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僕らの戦いはまだまだ続く

作者: 猫宮蒼
掲載日:2026/06/04

 SFとファンタジーごちゃ混ぜミックス風。



 準備運動。それからグラウンドを周回。


 それだけでもかったるいのに、今日はよりにもよって実践訓練まである。


 剣、槍、弓といった武器の扱いだけではない。

 時と場合によっては武器を使えない場所での戦闘も想定されているので、徒手空拳は当たり前のように身につけなければならないものの一つだ。銃の扱いも、小型拳銃だけで終わらずマシンガンやアサルトライフル、スナイパーライフルなんて多岐にわたる。


「まぁじかったるいんだけど」

「ほんとそれなー」


 クラスのギャルも、ガムを噛みながらテンション低く愚痴ってはいるけれど、しかし授業をサボるわけにもいかない。何故なら命がかかっているから。


「てかさぁ、こないだの学外学習? あれで郷土館行ったじゃん」

「あーね」

「西暦二千年代がマジで天国に見えたんだけど」

「当時は当時で大変な事もあったんだろうけど、でも今と比べたら楽に思えるよね~」

「マジでそれ」


 少し前を走っているギャルたちの会話は嫌でも耳に入ってくる。

 なのでつい内心で「ホントにそう」と頷いてしまった。


 西暦二千年を少しばかり過ぎた頃。

 世界は嫌でも変革するしかなくなってしまった。


 異世界の存在が明らかになったのである。


 当時は異世界ネタが流行していたのもあって異世界の存在はある年齢層にはあっさりと受け入れられたものの、だからといって全てを擁護できるわけではない。


 異世界からの侵略、であれば話はわかりやすかったが、当時流行の異世界ネタの一つ、異世界召喚というものが多発したのである。


 国も人種も関係なく異世界へ召喚され、地球に住む人間たちは異世界からの拉致被害に見舞われる事となってしまった。

 帰ってこれない者もいれば、帰ってこれた者もいた。


 いくつもある異世界からどうやら地球は勇者或いは聖女の住む世界、とみなされているらしく、召喚された先では大抵世界を救う事を求められた。


 中には漫画やラノベの世界の典型キタコレ! とノリノリで向こうの要求に従った者もいたけれど、皆が皆そうというわけではない。

 地球は国も人種も関係なく、早急に異世界対策を打ち出す必要に追われた。



 そこからは、苦難の連続であったという。


 そこら辺も学校の歴史の授業で習いはしたけれど、学生たちにとってそこは重要ではなかった。

 歴史というのは繰り返すものと言われ、過去の過ちなどを繰り返さないよう学ぶ必要があると言われているが、そう何度も異世界からの拉致を繰り返させてたまるか、というのが生徒たちの考えである。


 拉致召喚そのものはなくならなかったとしても、既に異世界が実在するという事実は明らかになっているので、今更新たな異世界からちょっかいをかけられたところで、当時のような恐慌には陥らないだろう。


 生徒たちにとって歴史の授業はあくまでも他の授業の箸休め扱いであった。


 異世界の存在なんて知らなかったもっと昔の時代にロマンすら感じる程だ。

 異世界の存在がファンタジーであった時代は終わり、むしろ異世界の存在など未知であった過去の方にロマンを感じる始末である。


 異世界もむしろ戦国武将が存在している頃に召喚とかしとけばよかったのに……なんて思う者もいたがそれはさておき。


 歴史の授業は箸休め。

 それ以外の授業は正直いってかったるいことこの上なかった。


 国語。これはまぁ仕方ない。

 数学。これもまぁ、仕方ない。

 理科。化学に科学、その他諸々ひっくるめたせいで、学生時代に学ぶ範囲がとても増えた。でも必要な知識なので生徒たちはしぶしぶ覚えるしかないのだ。

 社会。政治経済やら歴史、地理といったものだけではなく、そこに交渉術というものも含まれるようになってしまった。

 技術家庭科。必須スキルだ。

 体育。地獄である。


 国語や数学は昔と比べて授業内容や学ぶ量もそこまで大きく変わったりはしていないようだが、それ以外の授業は内容も濃くなり更には学ぶ量も増えてしまった。


 昔は他国の言語を学ぶ授業もあったらしいが、生憎今のご時世翻訳機が開発されている。

 耳に装着するだけで自動的に地球の言語は全て自分が知る言語に変換され翻訳されるし、イヤホンと繋がるインカムによって自分の発した言葉は翻訳機を持たない者にも理解できる言語に変換される。


