診断メーカー「あなたに書いて欲しい物語」とやらをやってみた
天河 憂唏 様の『診断メーカー企画「あなたに書いて欲しい物語」』に触発されて。
診断結果は後書きで。
本当は知っていた―――
この父も、この母も、本当の両親ではないことを。
他の子達の親とは、見るからに年齢が違う。
その、腫れ物に触るかのような扱い。
他の子は親から、容赦無く頭を叩かれたり、口汚く叱られたりしている。
この両親は、同じ事を僕にはしなかった。
養子。初めて聞いた単語。スマホは何でも教えてくれる。
その意味を理解するほどに、己の過去が、思い出が、この言葉と一致してゆく。
初めて抱いた不安。…否、いつの頃からか抱き始めていたその心情は、
今はっきりとした形を持った。
▽
父は、僕を愛してくれている。
ある日、父に「キャッチボールがしたい」と言った。
ただ百均で買えるようなゴムボールを、素手で投げ合えればそれで良かった。
だが父が「ちょっと待っていろ」と言って持ってきた物は、
皮のグローブが大小二つと造りのしっかりしたボールだった。
今思えば、僕が言い出す前から用意していたのであろう。少し埃を被っていた。
母は、僕を愛してくれている。
ある日、友達数人と子供だけで川に遊びに行った日のことだった。
前日の雨で増水していた川の流れは、容易く僕の足を攫って押し流した。
どうやって助かったかは覚えていない。
聞いた話では筋肉質でチャックの開いた人が飛び込んで助けてくれたらしい。
その時駆けつけた母は、僕を見るなり顔を歪ませ、僕を抱き締めた。
母のすすり泣く声が、存在を確かめるように背中を摩る手が、
この心に強く焼き付いた。
▽
音を立てて、ベッドに倒れこむ。
倦怠感、脱力感、無力感―――
違う。どれもこの胸の裡に渦巻く何かの正体とは違う。
今、自分の存在を揺るがしているこれが何なのか、自分はどうすれば良いのか。
答えを探して、考える。頭を掴み、顔を押さえ、ベッドの中で独り、もがく。
ふと、その動きが止まる。一つの言葉が浮かんで一致したのだ。
この心と、その言葉。否定しようのない一致が、どんどん大きくなってゆく。
―――全部、嘘だったのか―――
▽
リュックを背負った少年が、誰もいない並木道を往く。
行先など、無い。敢えて言うなれば、それは己の居場所を探す旅だ。
どの方角に何があるかも知らない。独りで生きる術も知らない。
そんな少年の旅は、捜索願いと目撃情報により、敢え無く終わりを迎えた。
▽
「どうして、こんな事をしたの?」
母の声は、いや、母だった人の声は、優しい。
だがその顔は怒ったような、困ったような。涙を堪えているようにも見える。
父が、いや、父だった人が、母を制する。
「母さん、後にしよう。風呂と飯を済ませてから、ゆっくり話そう。」
「僕は―――」
言いかけて、声が詰まる。
父と母の真摯な顔が、呼吸すら止めて聞き入る姿が、続く言葉を躊躇わせる。
だが溢れ出す感情が、涙と共にその言葉を吐き出させた。
「僕は、養子なんでしょう?」
母が、両手で顔を覆う。父が、必死に嗚咽を堪える。
程なくして父が口を開いた。今すぐ、話さなくてはならない。
不甲斐なく泣いているだけでは、この子の心は救われない。
「そうだ…お前が1歳の時に、私達が引き取ったんだ。」
それを聞いた少年に動揺は無い。分かっていたことだ。
「全部、嘘だったんでしょう?」
返事の代わりに、父は息子を抱き締めた。強く。
「そんな訳…無いだろう。だってこんなに愛している。」
そう言って、父は不甲斐なく泣き出した。母は泣きっぱなしだったが、
言葉の代わりに、後ろから少年を抱き締めた。
▽
今、ある家のテーブルに蝋燭の立ったケーキと三人の家族がいる。
今日はその赤ん坊が、この両親に迎えられた日である。
「本当の家族になろう。今すぐじゃなくて良い。」
父の顔を見上げて、息子が頷く。
父の口が再び開く。
「ゆっくりでいいよ。」
天地万世さんには「本当は知っていた」で始まり、「ゆっくりでいいよ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば10ツイート(1400字程度)でお願いします。
1600字オーバーで失格。1400に合わせようとしたところ、眠気に負けて断念した模様。おys