夜の庭
ススン姫はステラの態度に感心していた。
庭園の道が2つに分かれるところなどではすっと手で指し示し、ゆくべき方向にススンを誘う。
庭を走る道の所々に設置されている瓦斯灯に照らされてステラのその動きは幻想的にされ見えた。
ススン姫はこの態度にクローズと出会った留学先でのことを思い出していた。
あそこでの王子たちの態度が最低だったなーと。
男女の共同のダンスの授業などが腹立った。
私と踊り終わったあと挨拶の礼を取らずに去っていった王子が結構いた。
まあそういう王子は次に組んだときに思いっきり体重かけて足を踏んづけてやったけど。
カードゲームなんかして仲良くなった王子もいたけど、みんな「ススン姫はさっぱりしたいいやつだけだと、デブだからな、女としてはないわ〜」とか言っていたわね。
なんでみんなそんなデブが嫌いなのかしら?
あの頃はどんなに頑張ってダイエットしても痩せなかったのよねぇ…
まあ、痩せて美しくなってからは男どもは手のひら返したみたいに私をちやほやしだしたけど、ケッて感じ。
誰がお前らを相手にするかっての。
ステラ王子…
ステラ王子は私が太っていた時出会ったとしてもちゃんとした扱いをしていてくれたような気がする。
ステラの振舞いに皆でいたときは目がいかなかった彼の人としての魅力を垣間見た気がするススンだった。
この人…
やっぱり素敵…
夜の庭園にはススンたち以外にも何人かの王子が散歩に出ていた。
薄いガラスに覆われた植物園に入る際、段差を前にステラはススンにすっと手を差し出した。
それをたまたま見ていた他国の王子の付き人は、ああ競争率の多さにレアメタルを諦めて王子同士でカップルになっちゃてる人達がいるよ…と思った。
少し蒸れる植物園の入り口付近のベンチに二人は腰掛けぽそぽそと語りはじめた。
「ねえ、ステラ王子、レアメタルがこの国から出たのを知らなかったのになぜあなたはここに来たの?」
「ふふ、自分が王子である証に、どこかの国の姫と結婚したかったので。
この国の姫は地味であまり求婚に来る王子がいないという噂を聞いたので、そういう姫なら私にもチャンスがあるかと思って。
私の国は貧しい上に私は16番目の王子。与えられている城もとても小さく民家と大差ない。
貧乏ゆえに留学もできなかった。
バイオ技術の勉強をして国の農産物の増収を図りたかったのだけれど。
自分はいったい何者なのかなあと思うことがある。
少しも王子らしくない。
近くのワイナリーで農民と一緒に農作業をしているのが楽しく性にあっている気がする。
私は作業をしょっちゅう手伝っているものだからそこらへんの人夫よりよっぽど樽を転がすのが上手くなった。
王子にしておくのはもったいないと皆に言われるほどに。
私はアイデンティティを何に求めれば良いのだろうと悩んでいるとき、ふと、どこかの国の姫を娶ることができたら、自分が王子であることの証明になるのではないかと思った。
ふ…そんな自分勝手な理由で求婚される姫も迷惑だろうな。
こうして話すと自分の浅はかな考えが恥ずかしくなる」
そう言ってステラは下を向き苦笑いをした。
そんなステラを真面目な顔をして見つめススンは語りかける。
「ステラ王子、あなたとても正直で素敵よ。
私が留学先で出会った王子の誰よりも王子らしいわ」
「え…?」
「だって態度がとても紳士的だもの。確かにそんなに立派な衣装は着ていないし、教育も受けてないかもしれないけれど、あなたにはどの王子にも負けない品格がある」
この言葉はステラにとって嬉しかった。
心の中がじんわり温まって行く気がした。
が、続くススンの言葉に王子は戸惑う。
「…ステラ王子、私も姫よ?」
「え?」
この先の二人の会話の続きがが気になるところだが、ここでススン姫の部屋に残された二人の様子を覗くことにする。
二人が残った部屋はそれはそれは妙な空気が流ていた。
プポルはユリカに持ちかけられてステラとススン姫の仲を取り持つことにしたのだから、当然さっきの自分の言葉は彼らを二人っきりで散歩させるための小芝居に過ぎないと察してくれるだろうと思っていたのだが…
あの元気のいいユリカが無口になって妙にもじもじしている。
やっべえな。
本気にされちゃってる…
と、プポルは少々困っていた。
困りながらもとりあえずその場を乗り切るために「まずはお友達から始めませんか」などと言ってお互いの連絡先の交換などをしていた。