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ぼくらは死んだ  作者: 水島素良
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第四章 1

 夏真っ盛り(といってもあんまり暑くないんだ。北海道だし、冷夏だったから)の町の商店に、けたたましい昔風の黒い電話のベルが鳴る。たぶん隣のあっちゃん(フデさんの長電話友達だ)と思ったら、違った。

「ああ、あさって来るんだね。わかった。気をつけるんだよ。最近は物騒だからねえ。何か食べたいものはあるかい?うん、そうだね。ミカちゃんはアイスクリームがないとダメだものねえ。うん。ちゃんと用意するよ。じゃあね」

 フデさんが楽しそうに、頬を赤らめながら受話器を置いた。そして、カレンダーのあさっての欄に筆ペンで『娘夫婦来る』と書き込み、店先へ戻っていった。そしたら今度は梶村さんが金庫から立ち上がり、カレンダーの前まで行って、顔をその文字に近づけてじーっと見て、

「……フハハハハハハハハハハハ!」

 と、大声で笑い始めた。僕は世界征服でもたくらんでいるのかと、その姿を見て思った。だって、軍人なんだぞ、格好が。それがカレンダー見て高笑いしてるんだぞ。敵地上陸目前って感じじゃないか。

「ああ、災難が来る……」

 隣から情けない、消え入りそうな声がした。幸平がしゃがみこんで頭を抱えていた。いつの間に現れたんだ?

「災難って何?死んだ兵士がいっせいに帰ってくるとか?」

 僕が恐る恐る尋ねると、今度は別方向からバカにしたような声が。

「何言ってんだよ、死んだ奴が電話なんかしてくるかって、バーカ」

 相変わらず字室は偉そうな態度で、腕を組んでこっちを睨んでいる。

「じゃ何だよ?」

「ミカが来るぞおおおおおおお!」

 梶村さんがこっちを振り返って、両手を広げて大声で叫んだ。歓喜の表情だ。舞台のパフォーマンスみたい。人格変わってませんか?

「孫が来るんだよ、伍長の孫が」

 字室が笑う。今日は伍長なのか。どうもその階級ごっこは乗り気になれない。

「孫……あ、そうか、フデさんの孫か」

 なるほど、フデさんがうれしそうなわけだ。それにしても、どうしても梶村さんの孫っていう発想になれない。きっと若いからだよな、見た目が。

「ジジイバカのわがまま孫娘ってやつだよ。僕逃げるからね。知らないからね」

 幸平がぶつぶつ言っている。

「毎年ああ言って、一番つきまとわれてるんだぜ、幸平は」

 字室がせせら笑うように言った。

「つきまとわれる?幸平が見えるの?そのミカって人には」

「ミカには全員見える」梶村さんが誇らしげに笑った「幸平、ぶつぶつ言わないでちゃんと心の準備をしておけ」

「悪いけど、今度こそ逃げ切るからね!」

 幸平が窓から飛び出していった。僕は好奇心に駆られてその後を追った。なんであんなに嫌がってるんだろう?僕らが見える人が来る!こんな面白いことはないと思うけど。

 ……僕だけ見えなかったらどうしようか。心配だ。


 幸平は見つからなかった。本当に逃げてしまったらしい。夕方までかかって町を一回りしたのに、どこにもいなかった。諦めて帰ると、梶村さんはいつも通り金庫の上に座っていた。いつもより機嫌がよさそうだった。字室とフデさんはテレビを見ている。

「ねえ、幸平見なかった?」

「知らねえよ」字室がテレビから目を離さずに答えた「九時半には帰ってくるんじゃねえの?二宮有希が出るからな」

「はあ」

 テレビなんてほかの家でも見れると思うけど。いつもより早いが、商店を出て湖へ飛んでみる。まだサミも船も出ていなかった。明るいうちは出てこないんだ、忘れてた。

 日が長くなると起きている時間が短くなるってサミは言っていた。普通逆だよな。



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