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Vendetta -復讐ー  作者: 水無月
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悪夢







 簡潔に言うのであれば、そこからの華の生活は、劣悪を極めた。それは、華が社会保証やら人的尊厳から考えたからかもしれない。

 だが、華にとってはあり得ない状況だった。個人のプライバシーなんて言葉は、まるでなかった。結果的にいうのであれば、非人道的に扱われたのは確かだった。











 茫然とし、何一つ発言する間もなかった。あの状況で、何を言えば良かったのか分からなかった華は、ローブの男に無理やり立たされたかと思うと、そのまま外に連れていかれた。

 いきなりの事で叫ぶと、蔑む冷たい視線が向けられた。自分が間違っているのだと言わんばかりの視線は、華を委縮させた。

 まるで、ミスをした時の上司のような、そんな表情。華は成人していた、だからこそ、何も言えなくなった。ただひたすら、恐怖に体を震わせていた。


 怖くて怖くて、それでも何も言えずにただただ強い力で握られる腕の痛さを我慢した。そして部屋の外を出て、その風景に絶句した。

 石造りの建物は、今の華には冷たく感じ、拒絶すらしているかのようで、つい先ほどまでいた自分の世界とは違うと否応がなしに気づかされた。

 だって、知らない。

 自分が住んでいたところは、コンクリートばかりで冷たいばかりだったかもしれなかったが、そこに住む人たちは暖かかった。家を出て、借家の大家はいつだって水やりをしながら今日も仕事かいと声をかけてくれた。そうなんですと言えば、無理しすぎないようにねと言ってくれた。


 どういうことなのか、そう問うても何を聞いても答えてくれない男に苛立ちながらも、渋々連れて行かれ、どの位歩かされたのだろうか。

 持っていたバッグはいつの間にか手元になく、それが更に不安を募らせる。

 知っている人が一人もいないどころか、見知らぬ景色ばかりの場所に、華の心の限界が迎えそうになったころ、光が、華の目に差し込んだ。

 そして、華は絶望と共に理解した。


     ――――否、理解せざるをえなかった。


 そこは、華の知る世界ではなかった。

 少なくとも、華の住んでいる場所ではないのは、確かなことだった。車など一台もなく、馬車が人を運んでいる。ちらほらと見える男達は、皆鎧をまとい、女性は誰もが重そうなドレスを着ている。テレビの歴史モノでしか見たことがないような、そんな風景。


 いっそのこと、夢であれば笑えた。

 夢であれば、自分のその妄想を笑えたはずだった。

 なんて、現実味を帯びない夢なのだろうと。

 自分が住んでいるのはコンクリートジャングルと称される場、こんな欧州圏の町並みなど想像力に乏しいから、もっと杜撰にできていたはずだと。


 しかし、今の華にとっては、悪夢でしかなかった。夢であればと何度思っただろうか。

だが、掴まれた腕は痛い。これが、夢でないという事を声高に叫ぶように。見たくない現実ということは、こういうことなのだろうか。

 それでも、諦めきれない。

 だって、自分は何一つとしてわからないのだから。そう思ってどうにか説明を求めようにも、男はそれすら煩わしそうに顔を顰めるだけだ。どうして、そんな表情をされなければならないのだろう。自分は何もしていないのに、どうしてそんな目をされなければならないのだろう。

 連れて行けと言った、あの殿下と呼ばれた男。

 あの人は自分の状況を自分より知っていたようだった。

 それだというのに。


 男は、華を無言で連れて歩く。足が痛いといっても止まってくれない。怖くて怖くて、華の目から涙が溢れてきた。

 何が、どうなっているのだろうか。

 自分は、いったいどうなっているのだろうか。もうドッキリなんて言葉では済ませられない。だって華は、もう怖くて怖くて仕方ないのだから。もしこれがただのドッキリであれば、訴訟したいくらいだ。

 でも、今言ってくれたらしないから、だからどうか。



 どうか、夢だと言ってほしかった。





 男は暗い路地のような所を勝手知ったるまま、華を連れて行く。そこは、据えた匂いがして、華の本能が良くない場所だと叫ぶ。清潔という言葉からほど遠いそこは、華にとっては良い場所ではないと。


