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決意

初投稿です。よかったらアドバイス下さい。

「なんで祐太はそんなお人好しかなぁ、わざわざ案内までしなくても、口で言えばいいのに」


  学校の帰り道、詩織がため息交じりに言う。先程おばあさんに道を聞かれ、わざわざ目的地まで案内して時間を消費したことに、どうやら不満があるみたいだ。なぜ善行をしたのに不満を持たれないといけないんだと裕太は思った。


「だったら先に帰ればいいだろ、おばあさんだって困ってたし、ここら一帯同じような道だろ?説明が難しかったんだ」


  裕太はお人好しと言われるのが嫌だったから、少し拗ねたような返事をした。


「ふーん、まあ分かり易い道だったとしても、裕太は案内したと思うけどねー。お人好しだから」


  念を押すようにお人好しと言ったのは裕太がそう言われると怒るのを知ってのことだった。

  それを察したのか、裕太はしばらく何も言わなかった。沈黙が続いても気まずい雰囲気にならないのは、二人が幼馴染だからだろう。むしろこの沈黙には、居心地の良ささえある。

  こんな言い合いをしながら帰るのは、珍しいことではなかった。五月の夕日が帰路を照らし、二つの大きな影が肩を並べている。普段はもっと明るいうちに帰れるのだが、帰宅部で暇だろうという理由で先生に面倒ごとを押し付けられたため、こんな時間になってしまった。


「裕太ってさ、モテないよね!」

  そんな雰囲気をぶち壊すかのように、詩織は言った。

「は!?」

  油断していたところにミサイルを撃ち込まれたようなものだ。しかしすぐさま、迎撃体制を整える。


「し、詩織だってモテねーだろ?お前高校2年生になっても、まだ恋愛経験ゼロじゃねーか」


  この攻撃は不発だったのか、詩織はこの台詞を待っていたかのように得意げな顔になった。


「私はね、入学してからもう5人から告白されてんの!あんたと一緒にしないでよ」


  5人から告白されたなんて裕太は聞いていなかったが、詩織の容姿からすると別に不思議なことではなかったので、否定はしない。

 


 夕日に靡くサラサラのショートヘアーに、二重の瞼、少し濃い眉毛で褐色がかった肌はいかにもスポーツ少女をといった感じで、陸上部にもソフトボール部にもみえるが、実際のところ詩織は運動音痴であり吹奏楽部に所属している。どちらかというと美人といった感じだったが、まだ未成熟なその顔立ちからは可愛らしさも垣間見える。 この二人を他人が見れば、不釣り合いなカップルだと思うだろう。現に時々、すれ違う人達から向けられる視線にはそういったものを感じる。


「じゃあ、なんで付き合わなかったんだよ」


  率直な疑問だったが、考えてみると詩織の理想の高さを裕太はよく知っていたので、我ながら愚問だったと詩織が口を開く前に反省した。


「なんでって、タイプじゃなかったからじゃん。そんなことも分かんないの?私は知的な人がタイプなの」


  詩織は不思議そうな顔をしてこちらの顔を覗き込む。全くなんでいちいち鼻につく言い方をしてくるのか。流石にムッときた裕太は、ここで一矢報いたいと頭を捻る。


「つまりさ、お前にはその程度の男しか寄ってこないんだよ。本当にいい女にはいい男が寄ってくるもんさ。だから、詩織もその男達レベルだってことだよ。どっかのハリウッドスターが、そう言ってた」


  この理論は今考えたものだったし、あながち間違ってもないと思ったが、説得力を持たそうと付け足したハリウッドスターが胡散臭さを増長させた。


「なにそれ、じゃあ誰も寄って来ないどっかの誰かさんはなんの価値もないってこと?」


  ハリウッドスターにこそ突っ込まれなかったが、自分で投げたブーメランが何倍もの大きさになり返ってきた。こういう時の詩織は本当に手強い。

  なんの価値もないって、人の価値はそんなものだけでは測れないだろうと反論したかったが、これ以上惨めな気持ちになるのが嫌だからそれはやめた。

  詩織の意見を認めた上で裕太はある提案をする。



「なら、俺に彼女ができればお前より価値のある人間ってことだよな?つくってやるよ、彼女」


  ムキになる裕太に呆れたのか、詩織は目を細め、いかにもそういうことではないだろうというため息をついたが、ふと何か思いついたように生き生きとした表情になる。


「そうそう!そういうことだよ。まあできた彼女が文句なしの美少女でなきゃ、私は認めないけどね。例えばさ、女子校の山崎さんとか!健闘を祈ってるよ!!」


  そう言うと詩織は敬礼の真似事をして小走りで去って行った。 恋愛に関しての健闘とはどういうことかよく分からなかったが、どちらかというと弱者や敗者に向ける言葉のイメージがある。どうせできないだろうと思って、俺で遊ぼうとしているに違いないと思ったが、自分で提案した矢先あんな言い逃げをされてはこちらも引き下がることはできない。


  しかし、詩織が言った山崎さんというのは、隣町の女子校一可愛いと呼び声の高い山崎彩花のことだった。こういう話題に詳しくない裕太ですらその名を知っている。一部の男子が放課後女子校にまで赴き、校門で山崎さんが出てくるのを待っているというのは珍しいことではないらしい。


  同じ学校の女子と付き合うことは平凡な容姿の自分でも不可能ではないと思って言ったことだったが、他校の女子校のナンバーワンをだされては狼狽えるのも当然だ。しかし他校の女子をだしてくるあたり、詩織は同じ学校には自分以上の女生徒はいないと思っているのか、はたまた裕太が次々と女子に振られ学校での立場がなくなることを気遣ってのことなのかは分からなかったが、どちらにしろやはり鼻につくことは間違いないし、前者の可能性は極めて高い。


 裕太は無意識に、道端の石を蹴った。


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