分離
いや、違う。なんだこの感覚は……体が……離れて行ってる?尻餅をついた自分の目の前に自分が倒れている。まさか、これが先生の言っていた分離ってやつか?
「裕太!!」
一真が叫び、立花くんは驚いたように二人の裕太を交互に見ている。
しかしその間にも、山崎さんは手すりを乗り越える。
そこでピンときたのか立花くんは裕太の体目掛けて猛スピードで走り出す。立花くんが裕太の体に触れると、吸い込まれるように立花くんは消える。
すると裕太の体はピクッと動く。先生の言った通りだった。立花くんは裕太の体に乗り移ったのだ。
「なんだこれ、動かねぇ……」
しかし、先ほどのスタンガンのせいで体が麻痺してうまく動けないらしい。
山崎さんが飛び降りようとする。ここで一真が動き出すが、一真の距離じゃ届かない。
「ゔぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
立花くんは力を振り絞り起き上がる。後ろからだきつくように、飛び降りようとする山崎さんの体を無理矢理引き戻す。山崎さんの体は宙に浮き、こちらへ引き戻すことに成功したが、立花くんを下敷きに二人は倒れる。しかし山崎さんは抵抗を続ける。
「離してって言ってるでしょ!?」
スタンガンを立花くんに向ける。立花くんは流石に起き上がれないようだ。突き刺さると思ったその時、一真がスタンガンを振り払う。
「彩花!!いい加減にしろ!!」
バチン!!鈍い音を立てて立花くんが山崎さんの頬を叩く。
「いい加減目ぇ覚ませ!!いいか?死んだら終わりなんだよ!!いいことなんかひとっつもねぇぞ!?誰かが悲しんで、それで終わりなんだよ!!それで死んでから気付くんだよ、生きていた時間がどんだけ幸せな時間だったか……だから絶対に俺の前でお前は死なせねぇ。死んでもだ!!」
山崎さんの肩を揺さぶり立花くんは叫ぶ。その叫びが届いたのか。山崎さんは膝をつき、先ほどまでの表情とは違い優しい表情を見せると、「永遠くん」と呟き倒れる。その時、彼女の体から黒い影が出て行ったような気がした。
「!?おい、どうしたんだよ、あや…か」
限界だったのか立花くんも倒れる。
「山崎さんも裕太も倒れちまった!!どうすりゃいいんだこれ?とりあえず救急車か!?」
一真はパニックになりながらも救急車を呼び、二人とも病院に運ばれた。俺はというと、立花くんと一緒に救急車に乗り病院へついて行った。精密検査も異常はなかったみたいだ。
山崎さんにも異常はなく、意識を取り戻した時は止めてくれたあの人に会いたいと一真に頼んでいたが、立花くんの意識が戻らないので話すことはできず、病院の面会時間が過ぎる頃に彼女の母親らしき人と一緒に家へと帰って行った。
彼女の母親は病院からの連絡の後すぐに来て、事情を一真から聞いた時は何度もお礼を言い、また後日お礼をさせて下さいと一真に連絡先を聞いていたが、一真は「俺は何もしてません。お礼なら裕太にしてやって下さい」と首を横に振った。
俺の母親はというと仕事で病院には来れないみたいだった。分かっていたことだが、やっぱり少し寂しかった。暗い病室で自分の寝顔を見ているのは不思議な感覚で、なんだか背筋がムズムズした。