閑話 彼の場合
その日、勝った、と俺は思った。
何せ、聖女を召喚したのだから。
これで、存在すら許されない魔族を根絶やしに出来る、と。
オルフェウス・ラークセンこと、俺は、人間国家ラークセン国の第一王子としてその誕生を得た。
俺が産まれるまで、王に子はなかった。
国は次なる王を望んでおり、、俺は待望の子というわけだ。
俺ほどこの国で望まれた存在はいないだろう。
待望の子だった俺は、全てにおいて最高のものを受けた。
最高の教育、最高の食事、最高の服に、部屋。
それは、次なる王になる俺には当然のものだった。
母上は、いつも優しく。
父上はいつでも褒めてくださった。
勉強においても優れた成績を収め、剣術においても好成績を収めた。
まぁ、俺だから成せることだがな。
俺は、次期国王としての教育をしっかりと受け、その心構えも出来ていた。
当たり前だろう。
俺がいなければ、この国は存在もできなくなるのだからな。
愚王になるつもりなどない。
まぁ、そんなはずもないがな。
俺の成績を見てそういうやつがいたとしたら、ただの馬鹿か阿呆だろう。
朝議にはしっかりと出席し、自分の意見を言った。
持ち前の知識を生かし、誰にも何も言えない意見を発現する。
これでそこらの貴族は文句は言えぬだろうと思った。
俺は貴族の甘言など聞かない。
この俺を傀儡のように扱おうとするやつは、俺が王になったあかつきには処刑してやる。
そもそも俺以上にこの国で高貴な存在はいない。
この国で一番に望まれて産まれたのは俺なのだから!
母上の美しさを受け継ぎ、父上の頭脳を受け継いた。
俺こそがこの国で最も尊き存在なのだ。
父上とて、今は俺の繋ぎでしかない。
だってそうだろう、父上とて俺の存在を望んでいたのだから!
しかし、ある日。
父上は顔を顰めたまま、俺の前に来た。
俺に会えることに対して、そんな表情を浮かべることなんてありえない。
むしろ会えることを光栄に思って、最高の笑みを浮かべるべきだ。
これで馬鹿な奴であれば即刻反逆していてもおかしくないが、俺は違う。
まぁ、相手は父上だし、今は王位にいるのだ。
ないとは思うが、万が一俺の言動を気に入らなくて廃嫡できるのも父上だけなのだ。
父上に問うた。
どうしたのですか、父上。
聞いたところによると、最近魔族の力が増しているらしい。
そのせいで、このままいけば国が危ないことになるらしい。
っち、忌々しいゴミ共め。
俺の治めるこの国で、好き勝手にさせてたまるものか。
俺が王位に就いた日には、奴らを全滅させてやる。
しかし、決定的な策というのが考え付かない。
俺にでもそういったことはあるのだ。
仕方あるまい、今までの王たちとてその偉業を成し遂げられずにいたのだ。
いや、ある意味俺の為にその偉業を成し遂げなかったのかもしれないとも考えられるのだがな。
だが、残念なことに俺はまだ全滅させる案を考え出せていない。
仕方ないから、父上に意見を求める事にした。
始め父上は渋った。
話すのが早いとか何だとか言っていたような気がするが、そんなはずないだろう。
俺は次期王だ。
この国で知らないことがあっていいはずがない。
俺は父上を何とか説得する。
そして父上は王家最大の秘密を俺に話したのだ。
話してくれたから良いものの、俺に話さないなんて大罪だぞ、父上。
まぁ、父上がいなければ俺は生まれなかったから、許してやろう。
これが他人であれば、打ち首ものだがな。
内容はとても簡単だった。
異世界から、聖女となる人間を召喚する事、ただそれだけ。
なんだ、そんなことか。
そんなことであれば、すぐ行えばいいというのに。
・・・いや、待て。
父上が王家最大の秘密だと言っていた。
まさか対価が必要なのだろうか。
父上に確認すると、召喚の儀に大量の魔力は必要だがその他はいらないらしい。
なんだ、では行えばいいではないか。
まぁ、万が一俺の命なんて言われたら父上に身代わってもらうがな。
父上も俺の為なら喜んでくれるだろう。
いざ、行おうとすると、その前に父上に止められた。
なんなんだ!!
何故止めようとするのですか!!
「息子よ、勝手に召喚の儀は行ってはならぬぞ、昔の文献がまだ調べ終わってはおらぬのだ・・・今しばらく待つのだ。魔力だけが対価とは思えん、もうしばし待て」
父上!
父上!!
俺が、そんな失敗をするとでも思っているのか!
対価など、父上が払えばいいだろう!
俺は父上の代わりに立派に国を治めるのだから!
俺は父上に無断で、仲間内の魔術師を呼び出し召喚の儀を行った。
一部の魔術師は父上の許可を得ていないことで渋ったが、次期王の俺の判断であり、拒否することは王命を拒否することと思えと言えば、しぶしぶ従った。
それも不敬に入ると思ったが、俺はそんな狭量ではない。
今は見逃しておいてやろう。
そして呼び出したのは二人の女。
一人は可愛かった。
茶色のふんわりとした髪と、頼りなげに揺れる瞳。
年は若いだろうか、十代前半にも見える。
その見た目の若さは、彼女の国の特有のものだというのは後から聞いたが。
華奢な体だが、着ている服の裾が短いせいかなまめかしく見える。
ラークセンでは、女性は足を見せることをはしたないとされている。
経験がないわけではないが、それでも見える足に下肢に熱が籠りそうになる。
上に来ているものも薄い生地なのだろうか、肢体のラインがうっすらと見えている。
もう一人はダメだ。
オルフェウスはすぐさまその烙印を押した。
黒くやぼったい長い髪に、おどおどと揺れる視線。
全体的に黒い服装をしている。
足を包むのは、ラークセンの男が着るズボンのようだが、それだけはいいかもしれない。
足のラインがはっきりとわかって、少しだけ色気を感じる。
だが、全体的に草臥れた印象を受ける。
一人目より年を取っているせいだろう。
少なくとも、可愛いとい印象は欠片もない。
もうそれだけでダメだと思った。
コレは、いらないと。
だから、仲間の騎士に聞かれた時、いらないと答えた。
そうだろう。
この俺が召喚したというのに、なんて相応しくない。
そんな汚点、さっさと消すに限る。
どう見てもこの俺に似つかわしくない。
ミキの方がよっぽどマシだ。
いや、マシどころか、最高かもしれない。
俺に気に入られるくらいだ。
ミキこそが聖女だろう。
そうに決まっている。
さぁ、ミキを何日が休ませたら、すぐにでも父上と母上に見せに行こう。
これでさらに俺の地位というものが盤石になるのだ。
まぁ、そんなことする必要もないが、念のためというか、形としては必用だろう。
さすがは俺という事だな!!




