閑話 彼女の場合
佐々木美紀
佐々木美紀はその世界が嫌いだった。
自分はもっともっと特別な存在のはずで、こんな隅っこに燻るはずがないのだと思っていた。
学校では、少し優しくしただけで男子たちからは好意を寄せられた。
可愛く見えるメイク、仕草。
いっぱい勉強したんだもの、当然よね。
でも直ぐに迫ってこようとする。
ほんとサルみたい。
あたしの彼氏となるべき人は、お金を持っていて、イケメンで、それでいてあたしだけを愛してくれる人じゃないと。
同い年なんてガキでしかない。
範疇外ってやつ。
でも、女子はそんな私に嫉妬して陰口ばかりたたいてきた。
男子に媚売って気持ち悪いと虐められた。
好きな人を奪った尻軽とも言われた。
付き合う気もないくせに、媚売ってキープ作ろうとすんなとも言われた。
でも、と美紀は思う。
そんなの、あんたたちが可愛くないから仕方ないじゃない、と。
あたしは違う。
好かれたいから、綺麗になる為の努力をした。
好かれたいから、人に優しくした。
それをなんであんたたちなんかに、否定されなきゃならないの?
努力すらしていないくせに、自分の正義ばかりかましてくる。
だから女は嫌い。
何時だってヒステリックにぶつかってくるから。
第一、大人もそう。
先生なんて一番酷い。
あたしをもっとよく見るべき。
先生は私も悪いではないのかと言ってくる。
もっと他人に歩み寄る努力をしないと、社会ではやっていけないと言ってくる。
本当に余計なお世話。
何であたしが周りに気を遣わなくちゃならないの?
むしろ周りがあたしに気を遣うべき。
だって、あたしはそのための努力をしたもの。
それに親だってそう。
いつもいつも子ども扱いして。
学校から電話が来た時には、両親揃ってウザかった。
もう高校生なんだから、協調性を覚えないと。
そのままじゃ誰もいなくなるよとか。
全部貴女の為を思って言っているの、嫌っているわけではないのよって。
本当に、うるさい。
あんたたちにあたしの何が分かるっていうの?
どうせ世間体っていうのを気にしているだけでしょう?
第一、あたしの努力を他人に否定される権利なんてない。
佐々木美紀は、全てに不満を持っていた。
自分を正確に評価しないこの世界を。
嫉妬とかいうくだらない感情に駆られる同世代の女子たちも。
見た目とちょっとした優しさで簡単に転ぶ男子たちも。
自分より長く生きているからと直ぐに説教を垂れてくる大人たちも。
―――――だから。
これは正しい事なのだと思った。
「――――せい、じょ?」
あたしを見るのは、極上の男だった。
真っ赤な髪に、まさにイケメンという言葉に相応しい顔。
着ている服は王子様のようだった。
そんな男が、あたしを見て蕩けたような笑顔を見せる。
そう、あたしにはこんな男が相応しい。
そう、あたしにこそ、相応しい。
学校をさぼって町をふらつこうとした矢先、光に包まれてこんな場所にいるけど、きっと神様があたしの本来いるべき場所に戻してくれたのだろう。
あんな詰まらない世界じゃなく、あたしがあるべき世界に。
そう、これが、本当のあたし。
一緒に来たらしい女もいたけど。
あんなみずぼらしい女、一人で生きていけるでしょ。
だってオバサンだったし。
あたしは、まだ未成年で守られるのが当たり前なんだから。
この世界こそが、本当のあたしの世界なのよ。