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まえがき

 君たちがこの日記を読むにあたり先ず断っておきたいのは、この物語はフィクションであり、 実際の人物、事件、団体には一切の関係を持たないということである。特に私に関しては断じてならない。あってはならないのである。とは言いつつもこの話は私が自衛隊に入り、前期教育にて経験した出来事を基にして作られた話であるから一概に一切関係ないとは言えないのが現状であり、また事実でもある。


 前期教育があるということはまた、後期教育も存在する。しかし後期教育に関してはこの話には出てこない。 なぜなら、後期教育では配属された部隊それぞれの教育となってしまい、共通性もなくなるし、 専門的な用語も多くなってくる。それに比べ前期教育は幹部候補生を除くほとんどの隊員たちが経験する内容であり、新隊員たちが必ず通る道でもある。従って自衛隊とはどのようなものなのだろうかと思っている方にはうってつけであるし、教育を経験した方にとっては共感出来る箇所の多いものでもある。その為前期教育を話題に取り上げた次第である。


 尚、今現在の日本の平和と独立を守る自衛隊の指名を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し心身をきたえ、技能をみがき、 政治的活動に関与せず、強い責任感をもって専心職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託に応えることを誓っており、それを見事厳守されている自衛官の方にはこの本はお勧め出来ない。 何故ならばこの物語の主人公たる私は自衛隊員たれども自堕落で、よくもここまでと 言いたくなる程捻くれていて凡そ世の中の為にならんような男であり、先に挙げたような非常にまじめな方が読んで しまっては怒り心頭に達すること間違いなし、もし電車内で読んでいたならば怒りに身を任せ暴れに暴れ 他のお客様方のご迷惑になること請け合いだからである。


 そんな訳でお勧め出来ない。もし自らを怒りに怒っても己を律する自信のある強者であるとするならば、 あるいは暴れた事後の責任を一切自己のものとし、この日記に、何よりこの日記の著者である私に責任を転嫁しないと 誓える方のみ是非とも次の頁を捲り日記を読み始めて欲しい。


 万一了承頂けない場合は速やかにブラウザの『戻る』を連打して頂きたい。



 私は東北の仙台にて産まれ、仙台にて育った生粋の仙台っ子である。 専門学校にて高校時代最も平均評定の高かった英語を専攻していたが 大したやる気も気概もなくただただ毎日をぐうたら自堕落に過ごしていた訳で、 そんな私が就職活動に難航したのは言うまでもないだろう。


 現代日本にて大きな社会問題となっているのは第一に、ヒートアイランド現象、 第二に夫婦のマンネリ化、そして第三には就職難であると私は思う。かく言う私の姉も専門学校を出てから三ヶ月、就職がなかなか決まらずアルバイトで生計を立てていた。 私は贅沢は言わない謙虚な人間であった。その為、就職活動の『一環』として自衛隊も受験する気でいた。 何も馬鹿にしている訳ではない。防人として国防の一翼を担うのも悪くないと思ってこそである。その旨を長年私を支えてきてくれた両親に話すと、


「あんたじゃ無理」


 と一蹴された。「お前のようにかくも軟弱であまのじゃくなド阿呆に、あんな厳しい職業は絶対に不可能だ」、 とまでは言わなかったが明らかにそう言いたげな表情を浮かべていた。 しかしそれでも就職しないよりはマシだと考えたのか自衛隊の試験に関してアドバイスを私に託した。


「足し算さえ出来れば合格出来る」


 この助言を信じ何の参考書も開かぬまま試験に望んだ私は筋金入りの阿呆であった。 尚足し算さえ出来れば受かるという時代も少し前はあったようだが今となっては昔の話、 マンモスですら生き残れない就職氷河期にそんなに容易く仕事にありつけるはずがない。


 私は筋金入りの阿呆だった為、試験の用紙を開いて仰天した。


「に、二次関数だと……ッ!!?」


 サイン・コサイン・タンジェントとか、y=x2-3だとか、 そんな複雑怪奇な問題は高校の卒業時に全て段ボール箱に仕舞い込み、 友人達の間で『混沌』と呼ばれ畏れられているクローゼットの中に追放して久しい。 よって四択問題であった試験を己の勘と天命に任せたのは言うまでもない。君たちも将来入隊を考えているのであればせめて参考書くらいは購入しておくといい。


 さて、万事神頼み、運頼みとなった私であったが運命のイタズラとは大変なことを してしまうものである。私は秋の公務員試験を目指し、 春の自衛隊試験にて腕試しする大学生たちを見事蹴散らし 奇跡的に一次試験をパスすることに成功したのである。こうなるともう何の因果かは知らないがさらに厳しくなる筈の二次試験 もあっさりパスし糸も簡単に合格を決めてしまったのだ。


 異口同音、友人達も両親と同じく私には自衛官など務まらんと 口を揃えたが元々身体を動かすことが好きで、もし 『爽やかな汗の似合う男児選手権』なるものがあるのであれば流石に一位はないとしても、 かなり良いところまで行ける自信が当時の私にはあった。その為、


「運動して給料貰えるならそれで良いや」


 と自衛隊を恐るべき楽観視をしていた。早めに結末を話して大変申し訳ないが 私は入ったことをすぐさま後悔したのである。 ちなみにこれは後から聞いた話であるが、 親しい友人たちは私が何日で自衛隊を辞めるのか賭けをしていたようで、 『一週間以内に辞める』にほとんどの友人が賭けていたそうである。


 全く、不謹慎極まりない連中だ。

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