魔王夫妻
角が生えた。
やはり羊っぽい。
ある日頭に違和感があったので鏡で見るとちっこい角があった。
その頃、俺は二歳。
魔王としては遅すぎるらしい。
やっぱ邪神の封印がいけないのか?
ついでに尻尾も羽も生えた。
尻尾は黒くて艶々な鞭のようで先が刃物のように鋭利で固かった。
羽は例の蝙蝠の羽だ。
生えた翌日から服に羽穴があった。
これを見ていると本当に生まれ変わったんだなぁ…と思う。
今までも金髪だったり赤い目だったり生まれ変わった感はバリバリあったがここまでは思わなかった。
鏡で自分を見るのは朝の習慣だ。
単に角の成長具合を見ているだけだが、どことなく女子っぽくなっている気がする。
「カトレヤ様、お目覚めですか。こちらへどうぞ」
俺を呼ぶのはエレナだ。
それまでは飼育当番みたいに順番が決まっていたが俺の専属の侍女になってから起こしに来るのはエレナになった。
「うん、えれな、おはよう」
喋れるようになってから毎朝、このセリフを言うのだがいつも恥ずかしい。
きちんと呂律が回ってないし。
それとまだ知らない筈のことを口に出さないように気を使うから疲れる。
「はい、お召し物が…」
子供用の可愛らしいゴスロリドレス(羽穴付き)を着せられた。恥ずかしすぎる。
それでも鏡の前の俺は間違いなく可愛い悪魔っ娘(二歳)なのだ。
「お似合いですよ、カトレヤ様」
エレナがにこにこしている、この娘が見ているのは魔王の娘のカトレヤだ、しかし元ニート藤田健司が中身だ思うと騙しているようで少し罪悪感。
「ありがと、えれな」
そして恥ずかしさに悶えつつ、エレナと会話をしながら朝食を食べに部屋を出る。
魔王城は要塞っぽい。
中央に魔王の部屋とアイリスの部屋と俺の部屋、執務室(魔王とアイリスで別々だった、何故だ?)があり、東棟は主に武器庫や食糧庫など倉庫がある。
それと用途不明の塔があった。
捕虜収容所かと思ったが細過ぎる。
見張り台にしては窓が一つもない。
あとで何なのか聞いてみたい。
周りをぐるりと城壁が取り囲み、更に毒沼の掘と跳ね橋がある。
とはいえ跳ね橋は役に立たないだろう。
魔法があれば橋があろうとなかろうとさしてかわりはないからだ。
魔王城の料理はそれなりにまともだった。
少なくとも黒い塊とか紫の鍋とかは出なかった。
しかし、
「今日はクリスタルフィッシュを焼いて…」
それ美味しいの?
と思うときもある。
クリスタルのように透き通っている魚。
が、鮭っぽくて美味しかった。
食事はどんなに忙しい時でも家族で食べるのが魔王家のルールらしく今日も一緒だ。
「カトレヤは本当に大人しい、いい子だな」
本当にこれが魔王の発言でいいのだろうか?
「そうね、でも我が儘もいいなさい?」
我が儘か、やっぱり二歳児らしく“嫌!”とかいった方がまともな子供で二人も安心なのだろうか。
「何か欲しいものはあるか?」
「何でもいいのよ?」
親バカ魔王夫妻は気にしなさそうだが。
「……たとえば?」
特に欲しいものはない、あえていうならプレ●テが欲しいがそんなもの無い。
「じゃあ、今から謁見(といっても魔王夫妻がフレンドリーすぎて謁見っぽくない)があるからそのときの手土産で欲しいものがあったらいいなさい」
手土産か、なら困るような物はない…筈だ。
魔族の価値観は侮れない、前に三メートルはあるキノコ(美味しく頂きました)を貰っていたし。
「はい」
返答を“嫌!”にするか若干迷った。
クイズ
次回で主人公が運命的な出会いをはたします。相手はなんでしょう?
1 迷宮の奥地で発見されたナイフ
2 大人でも持てないほど大きな卵
3 お婿さん♡
4 作者の戯言
次回予告
開けてびっくり玉手箱