 異世界の言語全てに対応はしていないが、基本的に異世界召喚された場合向こうの言葉が理解できるよう、召喚魔法に組み込まれているとの事なのでそこの対応は未だ未実装だ。


 そもそも異世界と一言で言っても大量に存在しているので。


 というか、ただでさえ授業内容が増えに増えているので、他国の言語を学ぶ時間は翻訳機に頼る事にして削るしかなかった、とも言う。

 趣味で学ぶ者はいるが、それも極わずかだ。


 異世界の倫理観基準になってしまうと、こちらの世界に戻ってきた時軽率に犯罪者になりかねない。

 故に社会科の授業には各国の法律が組み込まれてしまったし、そのせいで授業内容は驚く程濃密になった。


 理科の授業は実験も勿論、サバイバル技術を学ぶ事にまでなってしまった。

 体育はバレーやサッカー、バスケなどの球技どころか武器を持っての訓練となってしまった。技術家庭科の授業で覚えたサバイバル技術を実践する事だってある。その他薬学など、一体何を目指しているのだろうという程に学びの終わりは見えなかった。


 異世界にいつ召喚されても大丈夫なように、各々生き残るためのスキルを学ぶ事が義務付けられたのだ。


 西暦二千年代の頃の学生と比べると、あまりにも不自由。


 その頃の学生も塾を掛け持ちだとか、休む間がない、なんて言われていたようだが、しかし今の時代の生徒たちは学校に通学なんて時間すら惜しい。

 小中高一貫の寮生活。たまの休みに家に帰り、家族と関わる。

 通学にかける時間は授業に回されるか、睡眠時間に変えられるかだ。


 当時流行ジャンルとして楽しまれていた異世界は、今のご時世ではいらん面倒事を持ってきやがってよぉ……という恨みの対象になってしまっている。


 当時異世界でのんびりスローライフしてぇなぁ、とか現実逃避のようにそういったジャンルを楽しんでいた者たちに言ってやりたい。

 おら、お望みの異世界だぞと。

 多分誰かしらのご先祖にいるのではないだろうか。望みが嫌な方向に叶ってねぇどんな気持ち?

 私は異世界に行きたくないからお前が代わりに行ってこい、とも。


 昔の学生と比べると、今の学生たちは当時のアスリートを余裕で超える身体能力を身につけている。

 そうじゃないと異世界にもし召喚されても生き残れないのだ。


(あー、マジ昔の学生うらやまー。授業終わった後家に帰って自室でごろごろ漫画読んだりゲームしたりって自由時間があるってだけで羨ましい。

 当時の軍隊よりもかっちりしてるってどういう事よ)


 前を行くギャルを追い越すに追い越せないまま、会話を流し聞きながら内心で同じように愚痴る。


 陰キャも陽キャも関係なく、皆一定の水準が求められる。

 できない、なんて泣き言は通用しない。やるしかないのだ。

 できないまま、その状態で異世界に召喚された時点で死亡確定。

 流石に死にたくはないので皆泣こうが喚こうが訓練が厳しくて吐こうが足掻くしかないのである。


 過去、異世界をこちらの植民地にできないかと考えた者もいたようだが、普通にコスパが悪すぎて断念した。そうでなくとも、地球にない物質や力を持っている相手を従えたとして、こちらに転用できればいいがそうでない場合労働力とするのも手間がかかりすぎる。


 従順に従うならともかく、植民地化された以上黙って従うはずもない。

 それでなくとも異世界に召喚され地球の人口は減る一方だというのに、そこで余計な争いを起こすような愚策はどの国もおこせなかった。

 異世界からの侵略行為とみなして打って出ようにも、同じ地球にある国と違って文字通り異世界なので進軍も気軽にできないという始末。


 召喚された先で無事に事をなして帰ってこれればいいが、そうじゃない場合もある。

 過去、同じ世界に召喚された者が複数いて、一部は帰ってこれたが一部は帰れなかった、という事もあるせいで、侵略行為に対して報復をするどころか、まずは召喚された先から確実に帰る方法を作る事が優先された。


