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ぼくらは死んだ  作者: 水島素良
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最終章 4

 次の日の朝、一階に降りたら、珍しく家族全員がそろっていた。たいてい一人か二人しかいないのに。

「今日は休みだ」

 こちらの不審の目を察したのか、ヤブ医者が読んでいた新聞を下げて、こっちをかるく睨んだ。

「あらおはよう」母親がこっちを見て笑った。不気味な笑い方だ「今日学校行くの?2、3日休んでもいいんじゃない」

「そんなサボリはたたりが落ちる……」

 サチコがつぶやいた。この二人はほっとこう。

「その祟りだなんだっていかがわしいのは、もう卒業できんのか?」

 父親が呆れたように言うと、オカルト女が頬をふくらませた。ガキくさい怒り方だ。

「いかがわしくないわ。だいいち、お母さんだって昔巫女さんをやっていたでしょう?」

「えっ」

「あれはただのバイトよ、バイト」

 母親がちょっと照れたように笑った。……もしかして、岩本家はほんとにオカルト一家なのか?

「まさか父さんはそんな過去ないよね?」

「巫女さんになったことはないなあ」ヤブ医者が真面目な顔で変なことを言い出した「俺は神も仏も共産党も信じない。金は信じる」

 ……こんな医者に診られている患者は大丈夫なのか!?

「祐一も今度集まりにいらっしゃい。お払いしてもらえるから」

「はあ?」

「今回の事故、何かの呪いかもしれないでしょう」サチコが真面目な顔で言った「それに、もしかしたら団体内で仕事がいただけるかもしれない。今は不況でしょう」

「アホか!」

「誰がアホだって!?」

「やめなさいって二人とも」母親が割って入ってきた。「祐一は大学に行って普通に就職しなさい」

「は?」

「何だ、医者になるんじゃないのかあ」

 ヤブ医者が新聞を見たままつつぶやいた。

「私が医学部に入ったじゃないの。弟が事故にあったからわざわざ帰ってきてあげてるのに」

「休学中のくせに何を言うか。お前は医学じゃなくて宗教に目覚めたんだろ?そんな奴にメスを持たせられるか!?」父がこっちを向いた「あ、ちなみに、現代は医者になっても金は儲からんぞ」

「は?」

「だからもっと金になって楽な仕事を探せ」

「ほんとお父さんは金の話ばかり、だから来世に魂の救済を……」

「いや、ちょっと待って」

「だめだめ」母が今度は父とサチコの間に割って入った「大学に行くんなら経済よ。MBAなんて素敵じゃない?何の事だかよくわかんないけど」

 三人は僕を無視して勝手に人の人生を創作して言い争っていた。

 なんだか腹が立ってきた。生き返ってから怒りたくなるのはこれが初めてかもしれない。頭に血が上ってるのを感じた。ほんとに、感触でわかるんだよ。


「……人の将来を勝手に決めるな!!」


 バン!とテーブルに手をたたきつけた。三人とも黙り込んだ。気まずくなったので僕は朝食をほとんど食べないで家を出た。

 それにしても、どうしてうちの家族は人の人生を勝手に決めるんだ!?


