対面
その姿に
その声に
心の奥底から恐怖が沸く
冷たい視線が、心臓を打ち抜く
かつての恐怖が
かつての怒りが
身を焦がすかのように燃え上がる
そして気づくのだ
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「な、なんなのよ、あんた!!!!」
そう叫んだのはもう一人の聖女である佐々木美紀であった。彼女は、華を見るなり罵声を浴びせる。意味が分からないと言わんばかりに罵声を浴びせ続ける彼女に、華は何も言わず視線すらもやらなかった。
「ギル」
「はい、ハナ様」
そしてギルは華を抱えると浮かぶようにドラゴンの背から飛び降りた。それと同時に、ガルグ・ロロ・アルバも降り立つ。
「イザーク、ありがとう」
華はドラゴンにそう声を掛けると、ドラゴンは溶けるようにその姿を変え、いつものイザークの姿へと変わった。その麗しい美貌が、蕩けるように笑みに染まっている。
「いいえ、ハナ様。むしろ光栄の極みです」
うっとりとしながら言うイザークに、ギルは冷たい視線をやる。
「シカトしないでよ!!あんたたち誰よ!!」
佐々木は強気にもそう彼らに怒声を上げる。きっとこの場で彼らが何者か気づいていないのは、彼女だけだろう。少なくとも、王や王子たちは魔族であることはすぐに理解できたのだから。
「―――あぁ、おひさしぶりね」
華は、やっと佐々木を視界に入れるとそう声を掛けた。そしてその言葉の意味の意味に気付いたのは、皮肉にも王子だった。
「お前、あの時のか!!」
その言葉に、華が一瞬体を揺らす。そんな華を、ギルは気遣わし気に見る。
「なんだ、貴様、今度の魔族の襲撃の為にわざわざ来たのか。…まぁ聖女として役立たずだが、誉めて使わすぞ」
王子が言葉を発するたびに、王と魔術師長たちの顔色が無くなる。どうして、魔族が魔族の襲撃の為にくると考えられるのか。そのあまりの内容の酷さに、言葉を失う。
そして彼のその物言いに目に見える苛立ちを見せたのは五将だった。
「おい、ニンゲン、お前誰に声をかけているんだ」
ガルグが唸りながら王子に言う。その横では、アルバが今にも襲い掛かりそうなのをロロが止めている。
「なんだ、貴様?醜い魔族のくせに、私にそんな口の利き方をして」
「やめろ!!オルフェウス!!!!」
悲鳴のような王の声も、彼には届かない。
「父上?本当にどうしたんですか?」
まるで分っていない王子に、頭を抱えた。そんな彼らを見ていた華は、飽きたようにため息をついてギルに視線をやる。
「ギル」
「はい。よく聞け、ニンゲン共。この度こちらにいらっしゃるのは今代の魔王様であらせられる。無礼な物言いは赦されんぞ」
ギルはそう冷たく人間に向かって言い放った。
「まおう?」
きょとんとした顔で繰り返す王子。そして顔を真っ赤にしている聖女。困惑を隠せない側近たちに、愕然とした表情を隠せない王と魔術師長たち。
それぞれは全く違った反応を見せ、一瞬華を楽しませた。
「…はは!そうか!なればそのまま私の元へと下るがよい!」
「…は?」
王子のその言葉に、五将のみならず幾人かの人間ですら声を上げた。ギルは気味が悪いものを見るような視線で、オルフェウスから視線を反らした。
「何を、言っているんですか、この、ニンゲンは」
あまりの理解不能に、切れ切れになりながらもイザークはガルグに問うた。
「わ、からねぇ…俺の耳もついにやられたのか…?」
「何をごちゃごちゃ言っているのだ!そもそも貴様も私が召喚したのだ!私に仕えて尽くすのが礼儀というものであろう!!」
その言葉に、ロロがその巨体には似合わない速度で王子に詰め寄った。そしてそのまま口を大きな手のひらで抑え込む。
「ぐぅ!?」
「オイ、おまえ、何を、言っている?」
ロロの目が、赤く染まり、腕がどんどん太くなっていく。
「や、やめて!!オルフェウスがなにをしたの!!」
佐々木がロロの腕にしがみつきながら必死に手を放そうと躍起になっている。しかし彼女はあくまでも女子高生。たいした力が無いのでロロの障害にはなっていない。
「ちょっと!!おばさん!!なに見てんのよ!!さっさととめてよ!!」
佐々木は静観している華に叫んだ。
「…ロロ」
華がそう一言いうと、ロロは渋々腕を下げ、華の元に戻っていく。
「たいだいなんのよ、魔王とかってなんの冗談?そもそもおばさん、なにやってんのよ、あんた、人でしょ?マジ意味わかんない、キモイんだけど!!」
佐々木は強気に言い放つ。
「馬鹿だ馬鹿だと思ってはおりましたが…」
ギルは見ていられないとばかりに目を背ける。他の四人も同様な素振りを見せる。
「は、ハナとやら!!此度のことは大変申し訳なかった!我が愚息が、そなたに対してあってはならぬことをした!しかし!まだ挙兵をしておらぬ!」
王が悪あがきにもほどがある言葉を放つ。そんな王に、王子たちは目を剥いた。どうして、国の王たるその人がそのようなことを言うのだろうかと、不思議そうに。
少しでも考えればわかることを、王子たちは何も考えない。
そして華を呼び捨てにした王へ、五将が殺気を放つ。
華は、そんな王に一瞥をくれた。
「で?」
「…は?」
「で、どうしてくれるの?お前の息子は、存在自体が私の逆鱗に触れる」
その言葉に驚いたのは王子だ。
「な、貴様!なにを戯けたことを!私が貴様をここに召喚してやったのだぞ!私のために尽くすのが当然だろうが!我らと共に、魔族を根絶やすのだ!それが貴様の使命であろう!!」
「ふふ、あっはははははははははは」




