苦悩、葛藤、後悔
俺は家族に対して散々迷惑を掛けてきた。
勉強ができなかった俺は体が丈夫で、そこそこ大きいこともあり、
レスラーになる道を歩んだ。肉体労働でしか食っていけなかった。
何とかメジャー団体に入団し、選手としてのキャリアを
コツコツと積んでいった。
決して若くないときに、中堅クラスの王座も獲得。
そして愛する奥さんができ、家庭も持つようになった。
このまま、団体最高位の王座への挑戦が現実味を帯びていたときだった。
興行中に受身の態勢が悪く怪我をし、
一年近く欠場してしまった。
メジャー団体だったから家族を養えていたが、負傷により、働けず
その間は奥さんのパートと団体から出る僅かな手当てで生活していた。
ようやく完治し、復帰できそうな矢先、悪い知らせが届いた。
最近のプロレス不人気からコスト削減のため、リストラされた。
失業した俺は仕方なく離婚せざるを得なかった。
それ以来、日雇いの土木関係の仕事をする傍ら、
インディー団体の興行に出向いている。
自分が生きるのがやっとで娘にプレゼントを買ってあげる余裕がない。
とても不甲斐無い毎日を過ごしている。
また最近は、自分の死期を薄々感じている。
呼吸が苦しくなったり、吐血することが多くなった。
数十年、体を痛めつけたツケがまわってきた。
鎮痛剤を一気に飲んだ。
俺はそのあと、今夜の相手と試合の大まかな組み立てを決め、
入場する準備に入った。