帰国後
ステラはガガンメルテ大陸の東端にあるスラット国に帰国するまでの数日間、プポルとほとんど口をきかなかった。
あの植物園でススン姫との間になにかあったんだろうなとプポルは推測したが、それを尋ねられる雰囲気ではない。
帰国の途中、一体何があったのかなー、クローズ姫とシオン王子はどうなったかなー、ススン姫やユリカは挨拶もせずに突然帰ってしまった私達のことをどう思っているかなーと、プポルはそればかりを考えていたのだけれど。
二人が自国のスラット国に着いてひと月ほどでたった朝食時、ステラ王子がプポルに声をかけた。
「プポル、申し訳なかったな」
「何がです?
あ、王子がこの一ヶ月間むっつりしてたことですか?
別に謝らなくていいですよー。
王子は私の御主人様だし、私は王子の使用人だし、お給金さえ払っていただければ成立する間柄ですもん」
ステラ王子は少し困ったような顔をする。
「そう怒らないでくれ」
「いや、私はなーんにも怒ってませんよ?怒っていたのは王子の方で」
プポルのその言葉に「…そうだな…私は怒っていたな…」とつぶやき王子はテープルに肘を乗せ頬杖をついた。
あれ…
珍しい、王子テーブルに肘ついた。
こんな姿初めて見るかもしれない。普段御行儀のいい人だからな。
ほんと、ハルンメル国に行ってから王子はなんかおかしいよ。
でも…
あの時の王子はちょっとかっこよかったかも。
あの薄暗い城の廊下を怒りに満ちた顔で歩いていたときの王子は。
普段からあんな表情していたら案外モテるんじゃない?この人。
んーでもステラ王子の良さは穏やかさだからなー
うん、私はいつもの王子が好きだな。扱いやすくて。
それにしても、怒りが収まるのに一ヶ月もかかったんだな。
いったい何に対してそんなに怒っていたんだろう。
ってか王子なんか辛そう。
もとの王子には戻ってない感じ…
などとプポルが考えているところに王子が尋ねてきた。
「お前はユリカとどうなった?」
「は?
どうなったも何も…
私たちは別にそんな良好な関係じゃありませんでしたから」
プポルはこんなことを言っているが、あの時ユリカと交換した住所に手紙を出していた。
そしてここ数日はそろそろ返事が来てもいい頃なのにと毎日第16王子城に届く郵便物を目を皿のようにしてチェックしている。
王子こそススン姫と何があったんですとききたかったが、プポルはそれをぐっと抑えた。
プポルにだって多少のデリカシーはある。
ステラは申し訳なさそうにつぶやく。
「そうか…私があの国に三日間滞在していたらお前たちの仲も深まっだかもしれないのにと少々反省しているのだ」
「何言ってんですかっあの国には王子の花嫁ゲットするために行たっんですから!そんなことは全然気にしなくっていいですよっ。
ただ…クローズ姫とシオン王子がどうなったかがなんとなく気になってます、私は。」
「私もだ。プポル。
そうだ、月刊カガンメルテ大陸を読みにスラット城に行こうか?昼前に仕事を終わらせてここを立てば三時頃には着く」
この王子の申し出にプポルは小さくガッツポーズを取った。
プポルを喜ばせる月刊カガンメルテ大陸というのはガガンメルテ大陸にある115の国の最新情報を載せた雑誌である。
永世中立国、シンパの記者が高速飛行する飛竜を使って情報を集め、飛竜を使って配信しているのでとても高価な雑誌なのだ。
その為スラット国でこれを購読しているのはステラの父王だけだ。
ステラはクローズ姫の誕生会兼花婿選考会をこの雑誌で知った。
たまに王子が城に登城した際王子と共にこれを読むのがプポルの楽しみのひとつであった。
「王子っ!じゃっ、早く朝食食べちゃって下さい。私はその旨シティさんに言って馬の用意をしておいてもらいますから」
言葉の語尾に音符をつけてプポルはそう言う。
ステラ王子はプポルはほんとにわかりやすいな…
と思いながらプポルが甘くしたお茶を飲み終えた後、執務室に向った。
けれど、王子が仕事を終えても二人がスラット城に向かうことはなかった。
なぜならこの日、彼らを訪ねて客人が来たから。
訪ねてきた客人はシオン王子。
王子は見た人が腰を抜かしてしまうような美少女を連れ第16王子城に現れた。