花婿選考会
「何か話がちがうな」とステラ王子はお付きの者に語りかける。
それに対して「ですよねー」とお付きのプポルは答えた。
ステラはガガンメルテ大陸の小国の王マヌカの第16王子。末っ子ではない。もう一人下に弟がいる。
プポルはステラ王子に仕えて五年目のスチャラカした付き人。
彼らが今いるのは同じガガンメルテ大陸にあるハルンメル国の王宮の大広間。
大理石の柱に支えられた造りは良いが地味な大広間ではこの国の第二王女クローズ姫の誕生会の名を借りた花婿選考会が行われていた。
ハルンメル国は小国だったし、クローズ姫もそんなに美しい姫ではないと言う評判だったので、多分競争率は低いだろうとステラは踏んでいたのだけれど現実は違った。
長方形の大広間は、訪れた各国の王子や付き人、それをもてなす給仕達でひしめき合っていた。
そのせいで上座にいるこの国の王族の姿が広間後方にいたステラ王子には良く見えない。
「すごい人数だ。推定300人くらいはいるな」
「王子…数字に弱いなーとは思っていましたが数も数えられないんですね?
私が野鳥や歌試合で観客の上げてる札数えるやつでカウントしたところ286人でしたよ」
「プポルは言語の理解力に乏しいな。私は推定と言ったのだよ?推定の意味がわからないんだな、お前は」
いつものように楽しく掛け合いをしているこの二人の会話に割って入ってきた王子がいた。
「君たち知らないのか、先月この国の地下から大量のレアメタルが発見されたのを。
と、言うことはこの国はこれから貿易黒字が出て豊かな国になる可能性大なのだ」
王子は言葉を続けた。
「つまりその国の姫を娶れば連れ帰った自国の利益につながる。多額の持参金も見込めるし国が傾いた時支援を受けられる可能性がある。
そんなわけでこの国の姫の人気は急上昇したのだ。
ふ、現金なものだ。私は去年も姫の誕生会兼花婿選考会に出席したが、出席した王子は三人だけだった。そしてその時選ばれた王子はなぜか花婿になることを辞退した。
だから今年もう一度花婿選びの選考会が開かれることになったのだが…」
ここでプポルは無遠慮に声を上げる。
「オタク様、去年花婿に選ばれなかったんですか?そんなにイケメンなのに?今回も出席してるってことはここの姫に執着しちゃってる感じ?それともレアメタル目当て?」
「プポル」とステラ王子は彼を諌めながらも声をかけてきた王子を観察する。
プポルの言うとおり線の細いイケメンだ。しかも私や他の王子…多分貧乏国の王子沢山の下の方の王子…のように上の王子の着古した礼服を着ていない。
きちんと仕立て屋にサイズを測ってもらって誂えたであろう上等な服を着ている。
白地に金の刺繍。この光沢、布も糸も最上級の絹だろう。
プポルもこの王子の服に着目していた。
そして思った。
ああ、こんな上等な服を着ることができたら、中の中クラスのステラ王子も中の上、頑張れば上の下くらいには見えるのにいぃと。
イケメン王子は二人に言う。
「私は姫の友人だ。
そして私は王子ではなく姫だ。
所謂男装の麗人と言うやつ?」
この言葉を聞いてプポルは思った。
この人自分で自分のことを麗人とか言っちゃってるよ…
まあ、でも確かにかなりの美人だな、と。
ブポルとステラはイケメン王子風の姫のそばに立っているお付きの者がこちらを睨んでいることに気づく。
それはそれはとても目つきの厳しい娘だった。
まあまあのかわいこちゃんではあるが。
「ススン姫はお優しいのです。クローズ姫のお誕生日を祝いに来た王子たちの注目を浴びないように気を使って男装していらっしゃるのですから。主役を立てる思いやりのある方なのです」
男装の姫のお付きの者は誇らしげに彼らにそう言った。
うわ、完全にマウンティングしちゃってる。
クローズ姫より私の方が上だから目立たないようにしてあげようって。
こういう女嫌われない?
それにススン姫って変な名前。とプポルは思う。
そしてステラ王子もそれに近いことを思った。
急に「さっきから失礼ですね!あなた達!」とお付きの者が二人に対して怒り出した。
「は?私達何もしてないじゃないですか!」とプポルは反論する。
「こう見えて私はね、魔法が使えるんですよっ、人の心が読めるのっ、50センチ以内にいる人の!」と男装の姫のお付きの者は叫んだ。
その言葉にステラとプポルは飛び退いた。
飛び退いて男装の姫とお付きの者から離れた。
とりあえず50センチ以上は離れたと思う。
「あなたたちうちの姫を嫌われ者のマウンテンゴリラみたいって思ったでしょう!」
「え…」
精度低っ!多分言葉の五%くらいしか読み取れないんだ。
あ、姫もそれはわかってるんだな。
特に私達のことを怒っている節がない。
そう思いプポルは少しホッとしてステラ王子と顔を見合わせた。
ステラ王子は男装の姫にこう告げる。
「君の付き人に脅されて私はシャンパンを服にこぼしてしまった。借り物だからシミを作るわけにはいかない。
ウオータークローゼットで洗ってきたいから、会話の途中だが失礼する」
ステラ王子はススン姫に丁寧な退出の礼をとり手に持っていたシャンパングラスを近くにいた給仕のお盆に返し、後方の扉に向かい歩いて行った。
その後ろ姿を見送りながら男装の姫と付き人は何やら話をしている。
「ススン様、あの王子地味だけど正直そうな人ですね。
推定身長178センチ体重64キロ、センターの偏差値55ってとこでしょうか?
…雰囲気がなんとなくリュート様に似てますかね?」
「…全然似てないわ」
ススン姫はお付きの者にそう答えた。
本当は姫もあの王子が彼女の幼馴染のリュートに似てると思い、声をかけたのだけれど。