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Vendetta -復讐ー  作者: 水無月
25/28

かれらのさいご





いったい、どこから間違えてしまったのだろうか


何がいけなかったのだろうか


今更となっては全てわからない








―――――すべてが変わってしまったあの日から、我らは全てを失った。






*************





 かつて、自分は王としてこの国に君臨していた。長く続く歴史で、誰もが自自分たちを敬い、敬愛しているだろうと思っていた。そんな自分たちが、こんな状況になれば、きっと誰もが涙し救済しようと立ち上がるだろうと思っていた。


 しかし、実際は、違った。


 檻に入れられ、服も粗末なものに替えられた。穴こそ開いていないものの、王族である自分が一生着ることも見ることもなかったであろう襤褸を着させられている。食事も酷いものだった。少量の野菜と呼ぶのもおこがましい何かが浮かんだスープ。固すぎて小さく千切らなければ食べられそうにもないパン。酷い時は、固形物が無い時もある。

 王妃はみずぼらしい自分を見ては、泣き伏している。



 しかし、それ以上に打撃を与えたのは自国の民だった。彼らは、檻に入っている自分たちをみて嘲笑っていた。


 はじめのうちは何たる態度と怒鳴った。いずれかは天罰が下るぞとも言った。我々がいたからこそ、お前たちが生きていけるのだとも言った。


 しかし誰一人としてそれを真に受けないのだ。

 むしろ失笑と共に返される。


 ある女が言った。


「オウサマ、あんたがなにをしてくれていたんだい?」


 ある男が言った。


「オウサマ、あんたは俺らを替えのきく駒とでも思っていただろう?」


 王がいるからこそ、この国はやって行けたのに!!わしが居なければこの国は駄目になってゆくだけなのに!!所詮下賤な人間、いずれ来る破綻を、心を暗くしながら待った。


 我等のみが不幸になるなど可笑しい。我等が不幸なら、民も不幸であるべきなのだ。なぜなら、わしこそがこの国の王であり、この国そのものなのだから。



 しかし、いつまで経ってもそんなことは起こらなかった。檻の中から見る民の生活は、何一つ変わることなく回っていた。それこそ、拍子抜けするほどに。


 噂で、かつて配下として働いていた魔術師長が統治者として国を運営している事を知った。そして、国の名前を変えたことも。


――――王妃は、いつの間にか狂い始めていた。


 待ちゆく人間は、明るい笑顔を浮かべている。国王である自分が、こんな目に遭っているというのに。

初めの頃は、多くの民が嘲笑を向けに来ていたのに、今はそれすらもない。


――――王子は、気付いたらいなくなっていた。


 誰も、われら王族の事など歯牙にもかけなくなっていた。


――――聖女も、気付いたらいなくなっていた。


「――――――あぁ・・・・・・」


 手足は、棒切れのように細くなっていた。輝いていた髪も、今では老人の様にくすんでいる。今では、自分を王であったといって信じる者はいないだろう。


 自分が、王でなくとも、国は回る。王という存在は、変えがきく。民は、自分たちを案根にに導く王を、求めている。だからこそ、自分は廃された。


 そうして、王はやっと気づいた。


 自分が間違えていた事の全てを。






**********




「だせ!!ここから出すんだ!!!!」


 私は納得していない。何故、私がこのような檻に閉じ込められなくてはならないのだ。この国の王子として、民にいろいろしてやっただろう!なぜ、なぜ誰も助けようとしない!!


「ねぇ、オウジサマあなた、ひどいことをしたのね」


 ある女が言った。


「オウジサマよ、簡単に人を捨てるんだろう?俺は嫌だぜ」


 ある男は言った。


 母上は、毎日泣いている。

 泣く暇があるのなら、私を助ける為に身体でも売ればいいのに!そう零したら騎士が化け物を見るような目で私を見てきた。

 父上もかつての王の威厳なぞどこにもない。全てはあの魔王とか言っている女が悪いのだ!!


 ミキもそうだ。


 聖女として召喚してやったのに何一つとして役に立たない。わざわざこの私が召喚してやったというのに!!誰もかれも、役に立たなさすぎる!!


 そしてある日、俺は魔族によって檻から連れ出された。


 ようやくか!!ふん、最初から入れなければいいものを!簡単には許しはせんぞ!


 気付けば、隣にミキがいた。彼女は憔悴していて可愛らしかった容姿の見る影もない。そうして連れてこられたのは、あの女が連れていた側近みたいなやつらの前だった。


「おやおや、だいぶ酷い姿になりましたね」

「いやいや、相応しい姿だろう」

「心を折ったと思いましたが」


 好き放題いう魔族に、私は怒鳴った。何をしている、さっさとこの鎖をほどき、私を然るべきところへ連れていけと。

 その言葉に、羽をはやした魔族が微笑んだ。


「もちろん、あなたたちに相応しい場所を我らが用意しておりますよ」


 ふん、最初からそうしていればいいものを。気付くと、ミキはがたがたと震えながら泣いている。どうしたのだ、私の付属品の分際で泣いているのか?


そうか、泣くほど喜ばしいのか!

………どこへ連れていく?

地下に下がって行っているぞ。

私に地下なぞ似合わない、なぜだ。

まて、その、もっているものは、なんだ・・・。

ふざけるな、私は次期国王だぞ、何をしようとしているのか分かっているのか!!


「えぇ、もちろんですよ」


は、はなせ!!

ミキだけで十分だろう!!

私は、私は王族だぞ!!

私の代わりにその女を・・・!!


「いいえ、あなたはただの咎人、私の愛おしい方を傷付けた、ね」









や、やめっ――――――




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