誰?誰?
「ええっ、誰?誰?」
勢い良くススンがクローズに近づいたのでクローズの付き人のフェアリは風圧で吹き飛んだ。
フェアリは五センチほどの羽根の生えた小さな妖精。
ただクローズ姫のそばにいて心を和ますのが彼女の役目である。
吹き飛んだフェアリは眉間にシワを寄せパタパタと飛んで再びクローズ姫の近くに戻ってきた。
ススン姫への抗議の意味も込めて、すっごく深く眉間に皺を寄せているのに残念ながら小さすぎてススンに表情を読み取ってもらえない。
ほんと、ガサツな姫ね、うちのおしとやかな姫とは大違いだわと呟いたが、その声も小さすぎてススンの耳には届かなかった。
フェアリの声が聞きとれるのはクローズのみである。
クローズ姫は肩にフェアリを乗せて静かに語り始めた。
「ススン、覚えてないかな?去年私が選んだのに、断った人…
ショックだったわ、あのときは。
消去法で選んだ人のはずだったのに、断られてから逆に気になっちゃって」
「…ありがちな話ね」
「だけどフェアリの話だと今年も来てるらしいの、その人」
「ふうん…
多分レアメタルが出てこの国がお金持ちになりそうだからまた来たのね。明らかに財産目当てじゃない。
ちょっとヤな感じじゃない?」
ススンがそう言うとフェアリは眉間にシワを寄せたまま激しく頷いたけれど、クローズはしょんぼりした。
「そうよね。そうなんだけど…」
「…好きなわけね?」
「うん…
私、その人が今年も来た理由が私とのお見合いが目的なら…一発殴らせてもらって…彼と結婚したい…なんて思っているの」
「バカねぇクローズ。そんな財産目当ての人と結婚して幸せになれる?」
「ふふ、今年来てる人はみんな財産目当てよ、きっと」
「確かに」
そんな会話をしているときにススンの脳裏にさっきの王子の顔が浮かんだ。
あの人もクローズの花婿になりたくて来ているのよね…
…でもあの人はこの国からレアメタルが発見されたことを知らなかった。
だから財産目当てじゃないわね…
んっ?私なにあの地味な王子を気にしてるのかしら?
プルプルとなにかを否定するように首を振るススンを見てユリカは考えた。
ススン様の心の傷を癒やすためには新しい恋のお相手が必要だと常々私は思っていたのよ。
さっきの地味目の王子をススン様は気に入ったような気がする。
ふふ、私は人の心が読めるからね。
ススン様の微かなときめきにも気づいたのよ。
ビバ、私の能力!
クローズ姫が心に決めた人がいるならススン様も遠慮なくさっきの可もなく不可もなくって感じの王子にイケるわね。
うちの姫が気兼ねなくあのリュート様に似ている王子と仲良くなるためには先ずクローズ姫の恋を成就させる必要があるわ。
うん、あの王子のチョビチョビした付き人とこの件について話し合ってみよう。
普通の女子なら誰でも予感できるであろうススンのわかりやすい恋の始まりを察知したユリカは得意げに顎を上げた。
そして「ススン様、クローズ様と二人だけでお話ししたいこともあるでしょうから、私は退出させていただきます」と言って意気揚々と部屋を出て行った。
その一時間後。
「はあああ、探すの苦労しちゃったわ〜」
そう言ってユリカはいきなりプポルの上着の裾をつかんだ。
「うわっ出たっ、マウンテンゴリラ!」
ユリカの突然の登場にプポルはそう叫ぶ。
「あらっ?あなたさっきうちの姫をゴリラみたいって思ったんじゃなくて私のことをそう思ったの?!」とユリカはまなじりを上げプポルに詰め寄った。
ここは町はずれの古い宿屋。
城の客室では客人全員を宿泊させることができずハルンメルの王室は町中の宿屋を貸し切って訪れた王子の宿泊所としていた。
ステラ王子に振り当てられたこの古い宿屋にユリカはやってきた。
そしてロビーで無料の観光パンフレットを物色していたプポルを捕まえたのだ。
「ヒイイ〜めっそうもありません!あなたのような小柄で可愛らしい女性をそんな風に思うもんですか〜!」
ユリカの迫力に押されプポルはそう叫ぶ。
あらっ、この人ったら…カッコハートカッコ閉じる。
ユリカはその言葉を真に受け、少しいい気分になった。
やはり読心術の精度は低いユリかであった。