 結果として作られた転移装置は見知らぬ異世界にこちらが行くのは不可能でも、元いた世界に帰る、というのならどうにかなった……という代物で。

 翻訳機同様、全ての者が身につける事を義務付けられていた。人目につかないよう隠し持つ者が多い。


 これは異世界に召喚された際、価値のある物と思われて奪われないためだった。


 転移装置が起動するにあたり、地球へのパスをつなぐ必要があるので召喚されてすぐ帰る事はできないが、それでもある程度時間をかければ地球への道は開かれる。

 だからこそ、昔と比べて召喚されてももう帰れないんだ……と絶望する事はなくなったが、だから召喚されていいというわけでもない。

 異世界が余計なちょっかいをかけてこなければ、自分たちはこんな面倒な授業を受けなくて済んだはずなので。


 昔は一時期若者の学力低下がニュースにもなっていたようだが、今はその逆。

 学力が向上したのは良い事なのかもしれないが、結果として小学生になった時点から圧倒的な量の詰め込み教育がされるのだ。結果として自由が減った。


 博物館などで、昔の人たちの暮らしなどがデータに残されていて映像で見れるが、今と比べて自由時間を楽しむ余裕があったのだけが羨ましかった。当時は当時で色々と大変な事があったというが、それでも今の者からすればそんなものは些細な事に思えてくる。

 なんだったら当時も色々と言われていたブラック企業も今の学生たちからするとマシに見えてくるのだ。

 嫌な上司? でも同じ世界に住んでるから同じ法律で対処できるじゃん?

 異世界だと常識がまず通用しなかったりするし、言葉が通じたとしても話が通じないしなんだったら暴力で解決しないといけない場合があるし。


 まぁそこら辺異世界だろうとこの世界だろうと大差ないかもしれないけど、手間は明らかに異世界の方にある。


 学生たちは何も異世界を救うために訓練をしているわけではない。

 異世界に召喚された後、転移装置が故郷へ返してくれるまでの時間を生き延びるためだ。


 何せ世界を渡るのだから、転移装置のエネルギーが充填されるまで時間がかかるのは当然の事。

 この世界から遠すぎる世界だと、その分エネルギーが溜まるまで時間がかかるのは言うまでもない。

 その間に、従順な振りをして世界を救うとみせかけつつ時間を稼ぐのだ。

 それより先に魔王だの元凶を倒してしまう事もあるけれど、その後返してくれるか、となるとそれは世界によるとしか言えないわけで。


 迷惑だから今後はもう呼ばないでね、で素直に頷いてくれればいいが、性懲りもなく呼ぶ世界もあるのだ。


「あー、ホントさっさと召喚してくる世界ぶち滅べって感じなんですけど」

「マジそれ。学校帰りにクレープ食べるとかそんな青春すらウチらにはないもんね」

「寮生活だしまず学校から帰る前に友達と遊ぶっていうイベントすらない」

「青春どこいった」

「そこになければないっしょマジ異世界絶許」


 ホントそれなー、とやっぱり少し後ろで頷きながら、まだ見ぬ異世界に恨みを向ける。


 ありとあらゆる人の身体能力が向上したことで、犯罪も増えるかと思われたがそうはならなかった。それなら異世界で暴れた方がマシだろうと思ったのかもしれない。

 もしかしたら一部召喚されて帰ってこない者は、あちらの世界で犯罪に手を染めて、その上で上手くやっているから帰ってこないのではなかろうか。

 数年前にそこそこの規模のマフィアが消えた、というニュースがやっていたが、もしかしたらそのマフィアは異世界を乗っ取ってしまったのかもしれない。もしそうなら、彼らは地球に戻ってくるだろうか?

