよ。俺うまくやったぜ?さっきもよぉ、体育のサッカーでゴール決めたんだぜ!!」
そんなことを言いながらのんきにあぐらをかく。当の本人が全く悪びれていないので、裕太も起こる気が失せる。裕太は大きなため息を吐いた。その後いろんな質問がしたが、病院の手続きは親に任せとけばいいだとか、家には2階の窓から入っただとか、裕太をあきれさせた。
「もうなんでもいいけど、とりあえず学校では大人しくしててよ」
「悪かったって裕太」
そう言って両手を合わせるが、信頼できない。すると屋上のドアが急に開く。ドアの先には一真がいた。何やら真剣な表情だ。しばらく立花君を見つめ口を開く。
「なあ、お前裕太じゃないだろ?」