 学校の門に入る前に校舎を見上げた。ここも一年ぶりのはずだ。全然そんな感じがしない。

 このまま浮かんで、教室の窓から入れないかなあなんて考える。

「岩本ぉ~」

 振り返ったらそこには砂糖が……いや、佐藤が立っていた。

 甘いもの大好きで、体の90%が砂糖でできているという、MACユーザーだ。

「生きてたんならメールくらいしろよ!一ヶ月も音信不通だから死んだかと思ったぞ。でも葬式の話は聞かないし」

「縁起でもないこと言うな」

 明るいパソコンおたくがいつも以上に笑ってる。こちらもつられて笑う。

「実際死んでたんだけどね」

「は?」

「なんでもない」

 こいつにユーレイの話をして大丈夫だろうか、と考えてみる。話題がなくなったら考えよう。

「それより、ノート貸して」

「それは無理だ」

「何で?」

「俺が真面目にノートなんか書くわけないだろ、ほら」

 数学と書いてあるノートを開いてこちらに見せる……巨乳の美少女キャラでいっぱいだ。

 ……忘れてた、こいつは授業中はずーっと自分のゲーム制作のネタを書いてるんだった。しかもぜんぶ少女で巨乳だ、間違いない。

「それより、今日進路希望提出する日なんだけど」

「えっ」

「ま、岩本は事故ったんだから遅れてもいいんじゃない」

 その言い方だと、僕が事故を起こしたように聞こえるが……。

「何だよその顔は。岩本どうすんの、大学行くの?」

「なんでみんな大学って言うかなあ。今朝親にも言われた」

「行きたくないんだ」

「そういうわけじゃないけど」

 進路希望なんて全く頭になかった。そんな事より今は生きている人生を楽しみたい。二、三日で進路を決める?そんなの無理だ。

 進路希望を出しても、そのあと、三年だから講習とか模試もあるだろ?夏休み返上で勉強して、いや、その前に一学期中にもテストがある。ああ、考えただけで嫌だ。どんでもない過密スケジュールを背負わされた気分だ。

 そういえば、湖ではほんとに何もせずに一年過ごしたっけな……。

 生きていると厄介なことがたくさんある。肺の底から深ーいため息が出た。


 特に感動もなく、友人には「よかったな~」の一言で済まされて一日は終わった。授業はわけがわからなかったが、たぶん一ヶ月くらい余計に勉強すれば取り戻せるだろう。勉強する気ないけど。

 帰りに歩道橋の上に上ってみた。街並みが見える。いつか幸平とここに来たっけ……と思っていると、携帯が鳴った。良く知っているあの番号から!

 しばらく出ようかどうしようか考えた。着信は収まらない。

 これがもしミカちゃんだったら。

 湖の出来事はすべて本当だったと完全に証明される!

 心臓ががんがん鳴った。本当に、胸から飛び出してきそうだった。ゆっくりと耳元に携帯をもっていく。

『もっしもしぃ~。イワモトぉ~?』

 この半分カタカナの発音……間違いない!!

「ミカちゃん?」

『え?あ、そうだよぉ!うわああああ!』鼓膜が破れそうなくらい大きな叫び声がした『アタシのことようやくわかるようになったかああ!?イワモト!生き返ったの?そうなの?』

「そうそう生き返った!」こっちまでノリノリの声になってしまう「今釧路にいる!」

『クシロ?ああ、釧路の人だっけ?』

「そう!」

「キャー」

 あまり思い出したくないんだけど、このあとずーっとこんな感じで『生き返ったぞ、わーい』って感じのはしゃぎトークに一時間も使った。さんざんはしゃいで電話切った後、歩道橋を渡る人が怪訝な顔で通り過ぎて、そのあと思い出すたびに赤面する羽目になった。まあ、それはいい。とにかく、あの湖での出来事が全部本当だって証明された!!そうでなきゃ、札幌に住んでいる金髪の中学生ミカちゃんとお知り合いになるはずがない、mixiで会ったわけでもないし。


 家に帰った後、ミカちゃんからまた電話があった。

『イワモト!!札幌に来て!!』

 出るなりそんなことを叫ばれたので、目が点になってしまった。

「何をいきなり」

『だってジツブツが見たいんだもん。それにせっかく生き返ってんだからさ~。遊びに来いよ~。一泊くらいなんとかなるだろッ』

「うーん、考えとく」

『カンガえないで今来るの!』かなり強引だ『じゃなきゃ、ホントに生きてるかわかんないじゃん』

 電話で話すだけじゃ足りないってか。

「すぐには無理だ。週末ならなんとかなるかも」

『ゼッタイだぞ!』

 電話はそこで唐突に切れた。

 札幌か。

 行きたいけど、どうやって親を説得しようか。費用は貯金(お年玉の蓄積)で何とかなると思うんだけど。



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