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Vendetta -復讐ー  作者: 水無月
20/28

始まりの終わり 2




その巨体は、青銀に輝いていた。


鱗の一つ一つが反射し、神々しいまでの存在を放つ。


悠々と大きな翼を羽ばたかせ、空を飛ぶ。


人には手の届くことのない、大空を。


その背には影があった。


真黒な、真黒な影が。





***********





「まだ見つからぬのか!!オルフェウスは何をしておるのだ!!」


 王が怒号を飛ばす。それもそのはずだ。王子であるオルフェウスは勝手に聖女召喚を行い、あまつさえ一人を放逐したままなのだから。しかも魔術師長が解析した文献によると、聖女は二人でなければならない。

 そして一人は魔王になる可能性があるというのだ。


 しかしオルフェウスは一人でも大丈夫だと信じられないことを口走る。魔術師長にも確認させたが、もう一人は物見小屋に売られたことまでは判明した。しかしその後の足取りが全くつかめないのだ。万が一にでも、既に魔族側についていたとしたら。


 王はその考えに血の気が下がる。

 自分の代で、まさかこのような失態が起こるとは。それもこれも全てオルフェウスのせいだと思う。我が息子ながらなんと愚鈍に育ったことかと王は臍を噛む。


「オルフェウスは、あやつはいったいどこなのだ!!」


 苛立ちが募る。自分に確認もしないで勝手に挙兵しようとしている事も、王である自分を軽く見ている事も。何もかもが王の気に障る。

 そんな時。


「父上、どうされたのですか、みっともない」

「オルフェウス、貴様!!」


 オルフェウスが自分の側近たちとゆったりとした動作で謁見室に入ってきた。しかしその恰好は物々しい。

鎧ががちゃがちゃとすれ、耳障りだ。


「王に向かってみっともないとは何だ!!もう一人は見つかったのか!!」

「何を言っているですか、父上。聖女ならミキがいるでしょう?」


 そう言って、オルフェウスは背後にいた少女の背を押す。貴族の娘が着るようなドレスに包まれたその身は、どこからどう見ても戦場に向かうようには見えない。


「お、王様!あたし、頑張りますから!ご安心ください!」


「そうですよ、父上。ミキがこう言っているんですから、大船に乗ったおつもりでいてください、必ず魔族を根絶やしにして見せましょう」


 その一部始終を見ていた魔術師長はその言葉に驚愕する。王子は、自分が言っていたことを知らないのだろうか。


「オルフェウスよ、文献が解析できたといったであろう、もう一人も聖女なのだ、急いで探し出せ」


 王のその言葉に、オルフェウスはため息をついて側近たちを見やる。彼らも失笑しているように見えた。


「あんな、みすぼらしい女が、聖女?そんなはずないでしょう。万が一そうだとしてもたいしたことないに違いない」


 その言葉に、側近や聖女も笑い出す。

 いったい何が可笑しいのか。王も魔術師長もわけが分からなかった。どうして、そんなにも自信に満ち溢れているのだ。なぜ、万が一のことを考えようともしない?


「とりあえず、ミキもいるので魔族の国の城に攻め入ってきます。そうすればこの国の民たちもきっと安心できるでしょう」


「待て、馬鹿者!!」


 その瞬間、オルフェウスは剣を手に掛けた。


「…父上?いくら父上といえど私にそのような口の利き方は如何なものかと思いますよ?」


「オルフェウス…おまえ…」


 その時王はようやく気付いた。いや、むしろ遅すぎた。オルフェウスは王の器ではないと。むしろ愚王になる類であることを。


 王があまりの事実に、膝から崩れ落ち王になったその瞬間。





――――文字通り、壁が吹っ飛んだ。


「きゃあああああああ」

「うわああああ」


 悲鳴があちらこちらから聞こえる。

 王は何とか立て直すと、現場と思しき場所に目を凝らした。

 そしてそこには。





「―――――こんにちは、が正しいかしら」




***********




 まず、目に入ったのは青銀だった。てらてらとしていて、目を凝らしてみるとそれが鱗であることがわかった。トカゲのようなのっぺりとした顔に、翼が付いていると最初に気づいたのは誰だろうか。

 そしてそれがドラゴンであることに気付くのに、さほど時間はかからなかった。


「う、うわああああああ」


 そのことに気付いたものが、火のついたかのように叫ぶ。あるものは腰を抜かし、あるものは既に気を失っている。騎士たちは慌てて帯剣していた剣を抜くが、それが本当に役に立つのだろうか。

 王は、玉座にしがみつきながらなんとか意識を保っていた。王子たちは、聖女を守るように円を組んでいる。


 魔術師長は、必死になってそのドラゴンがどういった意図で城に突っ込んできたのかを考える。そんななか、彼は気づいた。背に誰かが乗っているのに。

 そしてある予感が脳裏に走り、どっと汗が伝い落ちるのを感じた。


 それは、黒かった。

  ―――――一瞬の隙も見せないように構えながら、それを観察する。

 それは、何人かいるように見える。

  ―――――なぜか、体の震えが止まらない。




 そして、その事実に気付いたとき、彼は言葉も出ないくらいに驚愕した。彼女・・は、爛々とした目で、見ていた。彼らを。

 そしてその場にいる人を。






「おひさしぶりのニンゲンもいるわね。

          ―――――――――お元気?」






 彼女は、にたりと笑った。



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