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壮大な世界の物語~絶望の果てで、少年は勇者になる~  作者: おう


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第一章四話『ユダVSフェリス』

 


 迎えた訓練最終日。

 ユダが訓練場に着くと、常世ではなくフェリスが立っていた。


 「よぉ! ユダ!」

 「何でここにいるんだよ!」


 フェリスが口ごもる。

 そこへ、遅れて常世が現れた。


 「君たち二人に戦ってもらうためだ」

 「ちょっ! 常世隊長、それ言わないでくださいよ!!」


 フェリスが慌てて手を振るが、常世は淡々と続ける。


 「女子隊員関連の不適切行為か。……隠せたつもりはなかったようだ」

 「うぎゃぁぁぁ!! 俺の出世街道がぁぁ!!」


 フェリスが地面に崩れ落ちる。ユダは心の中で毒づいた。


 (もともとないだろ……)


 すぐに立ち上がったフェリスは、開き直った笑顔で言った。


 「実は食堂の食材盗み食いがバレてな。罰金払えないから、ユダに勝てば常世隊長が出してくれるって話で!」

 「女関係で金溶かしたんだろ?」

 「うるせぇ!!」


 不意打ちのパンチが飛んできた。ユダは魔力で防いだが、頬が切れた。

 常世が間に入る。


 「フェリス君。やり過ぎだ。……これ以上の雑談は無用だ。戦いで決着をつけろ」


 フェリスだけ褒美があるのは不平等だと常世が付け加える。


 「ユダ君が勝てば、今の剣を譲ろう」


 ユダの目が輝いた。


 「全力でこい、フェリス。叩き潰してやる!」




 ── ── ──




 剣光と剣光が激しくぶつかり、鋭い音が訓練場に響く。──カンカン!!と、戦場に立ったことがあるものなら聞きなれた音だが、そう言った経験をしたことがないユダには、どこか不快感を覚える音だ。


 「オラオラ!!そんなもんかユダ!」


 縦横無尽に剣を振り続けるフェリスに対し、ユダは防戦を強いられる。ユダは剣を横に縦にと動かして、何とか対応していく。


 しかし完全には防げずに徐々に血液が、緊迫感や焦燥感から汗が体に流れるようになっていく。


 「──ッ!」


 一撃一撃が重い。

 一撃を受ける度に、衝撃が全身に回る。


 (流石は列剣流の剣士!!)


 剣術には三つの流派がある。『列剣流』、『刀剣流』、『俊剣流』。


 『列剣流』は力強い剣技を

 『刀剣流』は受け流しなどの剣技を

 『俊剣流』は素早い剣技を得意にしている。


 ユダが『刀剣流』、フェリスが『列剣流』の剣士だ。また友人の一人のアルスは『俊剣流』の剣士である。

  

「おらおら!」


 勝負はフェリスが優勢に進んでいる。フェリスの長年の経験による力が、ユダを防戦一方にさせて傷を増やすのだ。


 「これが女がいるユダへの恨みだ!」


 汗をにじませるユダとは対照的に、フェリスは焦りの汗すらかかず、軽快にそして軽妙に剣筋をユダにぶつける。


 僅かに生まれた隙。それをフェリスは見逃さず、ユダの横腹に向かって強烈な一撃が叩き込めれる。


 「ぐっ!!」


 ユダは後ろに大きく押し込まれた。


 「はっ!! 良かったのは威勢だけか!?」


 喉の奥が鉄の味がして、剣を握る手の感覚が麻痺していた。


 (使うか!? 能力を!)


 『能力』。


 それは魂ではなく肉体に宿っている術。人族の一部の人間だけが持つものだ。魔力消費により発動できるそれは、個人によってその詳細は異なる。


 「っ!」


 (出し惜しみをして勝てる訳が無い!! どこかで賭けに出てないと!! そしてそれが今なんだ!! だから...ここで使う!!)


 刹那の思考の末、ユダは能力の使用を決めた。

 はっきり言ってここからは未知数である。ユダはこの訓練間、能力に関するものは一切行っていなかった。


 体に宿っているだけあって能力の使用自体は比較的簡単だ。いつもやっている魔力を強化したい部位に集中させる要領。

 準備完了すると、ユダは震える喉をかっと飛ばしてその名前を叫ぶ。


 「転移!!」


 『転移』、ユダの有する能力だ。その名の通り『転移する』だけの能力。ユダはその能力の裏にある厳しい条件などは知らないが、今この場では戦況を大きくひっくり返すことになる。


 視界が歪んだ。 次の瞬間、ユダの目の前にあったのはフェリスの背中だった。


 「なっ――!?」


  フェリスの驚愕が、空気の震えで伝わってくる。空振りしたフェリスの体勢が、大きく崩れた。


 (あの一撃をもう一度!!)


 心臓が早鐘を打つ。魔力が急速に枯渇し、意識が遠のきかけるが、無理やり踏みとどまった。 常世との特訓で磨いた、一瞬の踏み込み。青い魔力の光が木剣に宿る。 


 「──いけぇぇ!!!」


 『勇者』の力が宿った一撃がフェリスを襲った。




 ── ── ──

 



 「──ぁ」

 

 フェリスには何が起きたのかを抽象的だが理解した。こう言った理由がわからない状況、それを生み出すのは『能力』であることを長年の経験から推察できた。本来のフェリスなら『能力』の使用は見逃さない。                

 しかしユダを格下とみなして力を抜いていたために、能力を使われ勝負に負けかけている。

 自身の慢心が産んだ状況とはいえ、認めざるを得なかった。目の前の男──ユダを好敵手として認めることを。


 「ユダァァァァ!!」

 

 自身に敗北という事実を与えた男の名前を、一剣士として尊敬に値する剣士の名を叫ぶフェリス。その姿をしっかりと目に焼き付けて、ユダは斬りつける。


 「ぐはぁ!」

 

 木剣と言えど威力は高く、腹部を斬りつけられたフェリスは悲鳴をあげて地面に倒れる。それを見たユダは──、

 

 「…ハァハァ、俺の勝ちだ。フェリス」

 

 息を荒くしながらユダは、地に伏し倒れたフェリスに自身の勝利を告げる。


 「悔しいが俺様の負けだ!」

 

 立ち上がったフェリスはユダに握手を求めて手を差し出す。それにユダは瞬時に応え、その手を深く握った。


 「勝者はユダ君だ。おめでとう」

 「ありがとうございます!! 常世隊長!!」

 「ああ。これで名実ともにその剣は君のものだ。大切に扱ってくれ」

 

 常世はユダの持つ剣へ目線を向けた。これは自分のものだと、急激に実感が湧いて自然と口角が上がる。

 

 「次は俺が勝つからな!」

 「上等だ。今度も勝ってやる!」


 常世がその約束の見届け人となりながら、ユダとフェリスは再戦を約束した熱い握手を交わした。

 ──こうして訓練最終日、盗み食いのフェリスとの戦いはユダの勝利で幕を下ろした。



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