自称神様
俺、藤田健司はニートだ。
いつからかなんて覚えていない。
中学のころにはもう不登校だった。
理由の無いいじめを受けたからだ。
上履きを隠されたり、教科書に落書きをされたり。定番ネタは大抵やられた。
ああ、そう言えば課題のプリントに書いた答えを消された上に間違った答えを書かれ、提出されたこともあった。
手の込んだことをする。
結局のところ暇なのだ。
暇潰しにいじめる。
いじめられた奴は引きこもり、いじめた奴らはのうのうと生きる。
こんな世の中、嫌になる。
そんな事を考えながら近くのコンビニに向かう。
この辺りは大きな公園があるからか、子供が多い。公園から聞こえてくる、楽しそうな声にため息をついた。
あの子供も、どうせ……
突然、ピタリと声が途絶えた。
続いて叫び声。
何か、ヤバいことが起きている。
走って公園へ向かう。
そうしないといけない気がした。
公園には血まみれのナイフを握りしめた男がいた。人間だったものが辺りに散らばっている。生き残っているのはわずか三人。
子供二人と父親らしき男。父親はケータイで通報しているようだ。
「あは、死ねよ、死ね、あはははっ!」
ぞっとした。こいつは何かが違う。
それはそれは愉しそうにナイフを振り下ろす。もう死んでいるであろう女に。
身体を恐怖が縛った。
「あれぇ?まだいたよ。あは、死んじゃえ!」
こちらではなかった。あの三人の方。
殺人犯がナイフを構えて生き残っている子供に襲いかかる。
「やめろっ!」
考えるよりも先に体が動いた。
子供にかぶさり、ナイフから守る。
刺されるのと警察が来るのは同時だった。
「おい、しっかりしろ!」
何か喚いている奴がいる。
遠いどこかのことだ。
だんだん全てがぼんやりしてきて……
俺は死んだ。
………ハズだった。
気付いたら何もない真っ白な空間にいた。
ナイフが身体に刺さっているなんて事もない。というか身体がなかった。
幽霊みたいに透き通った俺がふよふよ浮いているようだ。
と、そこで何かが降りてくる。
人の形をしてはいるが白い羽が生えている。
『よし、ちょっとやばかったけど成功!ちゃんと人間を呼べてよかった。………あれ?もしかして今実体化してるのかな?見えてたりとか…するっぽいなぁ……、気を取り直して、ワタシが神様だよ。君、バイトしない?』
自称神様は威厳とかなかった。
薄いピンクの髪をツインテールにしていて、くりくりした赤い瞳は兎のようだ。
綺麗というより可愛い。
ランドセルが似合いそうだ。
“神様の羽根”とかいう名前だったら完璧。
『内容はワタシのだ…こほん、生まれ変わって世界を救ってほしい。給料は人生。やることは適宜説明する。』
はい?
生まれ変わる?
世界を救う?
俺はニートという立場が割と好きだった。
働きたくないし。
責任とか殆ど無いし。
だいたい、やっとあんな所から脱せたのにまた生きるなんてごめんだ。
『え?嫌なの?………こういう時、どうするんだっけ、マニュアルには……あ、だったら地獄行きね。何万年か鍋でぐつぐつされたくなかったらバイトしてよね。』
マニュアルってなんなんだ?
しかも、脅迫のマニュアルって。
『どうする?』
地獄は嫌だ。
『そいじゃ、行ってらっしゃい!』
だんだん全てがぼんやりとしてきた。
そういやこいつ、マジで神様なのかなぁ?
と考えている内に意識が消えた。
次回予告
目覚めたら魔王の娘でした。