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学校

 裕太を起こしたのは目覚ましではなく、金髪の青年だった。一瞬誰かと思ったが、昨日のことをすぐに思い出す。どうやら夢ではなかったらしい。


「あれ?俺いつ寝たっけ」


「チャッピーに餌をあげた後、気絶するように寝てたぞ」


「そっか。今何時?」


「8時だ」


「ん?今なんて……」


「だから、8時だ」


 おそるおそる時計を確認すると、見事なまでにぴったり8時だ。


「やばい!遅刻だ!!」


 裕太はいきなり冷水をかけられたみ猫たいに、ベットから飛び起きた。すぐさま学校に行く準備を整えて、家を出る。準備といっても朝ごはんは食べれなかったし、髪もボサボサだ。


「違う学校とはいえ登校すんのは久しぶりだ。ワクワクすっぞ!」


 呑気なことを言いながら立花くんはついてくる。踏切が見えると、こんな時に限ってランプが点滅し始め、遮断機が降りる。裕太は足踏みしながら電車が通り過ぎるのを待つ。


「というか、君も寝てたの?」


「まあな、睡眠なんて取る必要ないけど、暇だったからな」


「なら、食事とかも取る必要ないわけ?」


「食えるけど、必要ないから食べないし、食べても排出しないぜ。昭和のアイドルみてぇだろ?」


「ははっ、それはすごい。服とかはどうしてんの?」


「これは死んだ時に着てたやつだな」


「へぇ、そういう仕組みなんだ。今更だけど、立花くんは本当に幽霊なんだね」


「おうよ」


 なぜか誇らしげに立花くんは言う。踏切が開くと、また全力で走り出す。


 教室に着いたのは、ホームルーム開始の2分前だった。立花くんと教室に入ると、早速挨拶がわりに詩織がからかってくる。


「なにその頭。ははーん、さては昨日のことを考えて寝れなかったったんでしょう?眠れない夜〜、君のせいだよ〜っ的な!」


 どうやら詩織には見えていないみたいだ。他の生徒も見えてはいないらしい。こんな目立つ格好のやつが急に現れれば二度見は不可避だ。一真はそもそも教室にいない。遅刻でもしてるんだろう。


「朝からうるさいな。詩織こそ変なドラマ観てないで、勉強でもしたらどうですかね」


「変なドラマとは何よ!大体あんたもそんな成績良くないじゃない」


「ごもっとも」


「はーい、みんなおはよう。席につけ〜」


 担任の先生が教室に入ってくると、賑やかだった教室が、一瞬にして静かになる。裕太の席は1番後ろだ。立花くんは、さらに後ろの本棚の上に腰を下ろした。


「はいじゃあ出席とりまーす。えー、1番赤木、2番浅野、3番井上……は休みだったな。えーと4番……」


 点呼に応じ返事をしていく。どうやら一真はなんらかの事情で休みらしい。昨日までピンピンしてたのに、これはズル休みの可能性がある。


「なあ、裕太。もしかしてさっきの子お前の彼女か?」


 詩織のことを彼女だと思ったのか、立花くんが話しかけてくる。もちろん違うので、裕太は強く否定をする。


「えー、10番小川」


「違うよ!!」


 昨日に引き続き、クラスの視線が裕太に突き刺さる。やってしまった。登校する時もそうだが、周りから見れば立花くんは見えてないし声も聞こえないから、俺は一人で話している変人に過ぎない。


「あれ?小川10番じゃなかったっけ?えーと、ああすまんすまん、10番は緒方だったな」


「え?ああそうですそうです!おれ11番です!」


 クスクスとクラスが笑いに包まれる。ラッキーでなんとか誤魔化せたみたいだ。 でも気をつけないと、ただでさえアイドルオタクのレッテルを貼られているのに、今度はイマジナリーフレンドと会話するヤバいやつになってしまう。


「よかったー、彼女がいるなら無理にお願いできねーもんなー。つーかこのクラス、あ行多過ぎじゃね?」


 こっちは結構ピンチだったのに、立花くんはまた呑気なことを言っている。まあその疑問については俺も同感だ。


 ホームルームが終わると、授業中は話せないからつまらないということで、立花くんは学校を回ってくることにしたらしい。授業中に乱入して自分が見える生徒を片っ端から見つけてやると張り切っている。立花くんがいなくなると、いつもの日常に戻る。とはいえ昨日からいろんなことがあり過ぎたせいで、その日の授業は全く頭に入らなかった。


 放課後、立花くんと合流する。放課後とはいえ目立たないように屋上で話す。


「なにか収穫はあった?」


「いいや、なにもねーな。授業中に教卓に立ったり、グラウンドで熱唱したりしたけど、誰も反応なしだ」


「あれはやめてよ。俺には聞こえてるんだから」


「そういや美術室に榊原ってやつはいなかったぞ」


「多分、準備室にいるんだと思う。今から一緒に行こう」


「あんた何ブツブツ言ってんの?」


 急に声を掛けられるので、心臓が飛び出そうになる。


「!?なんだ詩織か」


「なんだとはなによ。それより裕太、今日なんか変だよ。授業中ぼーっとしてるし、さっきもなんかブツブツ言ってたし、なんかあったの?やっぱり昨日のあれ、気になってるの?」


「……別に何もないし、気にしてない」


「ふーん、怪しいけどまあいっか。今日部活休みだから、一緒に帰ろ」


「ごめん、これから榊原先生のとこに行くんだ」


「またあの人のとこ行くんだ……」


 前々からだが、どういうわけか詩織はあまり榊原先生のことをよく思ってないらしい。


「お前、榊原先生のこと毛嫌いしてるよな。カッコいいし頭良さそうだからお前のタイプなんじゃないのか?」


「いや、別に毛嫌いしてるわけじゃないけど……分かった、じゃあ先帰るね」


 詩織が暗い顔をするので、なんだか調子が狂う。いつもなら元気に反論してくるところではないか。


「ああ」


 詩織がいなくなると、立花くんは水を得た魚のように元気になる。


「おいおい裕太〜、お前も隅に置けないやつだなあ。俺が言うのも何だけど、付き合っちゃえよ〜。しおりちゃんだっけ?結構可愛いじゃねーか」


「ただの幼馴染だよ。そんなんじゃない。それより榊原先生のところに行くよ」


 立花くんの提案を軽く受け流す。


「はぁ、裕太は真面目だなぁ」


 美術室は北校舎の3階にある。こんなに緊張して美術室に向かうのは、初めてだ。


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