病室
「んっ……あれ?なんだここ?」
立花くんが眼を覚ます。どうやら状況が飲み込めてないらしい。
「気がついたの?よかった」
「あれ?俺たしか裕太の体に入って...!?おい!!彩花はだいじょうぶなのか!?」
体を勢いよく起き上がらせ、裕太の肩を掴もうとするが立花くんの手は裕太の肩をすり抜ける。
「落ち着いてよ立花くん。ここは病院だ。山崎さんは無事だよ。精密検査にも異常はなかったみたい。お母さんらしき人が迎えに来てたよ。立花くんの…俺の体も異常はないみたい」
「ああ…そうなのか、よかった」
少し安心したのか、こわばった表情が優しくなった。
「そうみたい。これが先生の言ってた分離ってやつみたいだね。スタンガンと頭への衝撃が原因みたいだけど、なんで山崎さんあんなもの持ってたの?」
「ああ、俺が護身用に持たせたんだよ。ストーカー対策にな。まさか自分に向けられるとは思わなかったが……」
「でもよかったよ。山崎さんが無事で」
「いや、またあんな事があるかもしれねぇと思うと、気が休まらねぇよ」
そう言って立花くんは苦い顔をした。
「それなんだけど。実は山崎さんが気絶する時、黒い影が出て行くのが見えたんだ。だからしばらくは大丈夫じゃないかな。また取り憑かれない確証はないけど」
「そうか。でもやっぱり心配だな。こんなとこにいる場合じゃねー。悪いけど裕太、明日彩花の学校に様子を見に行ってもらえねーか?多分今は裕太のこと、周りには見えてねーんだろ?」
「いいけど、立花くんはどうするの?」
「俺は、学校に行く!」
先程までとは裏腹に、生き生きとした表情で立花くんは言う。
「え、なんで?」
「だってよー。戻る方法が分かんねーだろ?あの先生も言ってたろ?長時間の分離は危険だって。俺は彩花もだが、裕太の安全も保証したい。それに……」
「それに?」
「楽しそうだろ?」
立花くんと学校に行った時に思ったが、立花くんは相当学校好きみたいだった。裕太にとって学校は退屈で仕方なく通っている場所だったが、立花くんみたいな人種からすれば、生前の学校というのは楽しくて仕方の無い場所だったのかもしれない。
「はあ、分かったよ。でも条件がある」
「条件?」
「俺もついて行く。明日の朝、俺が山崎さんの様子を見に行くから。学校に行くのはその後だ。君だけだと心配で仕方ない」
「ちぇー、まあそれもそうだなー」
案の定、俺がいない間に何かする気だったらしい。油断も隙もない。
「まあ、今日は早く休もう」
「ああ、そうだな」
再び病室が静かになる。その静けさと病院特有の空気のせいで、少し不安な気持ちになる。果たして山崎さんは大丈夫なのかと。それでもいつのまにか寝ていたが、翌朝立花くんの顔を見てみるとクマがあったので、きっと立花くんはもっと不安だったのだろう。寝てないのと聞くと頑なに否定するので、それ以上追求するのはやめた。