捜索
準備室から出ると立花くんの様子がどうもおかしい。下を向いてずっと何か考え込んでいる。
「立花くん、どうかしたの?」
「なあ、さっきの独り言の話あったろ」
「ん?それがどうかしたの?」
「いや、彩花は大丈夫かなって」
ガードレールの前で呟いている山崎さんの姿が脳裏を過る。
「あれは君に話しかけていたんだ。独り言じゃない」
「でも、彩花の心は弱ってる。それにつけ込むのが悪霊なんだろ?」
「うん。確かに、いつ取り憑かれるかは分からない」
「それにストーカーだっていつ出てくるか分かったもんじゃねーんだ。様子を見に行きたい。裕太、来てくれるか?俺は何もできねーからさ」
立花くんは悔しそうに歯を食いしばり、拳を握りしめた。裕太の返答は決まっている。
「当たり前だよ。約束は守る主義なんだ」
それから二人は山崎さんの通っている女子校へと急いだ。立花君が中の様子を確認すると、どうやら彼女はもう帰っているらしい。仕方なく彼女の家までの道を辿ることにしたが、喫茶店、商店街、遂には家にさえ、彼女の姿はない。
「彩花の奴、どこ行ったんだよ」
「もう心当たりのある場所はないの?」
「ああ……まさか連れ去られたとか……」
「滅多なことを言うもんじゃないよ。もう一度考えてみよう」
今一度彼女の姿を思い浮かべる。裕太の少ない情報から、今いる場所を特定することは難しい。しかし昨日の出来事なだけあって、鮮明に彼女の姿を思い浮かべることはできた。そしてある点に、裕太は気づく。
「花束って、山崎さんは毎回君に持って来るのかな?あの白いやつ」
「ああ、最初のうちは定期的に持って来てたんだけどな、2ヶ月くらい経つとすぐ近くにある八百屋の店主がさ、こんなもんあったら商売の邪魔になるとか言って持ってきた花束毎回取ってくんだよ。だから最近では毎日持って来る」
「なら山崎さんは、花屋にいるんじゃないの?」
「おお!なるほどな!でも俺花屋なんか知らねぇぞ」
「え?ここらで花屋って言ったら、一つしかないよ。結構地元では有名な花屋があるんだけど。テレビにも出たことある」
「俺の家ここらじゃないから知らねぇな。それより早く案内してくれ!」
また走り出し、15分ほど経って花屋に着く。テレビにも取り上げられただけあって、美しい外観だ。しかし裕太みたいなタイプには少し入りづらくもある感じだ。すると店内から、あっさり山崎さんが出てくる。拍子抜けしたが、安心する。
「おい裕太、あの花束なんだ?」
立花君が言うので花束を見てみると、昨日のような白く美しい花束ではなく、真っ黒に染まった薔薇を彼女は持っていた。その花束からは、異様な空気を感じた。
「薔薇みたいだけど、黒いのは初めて見た。まあ山崎さんが無事で良かったじゃないか」
山崎さんの背中を見ながら、裕太は保護者みたいな眼差しで言う。
「そうだな。だけど心配だからよぉ、家に着くまでついて行こうぜ」
「それってストーカーじゃないの?まあ君の外見だと借金取りかヤクザだけど」
「裕太、俺がそんな恐い奴に見えるか?」
「だから見えるって」
二人はクスッと笑い、山崎さんに着いて行こうとしたその時、店内から男が出てくる。その男は身を隠すように山崎さんの後を追っているように見えた。裕太は驚いたと同時に自分の目を疑った。何故ならその男というのは、裕太もよく知る人物だったからだ。今日学校に来ていないと思ったら、こんなところで何をしているのだ……一真。