『生きてこい沈黙』発売記念ツアーその2
難波のタワーレコードでインストアライブがあった。巻上さん曰く「人生で3回目」
開場前に行ったら、誰も並んでいない。CDを購入して「サイン会参加券」をもらったのは、参加券を持っている人からの入場と書いてあったからもあるのだけれど、これでは関係ない。
こんな会話が聞こえた。
「ヒカシューか、懐かしいな」
「知ってるの」
「知ってるよ」
見るとおじさんと若い男なので、親子でもあるのだろうか。
カーテンの向こうから篳篥の音がする。リハをやっているようだった。チェックが終わって『イロハ模様』そして『テングリ返る』の前奏から、なぜか『ナルホド』を歌う巻上さん。「それいいね」とメンバーの声。キーボードの入りを確認する会話。
開場後、徐々に人が集まってきた。結局は昨夜の『コンパス』と同じくらいの客が入っていたような気がする。開演時刻丁度に係りの人から挨拶がある。拍手とともにメンバーが登場。巻上さんが何かを忘れて取りに帰る間に、即興演奏が始まる。巻上さんが戻ってきて挨拶。
「デビューして初めてのライブで、覚えてもらおうと思って連呼した」ということで、本日も曲間に必ずバンド名と曲名とメンバーで声を出していた。
説明を交えながら『静かなシャボテン』『マグマの隣』『イロハ模様』『テングリ返る』と、新曲を続けて演奏した。「大阪は大変なようで。ヒカシューにも関係がある。そのことを歌った曲を」と『ナルホド』昨夜に続いて乗りまくった。
電子ドラムだったのは利便性を考えてのことか、スポンサーだからか。演奏が始まると、こんな叩き方をするのかというほどすごい。シンセドラムでもこれほどの音が出るのだ。ドラムの佐藤さんは体調を崩しているとのことだったけれど、そんなことを感じさせない迫力だった。ソロも激しくて、メンバーが笑っていた。
翌朝起きると筋肉痛。これは、きのうの分ではなくて、おとといの分だろう。
今夜は京都ラグ。開場ギリギリについたので、リハの音は聞こえず。ここは、ワンドリンク・ワンフードで値段も少し高いのでちょっとお金がかかる。
テーブルがでかいので座りにくいけれど、いつもの最前席に座って音が激しく、それもまたよし。
きのうも説明していたけれど、逆柱いみりさんのジャケットの話。「手からシャボテンが生えているのは、この曲があるからです」
『静かなシャボテン』ギターとドラムの脱臼した轟音が心地よい。佐藤さんも体調が良くなったらしい。きのうまでもスゴイと感じたけれど、今夜はさらに強力だった。パワーだけでなく繊細さも感じる。
「箱根山がいまニュースですけれど、日本全体がマグマの上に立っているようなもので」
『マグマの隣』始めの二曲だけですでに観客はノリノリである。
巻上さんが尺八を持ってインプロヴィゼーションが始まる。
『アルタイ迷走』そのまま、ギターリフから『イロハ模様』コードはAm。途中のインプロヴィゼーションが盛り上がって、篳篥の音があまり聞こえないと思ったら、あとから篳篥ソロがあって、鋭い音を響かせた。
アルタイツアーのお話に続いて『テングリ返る』思っていたよりも間奏のギターが激しい。ドラムやピアノ、ベースにテルミンと相まって幻想的な世界に持っていかれる。脳幹が揺さぶられる。曲のあと「アルタイを感じましたか。感じませんよね」と巻上さんが仰ったけれど、行ったことのない私でも、凄まじい青空を感じられた。
「次どうしようか」
「ナルホド、ナルホドっ」と、三田さんが、言うのへ、その言い方が面白いと佐藤さんがウケる。今夜も内蔵が踊る『ナルホド』で、前半の終了となった。
後半は揺蕩うようなインプロヴィゼーションから始まり、『こんな人』スピーカに近いせいか酔うような感じだ。酒は一杯しか呑んでいないのに。揺れているのは私の頭だけではない。
ニワトリの鳴き真似が始まり、ヴォイスのインプロヴィゼーションが繰り広げられる。坂出さんはクロブタの玩具も。『にわとりとんだ』だ。
客の中に子どもが一人いて叫ぶ。巻上さんが「子ども向けの曲を」と三田さんに振ると、三田さんは困ったような顔をする。間、髪を容れず坂出さんがリフをたたき出す。
『ダメかな?!』いつもよりギターをフューチャーした感じで、延々と演奏した。
「そろそろ終り」とのヴォーカルへ「ダメダメ」とコーラス。「そろそろダメかな・・・いや最初からダメか」などとアドリヴに爆笑する。なんだろう。この、ギャグでもあるし音楽でもあるというその両方を成立させるものは。しかも今夜は手拍子まで起こって、演者と客が一体となっているのだ。巻上さんも演奏しながら「きょうはすごい」と三田さんを讃えている。
口琴のソロから静かなインプロヴィゼーションへ。一応曲名は『アルタイの口琴』としておく。横から見る恰好になったので、今夜は奏法がよく見えなかったけれど、なかなか真似ができない。特に「ブーン」という音が出せない。それだけではないけれど。七色のボロットが世界一だとしたら、巻上さんは日本一だろう。
ベースのリフから『ベトベト』が始まる。即興とメロディ部が緩やかに交差する曲だけれど、「大変」のところの中途半端にずらすところが特異で素晴らしい。「あれもこれ・どれもあれ」のコーラスが不気味でいい。この曲はいつ演奏してもそとのときの政権批判になるという不思議な曲だ。それだけ歌詞や曲に普遍性があるということでもあるだろう。ここでも三田さんのギターが炸裂していた。今夜は絶好調だ。誰かがソロをとると、別の誰かが合わせるような合わせないような感じで次のソロを響かせる。この辺の演奏スタイルはきっとあまり例のないものだ。アヴァンポップという言葉が当てはまるのは、もしかしたらこのバンドのことだけかもしれない。
「『ドロドロ』やろうか」との三田さんの声に「やろうか」と巻上さんも応じかけ、坂出さんも少しベースの弦を抑えたけれど、そこまでで「『うらごえ』はどう?」
『うらごえ』は三田さんが作ったのに苦手だという話をしていた。「楽しめるようになってきた」とのことで「カウント」
再び巻上さんが尺八を持って、インプロヴィゼーションが始まったかと思ったら「インドの山奥に・・・」とのヴォイスに呼応して、ベースのリフ。そして、全員での息のあったコーラス。
『シャカ』
そして次の曲名を告げる。
『入念』もうたまんないね。踊るしかない。
「次はラスト」といって、清水さんの顔を見る。清水さんがキーボードでメロディを弾き始める。最初「どっちだろう?」という感じでメンバーが待っているが、すぐにイントロが始まって『夕方のイエス、朝方のノー』爆発的な演奏と、涙なくして聴けない歌。もう終わりか。宴は終る。
アンコールは「デビュー曲をやります」もちろん『20世紀の終りに』だ。
「イヤヨ・イヤヨ」のヴォイスによるスタート。三田さんの怪鳥声。
人差し指を立てて呼応する客たち。
「ハイ! ハイ! ハイ!」