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リュート

リュートというのはススン姫の遠縁にあたる貴族の息子である。

宮廷の中で目立つ男ではなかったが地味に女子たちに人気があった。

彼には気負わず女の子と話ができるという、おぼこい男子が死ぬほど羨ましく感じる特技があった。


ススン姫は彼と仲が良く、子供の頃はよくカードゲームなどをして遊んだ。

対戦成績は五分五分だったけれど、彼はとても上手い戦術の持ち主だったので、負けず嫌いの私を思いやってわざと負けてくれていたのではないかな、と姫は思う。


そういうのムカつく。

だけどどこかその気づかいが嬉しい。


はい、はっきり言うと好きでした。

でも彼は私を選ばなかった。

私が二年の留学から帰って来たとき、彼は町娘と恋に落ちていた。

二人の交際を反対していた両親を彼は一年間説得し続けたのだけれど、半年前に親の説得を諦め無断でその娘と結婚してしまった。

そのせいで彼、勘当されちゃったのよね。


漠然と私はリュートと将来的には結婚できるんではないかと思っていた。

別に許嫁でも婚約者でもなかったけれど、両親もお城の召使たちや友達も、ススン姫はリュートと結婚すればいいのに〜という雰囲気を醸し出していたし。


だから彼の結婚はひどく私にショックを与えた。

私はそのせいでご飯が食べられなくなって45キロも痩せちゃった。

そしたらみんなに別人になったって驚かれた。


この痩せた姿をみて皆、私がどれだけリュートのことが好きだったのか思い知ったのだ。

で、傷心の私を心配した両親に気晴らしに旅行でもしてきなさいって言われたんだけど、そんな気分にはなれななくって。

ただクローズ姫のお誕生会だけは顔だそうかと思ってハルンメルに来たんだけど…


それにしてもユリカは気づかいがないわね、ここでリュートの名を出すなんて。


確かにさっきの王子は佇まいがリュートに似ていた。

でも、クローズの花婿候補だからね…








広間と同じ階にある男性用のウォータークローゼットの洗面台で、ステラ王子は脱いだ上着の汚れた部分を丁寧に洗っていた。


そんなことは付き人のプポルにやらせればいいのだけれど、プポルはまあまあ不器用な男だったので、彼に任せると上着全体をびしょびしょにしてしまう可能性がある。

なのでステラは自分で洗うことにしたのだった。


なにせ持っている礼服はこれ一着。

これがびしょ濡れになってしまうと着る服が無くなってしまうので。




「プポル、私はもう国に帰ろうかと思う」


そう言いながらステラは洗い終わった上着をはおった。


「なぜですか?誕生祝いの宴という名の花婿選考会は3日あって今日はまだ一日目ですよ」


「人数が多すぎる、どうせ私は選ばれないだろう。去年は三人しか来ていないと言っていたから、去年来るべきだったな」


「いやいや、王子、せっかく旅費かけて来たんだから三日間いましょうよ。王子がここでご飯食べる分だけ、第16王子城の食費が浮きますから」


「ふ…貧乏は辛いな?」


「いえ、王子、せっかく貧乏なんだから貧乏を楽しみましょう!フゥ〜!」


そう言って右手を天井に突き上げたプポルを見てステラは笑ってしまった。


「明るいなぁお前は…私はお前さえいれば幸せに暮らせる気がする。…甘い生活が楽しめる」


「ちょっと王子!BL女子の誤解を招くような言い方はやめて下さい。私はただ砂糖スプーン一杯分だけ料理の甘みを増す魔法が使えるだけで、それで王子のお茶を甘くしてるだけなんですから」と、プポルは目を釣り上げる。


「でも王子が貧乏じゃなかったらこんなしょぼい魔法が使えるくらいで付き人に選ばれませんでしたよね、きっと。

私はこの魔法が使えるDNAに感謝してます!」


鼻息荒くプポルはそう言った。

胸の前で手を組んで。








少し人疲れしたこの国のクローズ姫は広間を抜け出し自室に戻ってきていた。


姫の部屋は小さくはあるが品の良い部屋であった。

扉を開けた正面に寝台、右手の壁には大きな鏡、左手には窓が配されている。


その姫の部屋にいきなり一人の王子が入ってきた。

天蓋付きのベットに腰掛けて脱力していたクローズ姫は驚いて声を上げる。


「誰?!」


クローズ姫のその問いかけに王子は楽しそうに叫んだ。


「私よ、クローズ。ススンよ!」


「嘘!」


「ほんとよ」と王子の格好をした姫はクローズのもとに駆け寄る。ユリカも一緒に。


「確かにユリカを連れている!ほんとにススンなの?!体半分になってるーー!!」


ここでユリカが口をはさむ「そう、きっちり半分になりました。90キロが45キロに」と


「私、半年前リュートに失恋して痩せたの」


そう言いながらススンはベットに座るクローズの隣に腰を下ろした。


「ススン、あなたこんなに美しかったのね。もっと前に痩せていたらリュートの心を捉えることもできたかもしれないのに…」


「…どうかしらね…ああ、お誕生日のお祝いを言ってなかったわね、クローズ、お誕生日おめでとう」


「ありがとう、ふふっ20歳になっちゃった。ところでススン、どうして男装しているの?」


「あなたを立てなきゃと思って…

私こんなに可愛くなっちゃったからあなたの花婿になろうと思って来た王子たちの心を惑わせないようにと思って男装してきたの」


「…まあまあ思い上がっちゃってるわね、ススン。でもそれがあなただものね」


会話を聞いていてこの二人はいったい仲がいいのか悪いのかとユリカはクスリとする。


「それにしてもすごく人を集めたわね?こんな大人数からどうやって花婿を選ぶの?」


「ねえ…?

エントリーシートなしで飛び込みで出席してる王子も多いみたい。

明日お庭で1分ずつのお見合いみたいなことをやるの。はあ…めんどくさい…」


「そんなこと言わないで。私、広間を見て回ったけど、まあまあイケてる王子もいたわよ?」


ススン姫のその言葉に対してクローズはため息をひとつついた。

そして「ススン…私…実は気になってる人がいるのよ」と憂鬱そうに目を伏せた。


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