決闘
ススン姫はシオン王子を訪ねてこの宿屋に来たのだった。
クローズ姫と王子の仲を取り持とうとして。
そうしたらなぜかユリカがここに先に来ていので少しそれを疑問に思った。
けど今はそれを気にしている暇はない。
なんとかしてシオン王子を止めなければと思っている。
美しい王子が実は男装したクローズ姫の友人だと気づいたシオン王子は姫に片膝をついて礼を取ったあとに「どうぞクローズ姫によろしくお伝え下さい」と言い、トランクに手をかけた。
その手をステラ王子はとっさにつかんだ。
そして叫んだ。
「君も随分意気地のない男だな。結果や世間体をあれこれ考える前に一度会ってみればいい。もしどうしても帰ると言うなら…
私は今ここで君に決闘を申し込む!」
は?
ステラのこの発言に一同が狐につままれた顔をした。
なにこの展開?
一番驚いているのはプポルである。
ひえ〜ステラ王子どうしちゃったんですか〜
天下御免の事なかれ主義者なのに。
あ、言い方悪いな、平和主義者、平和主義者。
あ〜止めなきゃ〜とプポルが焦っている中
「僕は君を見誤っていたようだ、そんな他人事におせっかいな男だとは思わなかった」とシオンはステラを睨みつけた。
確かに…
なぜ私はこんなに他人事に熱くなっているんだろうとステラは思った。
自分らしくない。
なぜ…
サーベルの柄に手をかけたまま少し考え込んだステラに向かってスラリ、シオン王子が自分の腰のサーベルを抜いた。
ドアが開けっ放しだったもので廊下でこの騒動をヒヤヒヤしながら見ていた宿屋の主人が悲鳴を上げる。
「ギャーうちの宿屋で流血騒ぎは止めてくださいっー!!」
その場は周囲の取り持ちで収まったものの宿屋の主はまた物騒なことがあっては困ると、城の行事進行係にこの件の報告をした。
そのせいで二人は城に呼び出され、姫を巡っての物騒な争いをした無作法を咎められ明日の朝には国を出るようにと命じられた。
宿屋の主人がこの二人を泊めるのは嫌だと言ったので今晩二人は城の使用人の使う別々の休憩所に宿泊することになった。
二人共貧乏国の王子だったのでこんな扱いをされる。
まあ、クローズ姫の誕生会という名の花婿選考会に集まった王子のほとんどが弱小国の王子だったのだけれど。
「プポル…私は大失態をしてしまった」
「ほんとですよ!ほんとならあと二日タダ飯が食べれたのにいぃ!」
「…いや、そういうことじゃなく…結果としてクローズ姫とシオン王子の仲を決定的に裂くことになってしまった。シオン王子は明日の1分お見合いに参加できない」
そういってステラは肩を落とす。
二人がそんな会話をしている場所はススン姫のために用意されたハルンメル城のなかの一番上等な客間。
ススン姫がこの部屋にステラ王子とプポルを招いていた。
「ま、そう気を落とさないで。今クローズはエステ中だから会えないけど、終わったら私この部屋に来るように言付けてあるの。クローズが来たらシオン王子も呼びだして二人を会わせるつもりよ。
貴方がシオン王子を身をはって止めてくれたからこうして彼もお城に宿泊することになった。あなたは二人にチャンスを与えたわ。」
「はああ、さすがススン様お優しい…。失敗した人間へのホローが完璧ですぅ〜」
うっとりとススンを見てユリカはそうつぶやく。
ユリカはススンが太っていて肉団子なんてあだ名されてる頃からススンをうっとりと眺めることがあった。
少々モノをハッキリ言い過ぎるところがあるが正直で優しいススンが大好きだったので。
「お互い好意はあるんだもの。
会えばシオン王子も意地を張ることのばかばかしさに気づくわ、きっと」
「そうですよ、そうですよ。さあ、二人とも気を落とさずススン様が入れたお茶を召し上がって下さい。お肌に良いタフタ国特製のシルク紅茶を」
そうユリカに促されステラは勧められたお茶を口にする。
タフタ国特製…そうか、ススン姫はタフタ国の姫であったか、絹産業が盛んな。道理で良い服を着ているわけだ…と、思いながら。
「大丈夫よ、きっとうまく行くわ。だって本当にクローズのことをあきらめているならシオン王子だって城に来ないでそのまま帰ってしまっていたはずだもの」
「確かに…」
そういってステラは少し顔を上げた。
そのステラに「ね?」と言ってススンは微笑みかける。
二人は目を合わせてなんとなく笑った。
あ…
いい感じとユリカは思った。
この際クローズ様とシオン王子のことはどうでもいいのよ。
問題はこのステラ王子が明日の朝帰っちゃっうてことで…
あー時間がないっ。
なんとかそれまでに国に帰ってから文通するくらいの間柄には持っていきたい。
なんか…いい作戦はないかな…
ユリカがキリキリしながら、プポルを見ると彼はのんきにお茶を飲み、出されたクッキーを食べている。
ああ、こいつって役にたたなさそう。
お前もこの二人をくっつけるために少しは知恵を出せよっ。
そう思ってユリカはプポルにイラついたが、この時プポルはプポルなりに頑張っていたのだった。