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壮大な世界の物語~絶望の果てで、少年は勇者になる~  作者: おう
出雲遠征編

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第二章五話『遠征⑤』

 

 「……リンは彼女じゃないって、何度言えばいいんだ」

 

 食堂の隅で、ユダは力なくスープを啜りながら呟いた。周囲からは「お、エロ本勇者のお出ましだぜ」「遠征が控えているのに元気だなぁ」といった、心ない激励が飛んでくる。


 昨日の一件は、またたく間にギルド中に広まっていた。


 「みんなから注目されているんだ!! 最高じゃないか!!」     

 「注目される方向性が最悪なんだよ……。フェリス許してないからな!! それよりアルス、フェリス、準備はいいのか? 明日にはもう、出発式だぞ」

「あたりめーよ!! 武器の手入れにお菓子!! 完璧だ!!」


 (お菓子って、遠足じゃないんだから…)


 あまりのフェリスの能天気具合に呆れる。だが今は彼のバカっぷりが羨ましかった。


 「ユダ。フェリスを見習えってわけじゃないけど、少し緊張をほぐした方が良い。最近、食事が喉を通っていないだろう」

 

 (痛いところをついてくるなぁ…)


 ユダは緊張し、恐怖していた。

 なぜなら、ユダは出雲遠征で大罪教と絶対に戦うことになっていると確信しているから。なんせ大罪教はユダと同じ権能者である『大罪者』を信仰し、テロや犯罪行為を平然と行い人の命を奪うのだ。


 「出雲に行くのにも、船に乗るためにアアル王国の最東のサウスン港の方に行くんだ。このままユダだと出雲につくまでに限界を迎えそうだ」


 「お前、それじゃ出雲の旨い飯を食う前にぶっ倒れちまうぞ! それだけは許さねぇ!」


 フェリスも同調して一言。


 「そうだな! いただきます!!」


 ようやく食欲が回復し、ユダはご飯をお腹いっぱいになるまで食べるのだった。そしてユダ達ギルドは出雲遠征出発当日を迎える。

 



 ── ── ──




 出雲遠征の出発式はギルド本部で静かに行われた。 

 本来であれば王城の広場で盛大に行われるはずだった出発式。しかし、機密保持と大罪教への奇襲性を考慮し、第一部隊の精鋭22名とギルドマスター、そして国王からの特使数名。

 使者牽護衛対象であるアアル王国外務大臣レオンハルト・セレジアが参列する厳かな儀式へと変更されていた。


 「――これより、出雲遠征軍の出発を宣言する」


 アルデバランの低く、重みのある声が訓練場に響き渡った。  

 整列する隊員たちの顔つきは、昨日の喧騒が嘘のように引き締まっている。ユダもまた、慣れ親しんだギルドの制服に身を包み、腰には常世からもらった剣がかけられていた。


 「今回の任務は、アアル王国と出雲を繋ぐ希望の懸け橋となること。そして、我々の日常を脅かす闇を払うことにある。各員、己の誇りにかけて、必ずや生きてこの地を踏め」


 アルデバランの視線が一瞬、ユダと常世の上を通り過ぎた。そこには、言葉にできない複雑な感情が入り混じっているように見えた。


 「さて俺の言葉はここまでにして、外務大臣レオンハルト・セレジアにお言葉を頂戴しよう」


 そうアルデバランが言って、壇上に上がったのはアルデバランが紹介した外務大臣だった。

 アアル王国の傑物の登場にユダ達の身が改めて引き締まる。

 レオンハルト・セレジア。現国王の右腕とも称されるその男は、燃えるような紅い髪を後ろに束ね、鋭い双眸で隊員たちを射抜いた。その身に纏うのは、一分の隙もない漆黒の官服だ。彼は壇上の中心に立つと、マイクなどの魔法具を使うこともなく、よく通る声で紡ぎ始めた


 「諸君、顔を上げよ」


 レオンハルトの第一声は、風を切るような鋭さを持っていた。訓練場の冷たい空気が、彼の言葉一つでさらに研ぎ澄まされる。


 「この遠征は、単なる外交ではない。ましてや、新天地を巡る物見遊山でもない。これは『生存』を賭けた戦いである。東の果て、出雲の地にて我らを待ち受けるのは、未知なる恩恵か、あるいは喉元を食い破らんとする大罪の牙か」


 彼はゆっくりと歩を進め、最前列に並ぶユダたちの前で足を止めた。至近距離で浴びるその重圧感に、ユダは思わず息を呑む。レオンハルトの瞳は、まるで心の奥底にある「恐怖」そのものを検分しているかのようだった。


 「法と秩序を嘲笑い、人の尊厳を蹂躙する大罪教。奴らは影に潜み、我らが足元を掬う機会を虎視眈々と狙っている。だが、銘記せよ。貴公らが背負っているのは、アアル王国の国旗だけではない。この国に暮らす、名もなき民の平穏そのものだ」


 レオンハルトは拳を胸に当て、一際強く声を張り上げた。


 「剣を振るう腕が震えるなら、背後の家族を思い出せ。心が折れそうならば、隣に立つ戦友の顔を見ろ。我々は、決して貴公らを見捨てない。このレオンハルト・セレジアが、全権を以て貴公らの路を拓くことをここに誓おう」


 短い、だが鋼のような意志を感じさせる演説だった。 壇上から降りる彼のマントが翻る音さえ、進軍の合図のように聞こえた。


 「……以上だ。ギルドマスター、あとは任せる」

 「はっ。――総員、敬礼!!」


 アルデバランの怒号に近い号令と共に、22名の精鋭が完璧な動作で拳を捧げた。


 「これよりサウスン港へ向けて進軍を開始する! 第一部隊、前へ!!」


 重厚な正門が、重々しい音を立てて開き始める。その先には、まだ見ぬ海と、避けることのできない戦いが待っている。

 ユダは腰の剣の柄を強く握りしめた。常世から託されたこの剣の重みが、今は不思議と、自分を地面に繋ぎ止めてくれる錨のように感じられた。


 「行くぞ、ユダ。遅れるなよ!」


  フェリスがいつもの調子で肩を叩いてくる。


 「分かってる……。行こう、アルス、フェリス!」


 朝日を背に受け、ユダたちの長い旅路が今、静かに、しかし確かな一歩と共に始まった。


 ──出雲遠征開始

 


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