例えば、こんな日常を。
都内某所。
繁華街の一角の雑居ビル。
「おう、視察に来てやったぜ!」
「すみません、ホントすみません。」
ドアを蹴破るようにに現れたのは、“マスターレイス”ヨハン・C・コードウェル。
金髪でカジュアルな服装と目つきの悪さもあって不良少年と言った風情。
外国人、というのは珍しいがそれでもそうとしか言いようのない。
そして、その副官役の“戦乙女”エリク・グリューネ。
赤毛のくせ毛と眼鏡が印象的な真面目そうな青年。
多少線が細く、女顔だが男である。
その戦闘形態故の渾名であり、オカマではない。
かつて、FHにも名を知られた《シュヴァリエ》に近い戦闘手法なのだ。
対照的だが、不思議と合わない訳ではない二人だ。
まぁ、ヨハンにエリクが引きずられてる形だ。
もう一人の副官役・“ドラゴンブレス”松波晶とは、同じく胃薬友達になっている。
松波の方は、別の幼児があるようでいないのだが。
「そろそろ、来ると思っていたよ。
その辺に座るといい、茶と菓子ぐらいは興そう」
答えた部屋の主は2人よりも幼い外見の銀髪の少女。
《永遠少女》とも呼ばれるダークワンのFHエージェントだ。
一応は、セル・《薔薇の下》の下部組織・《チャイルド・ガーデン》の幹部でもある。
ついでに言うなら、名前の出ない実力者でもあるのだが。
名前をジュリ=ローゼンマリアと言う。
外見不相応な年長者だ。
松波がいないことに気づき、フィンガースイーツ(つまめるお菓子)を甘さ控えめ中心にお土産に渡そう、と思う程度にはそつのない大人の対応が出来る少女。
しばらく、すると、ワゴン一杯に、トルテキルシュやら、イチゴムースやら、ピッチカート、モンブラン、エクレア、ケーゼライン(ドイツ風チーズケーキ)などなど。
ドイツを中心とした洋菓子。
また、味噌としそのカップケーキやタマネギパイ等、サレスイーツ。
ついでに、コーヒーなどの飲み物の準備をしてきたようだ。
少なくとも、三人で食べる量ではない。
「これは、メルヒェンのスメルナクーヘン!」
「・・・に見えるだろうが、前に食って美味かったんで再現してみた。」
「・・・ウマイ」
一口食べたヨハンがそう洩らす。
甘いものを食べている時だけは、柔らかい年相応な雰囲気になるのだ。
ジュリとヨハンが出会ったのも、ケーキショップでのことなのだから。
最後の一個のモンブランとレアチーズをシェアしてからの付き合いだ。
お互いが、FHだと言うことはそのあとに知ったぐらいにお菓子友達という色合いが濃い。
「それは良かった。
まだ、大量にパウンドケーキやらクッキーやらもある、半分は自分で食べてもいいが残りは配れよ?
Dr.コードウェルから依頼のは今、荒熱取ってるから・・・」
「父上の?」
「レモンケーキの砂糖のアイシングしたのだ。
シナモンが隠し味の甘さ控えめだな、甘味はアイシングで取るようなケーキだ。
パウンドケーキ型一本で10個以上のレモンを使う代物だから、それなりにビターな味になるね。
十日は常温保存か涼しいところにおいて置けば保つから。
そいつの甘い版もあるから持って行くといい。」
「良いのか!!?」
「いいぞ。
作業は楽しいのだが食うのはな。」
「太るか?」
「ヨハン!」
「ほう、女の子にそれを言うか、年嵩といえど生物上は女に言うのだな。」
わざわざ、机を回り込んで、白兵特化の握力でアイアンクロウをギリギリとかますジュリ。
一応、失言だとは分かっているのか、甘んじて受け入れるヨハン。
そして、わたわたとするエリク。
用事を終えてきた松波が、それを見て胃を抑える。
人から遠くにいる彼らではあったけれど、そんな日常な日々があった。
それが、血と硝煙にまみれたようなそんな非日常の裏側だったとしても。
・・・それでも、彼らにもそんな日常はあったのだ。
一応、ヨハンの甘い物好き云々は、ルールブック1のパーソナリティズ参照。
ジャンルわけに関しても、元ネタのダブルクロスがSF系統だからとしか言いようがない。