 自分たちの好きにできる世界を手に入れたのであれば、戻ってこないかもしれない。

 もし本当にそうだとして、いつか、その世界の住人が新たに勇者を求めてまたこちらの世界から誰かを召喚するのかも。


 そんな風に考えながらも、ま、流石に同じ失敗を繰り返したりはしないと思いたいなと楽観的に考える。


「そういやさ、なんかニュースでやってたけど」

「え、ニュースとか見てんの? 真面目」

「占いコーナー見ようとしただけだし。

 で、なんか近々今まで召喚してきた世界の位置割り出せたっぽいから、一部の世界どうにかするって」

「あー、なんか見た。転移装置で帰ってきた人の装置のデータ解析したとかで割り出そうとかなんとか」

「そうそうそれ。難航してたけどいくつかはどこにあるのか割り出せたっぽいよ」

「へー。誘拐犯どもの世界に鉄槌を下す感じ?」

「それ。なんか連合国あたりが張り切ってるって」

「あぁ、正義の鉄槌」

「好きだよねそういうの」

「賠償金とかそっちは?」

「異世界の物質下手にこっちに持ち込んでヤバイ事になったら困るから、安全が確認されない限りは無理でしょ。あと向こうの金銭がこっちで使えるわけもなく」

「それもそっか。金銀宝石あたりはともかく、それ以外だとなんだろね?」

「バイオ燃料になりそうな物とか?」

「ウチら向こうの世界に召喚された時場合によっては魔法使えるようになるのにここじゃ絶対使えないもんね」

「そ、だからあんま魔法エネルギー的な物はあっても意味ないって」

「今後の研究次第か……」


「もうマジさっさと異世界滅んでくんねーかな」

「召喚してこないとこは無害だから許すけど」

「そもそも召喚した事ない世界ならこっちが存在を把握できてないんだから、無いも同然っしょ」


 言えてる、と笑いながら速度を上げていく。

 声は遠ざかって、聞こえなくなった。


「おっすー」

 と、思えば今度は背後から追い付いてきたのか、クラス委員長に肩を叩かれる。

「朝から元気だよね、だるいって言ってるわりに」


 委員長は目で今しがた前にいたギャルたちを指して、微笑ましいとばかりに笑う。


「いつ召喚されるかわからない以上、愚痴る気持ちは理解できるよ」

「召喚前にアレだと、実際召喚された後どうなっちゃうんだろうね?」

「さぁ?」

「で、きみは?」


「…………」


「三日前に帰って来たばっかりでしょ? どんな所だった?」


「……ロクでもない所だったよ」

「そっか。お疲れ」

「こっちで学んだことが役に立った。じゃなかったら大変だったよ」

「無事でよかった。きみが召喚された後大変だったんだからね。なっちゃんとか暴れて手が付けられなかったし」

「そのなつきは?」

「先月召喚された。多分きみが召喚された事の怒りとか恨み辛みもそっちの世界で発散してるかも」

「とばっちりでしょ」

「でも、召喚しなきゃそうならなかったよ。召喚する人選ミスった異世界が悪い」

「それはそう」


 自分が召喚された異世界となつきが召喚されたところはきっと別だけど、擁護するつもりはないし同情もしない。


「異世界撲滅作戦が実行されるまでには戻ってくるといいんだけど」

「戻ってきて早々その作戦に立候補しそう」

「それはそう」


 召喚されて、勇者だの聖女だのと呼ばれて世界を助けて、と言われても、何故、という気持ちにしかならなかった。今の今まで自分とは一切関わりのないところ。同じ世界ですらない、見知らぬ世界。

 助ける振りをして滅ぼしてやろうと思った事もあるけれど、転移装置で帰れるようになる前に滅ぼしてしまえばその後困るのは自分だ。エネルギーが溜まってから破壊しつくして帰ってやろうかとも思ったけれど。


 それは意味がないと判断した。


 たまたま召喚した相手がそうだっただけ、と思われるのが癪だったからだ。


 だからいつか。


 私たちを召喚した世界には、世界単位で報復に動く。


 その作戦に参加するためには、更に強くならないといけないだろうけれど。


「目標があるのっていい事だよね」

「え? うん、それはそう」


 私の言葉の意味をマトモに理解できていないながらも頷いた委員長に、私は満面の笑みを浮かべてみせた。


「あ、思った以上にブチ切れてらぁ……」


 そんな私の笑みを見てそんな風に言う委員長に、失礼な、と返す。


 それから二人揃って示し合わせたみたいに声をあげて笑ってしまって、教官に注意されたけど。

 変なツボに入ったみたいで笑いはなかなか引いてくれなかった。

 俺たちの戦いはこれからだ! 完!!

 この後は異世界側目線でのパニックホラーみたいな展開が待ってそうな感じだなぁ、と。


 次回短編予告

 穢れを浄化するために聖女が召喚された。

 聖女は役目を果たし、聖女に恋をした王子は今後の未来に期待を馳せた――が、しかし聖女の姿は忽然と消える。


 次回 自作自演! 聖女召喚!!

 真実を明かせない聖女の本当の姿は――

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