 臭い、こんな場所に一体何の用事があるというのだ。

 いや、用事なんてわかっている。

 それでも、理解したくない。

 いやだ、ここは、いやだ。


 華は嫌だと。

 やめてと叫ぶ。



なんで、どうして、わたしが、なにをしたの、やめて、はなして、こわい、たすけて、おかあさん、おとうさん、だれか、だれか、たすけて






 それでも男は華を引きずるようにして、ある寂れた店の前に足を進めた。そこは、酷い腐臭がした。一度入ったら、もう二度と、ただの華で戻れなくなるような、そんな臭い。

 入りたくなんて、なかった。入りたいなんて、少しだって思わなかった。



 それでも華は、自身の身に何が起きているのか何一つ知らされぬまま、奴隷小屋に売られた。














 後の華は、自分に起きたことを知る。

 その世界は、魔族や精霊、人間が住まう世界。そして魔王や聖女がお伽話でなく現実として存在する。魔族と人間は、長年に渡って争いを繰り返していた。

 そもそもの始まりは今はわからないが、互いに領土を奪う為だとか、復讐のためだとか言われている。

 その根本は分からず、ただただその種族たちの争いは続いていると。それを知ったのは、奴隷小屋でのことだったが。




 そして華が召喚された日、人間達は一念発起とやらをしたのだ。ちょうどその頃、魔族の勢力が強まりこのままでは危ういと人間の王族が判断した。

 そして、昔の文献から聖女を召喚する方法を調べた。聖女は、いつの時代でも異世界から召喚され、そして一度召喚されるたびに人間世界にとって重要な存在となっていた。


 聖女は、昔から幾度となく召喚されてきた。それは華のいた世界であったり、その他の世界でもあった。だが、絶対的に彼らの住む世界とは異なる世界の人物であるというのが絶対条件だった。



 そうして、召喚されたのが不知火(しらぬい)(はな)と、佐々木美紀(ささきみき)であった。




 二人は、本来生きて果てるべき世界から連れ去られた。

 召喚を行ったのは、人間の国の王子。

 そしてその仲間。




 華にとっては、華をあの世界から無理やり連れ去った犯罪者。





 王子たちは、魔族を根絶やすために、華たちを召喚した。でも考えても見て欲しい。知らない世界にいきなり連れ去られた挙句、魔王を倒せなんて馬鹿げている。

 だって、相手がどんな世界から来たかも知らないというのに。どうして、自分たちの世界と同じように、戦うのが普通の生活に有ると思うのだろうか。

 少なくとも、華の世界ではありえない。確かに戦うことを生業とする人もいるだろう。しかし華の周り、そして佐々木の周りではあり得ない。彼女たちの住む国は、世界でも数少ない非戦争国なのだから。だからこそ、華は佐々木の対応に怯えた。

 普通(・・)の人であれば、恐慌状態になるだろう。

 それが、普通のはずだと華は思う。だというのに、佐々木は怖がってはいても怯えてはいなかった。まるで、自分は(・・・)大丈夫・・・だとでも言うように。



 華は知らなかった。そして、二人は篩にかけられということを。どちらかが、本物の聖女であり、片方はたまたま巻き込まれただけの人だと思われていたことに。

 そうであったとしても、本来は召喚した側が責任を取るはずだった。しかし、王子とその側近は面倒は御免とばかりに華をなかったことにしたのだ。



 若く、きれいな見た目をしている彼女は受け入れられた。

―――女子高生で、見た目もよい彼女は王子たちの目にとまった。

 若くない、くたびれた華は捨てられた。

―――社会に出て、顔色の悪くやつれた女は王子たちの目にとまらなかった。







 そして、まるでごみの様に。

 そう、要らない、処分に困る不燃ごみのように。

 自分を、廃棄したのだ。






 華の胸中に、憎悪が沸き上がった。言葉に出来ない憎しみというものを、初めて知った。胸の内を爛れるような熱を以てして荒れ狂う憎悪。言葉になんて、出来るはずもない。





「わたしから、せかいを、うばっておいて―――」






 怨嗟の言葉が、唇から漏れるように零れる。

 目の前が、見えなくなるほどの、憎しみ。

 言葉にならないほど、憎い。

 嗚呼、出来るのであれば、今すぐその息の根を止めてしまいたい。





 それほどまでに、にくい―――。








―――――パキリ



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