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だから今日は、はんぶんこ。

作者: 秋月風空

 朝、僕はいつもと同じように目覚めた。ほとんどいつもと同じように目が覚めた。ただ一つ違うことは、おかしな夢を見たこと。突然、知らない老人が、

「お前は明日死ぬ。」

と言ってきたんだ。そんな、明日死ぬだなんて夢で言われても。僕は当然信じない。だけど、カーテンを開けて、窓を開くと、信じられないくらい綺麗で、透き通った青い空が見えた。僕は死ぬんだ、と思った。

 明日死ぬと分かっても、今日一日でやりたいことを全てやらなくちゃいけないと分かっても、すぐにコレをしようなんて思い浮かばない。僕は部屋の中をぐるぐる回りながら考える。

 

 そして―、彼女とデートに行くことにしたんだ。


 今まで僕の方からデートに誘うなんてことは一度もなかったものだから、ちょっと訝しげに、だけど、喜んで、OKしてくれた。場所は遊園地。ありふれてるかもしれないけど、これくらいしか思い浮かばなくて。小さい遊園地だから、みんながびっくりするような、そんなすごい物はないし、人もそんなに多いわけじゃない。コーヒーカップに、ジェットコースター、メリーゴーランド。ちょっと恥ずかしがりながら、結構絶叫しながら、それぞれのアトラクションを楽しんだんだ。

 それで、最後に観覧車。日もだんだん傾いていく。彼女が外を見る。その横顔を見て、こんなところにも、ほくろがあったんだな、とちょっと小さな発見をした。

「きれいだね。」

彼女のその言葉を聞いて、来てよかったなと思った。しっかりとその横顔を脳裏に焼き付けた。

 さっきのほくろじゃないけれど、振り返れば、気付いてあげられないこと、分かってあげられないこと、たくさんあったなぁ。


 そして―、僕らは帰路についた。


 海に沈んでいく太陽を見ながら二人並んで歩く。こおろぎの鳴き声が聞こえる。

「今日は楽しかった、ありがとう。」

これが、僕の最後の1日。楽しかったなぁ。

 僕の希望で、途中でコンビニに寄って買い物をした。彼女はオレンジジュース。僕も同じオレンジジュース、あと、アイスキャンディー。2つ木の棒が刺さっていて、中央でパキンと割れる奴だ。いつも、半分欲しがる彼女の前で両方とも食べるのが楽しみだった。だけど今日は、半分に割って彼女にあげる。オレンジジュース片手に彼女はそれを受け取り、

「ありがとう。でも、珍しいね。」

そう言った。僕は、もう一度夕日を見る。今日見たすべての景色を思い起こす。


 そして―、だから、今日ははんぶんこ。

ご覧頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] とてもしんみりとくる話でした。明日になったら本当に死んでしまうのか分からない、そんなところがいいでしょうね。 余韻が残る感じがとても好きです。 これからも頑張ってください。
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