第二章第三話『遠征③』
「何かあったのなら僕たちに話してくれ。きっとユダの力になれるから」
アルスはユダの方を振り向かず、ただ力になってあげれると言ってくれた。
アルスの気遣いに温かみを感じたユダ。
後は心地のよい曲調の曲を流せばムードとしては完璧な、何ともいい感じな雰囲気が流れていると、突如としてフェリスが走り出した。
「おいどうしたフェリス!!」
「女の子が助ける求める声が聞こえた!! 助けにいかないといけねぇ!!」
遂にフェリスが完全におかしくなってしまったと、そう思った次の瞬間、声が響いた。
「だ、誰かぁ!! 助けてぇ!!」
(マジかよフェリス、遂に未来予知でも覚えたか・・・!?)
ユダの驚愕は長くなく、考えるよりも早くユダは足を動かしていた。
ギルドの隊員として誰かの悲鳴を聞いた以上、見て見ぬふりをすることは到底できない。
ユダは友人と共に人波の中を走り出した。
「方向的には裏路地か!!」
緊急の事案ということが伝わったのか、周囲にいた人たちはユダ達のために道を開けていてくれていた。ギルドの隊服のお陰である。
ユダは声の方向、そして頭の中に入っている王都の地図を照らし合わせて裏路地の方だと断定した。
「──っ!!」
王都の裏路地はお世辞にも治安がいいとは言えない。裏路地のさらに向こう側、貧民街と呼ばれる場所はギルドの警備が行き届いていない。
警備が行き届いていない以上、悪の住処になっており、また職を失った浮浪者や捨て子などが多くいる。
しかしギルドとてこの惨事を黙認しているわけではない。国と協力して仕事がない物に仕事を与える支援制度や孤児院への支援。そういったことをして状況を改善しようと取り組んでいる。──しかし、
「おい何やってんだ!!」
人はそう簡単には変わらない。否、変わらろうとしない者も一定数いる。一度悪の道に走って『犯罪』という楽を知ったものは、貧民街などを拠点にして人攫いなど様々な悪事に手を染めていく。
それを表すかのように駆けつけた場所では暴漢の集団が、恐らく成人にも至らない少女を襲っていた。
「けッ!! 国の犬どもの登場か!!」
暴漢の一人は駆けつけたユダたちを見て、唾を地面に吐いた。風体は最悪だった。服はボロボロで上半身はさらけ出していて、体には痛々しい傷が刻まれていた。
それがテロによる惨劇のせいだと、そう言われたのならユダは同情してしまいそうだ。
「た、助けてぇ」
少女は引き攣った声で助けを乞っていた。
ユダは心の中で前言撤回を宣言。
やけに耳に残る声に、ユダは意識を切り替えた。この男達に同情はいらない、直ぐに捕まえないと。
囚われた少女は、恐らくいい所の生まれなのか、身なりは整っていた。金儲けの恰好な的のようだ。
「──」
ユダが左右をちらりと見る。二人ともユダと考えることはやはり同じだったようだ。二人がコクリと頷くのを確認すると、三人同時に暴漢に向かって走り出した。
「おい! こいつがどうなってもいいのか!!」
一人は首筋に刃物を突き立て、この女の生殺与奪の件は自分が握っていると主張をする。
が、三人はそんなことお構いなし突っ込んだ。
「──っ!!」
眼前に迫ってきたであろうユダとフェリス。それに対して暴漢は女を刃で傷付けるのでなく、焦りからか女を投げ捨てユダ達に向けた。最大の失態だ。
警戒すべきことが無くなると、息ピッタリとユダ、そして「女の子を傷つけたバツだ!!」とフェリスが暴漢の腹部を狙って一撃を。
「うがぁ!!」
二人の攻撃に腹部を抑え込んで倒れ込んだ。そしてユダは落ちていく少女を見逃さず、アルスに対して叫んだ。
「アルス!!」
意味は伝わったのか、アルスの威勢のよい声が耳に入ってきた。
「はいよ!!」
ユダの呼びかけに答えて、アルスは少女の元に滑り込んだ。傷一つないように華麗に受け取ると、「もう大丈夫です」と安心させるように優しい声色で声をかけた。
一部始終を見ていたユダは、双眸を他の暴漢達に向けた。
「投降しろ!」
舐められないように敢えてキツイ言い方をユダはした。しかしそれは逆効果であったようで、残りの六人の男達はユダとフェリスを目掛けて走り出した。
眼前に迫っている男にフェリスが、
「どうせ襲われるのなら女が良かったぜ」
と率直言った。16歳のユダは、同意を示すかのようにコクリと頷く。
彼らは各々鋭利な刃物を持っていた。対してユダ達は昼休憩を行っていたこともあって、普段身に着けている剣はギルド本部に置いてきてあった。
それに数は向こう側のほうが多い。
相手はこちら側は有利と悟ったのか、それとも今後の楽しみを思い浮かべたのか悪辣な笑みを浮かべている
「けど脅威じゃない」
ユダははっきり言い切った。それに「ガキが舐めてんじゃねぇ!!」と怒声が聞こえたが事実は覆らない。
「──っ!」
まずはユダに真正面にやってきた男を処理する。
刃物を持っていない手の手筋を掴むと、それを背中に無理やり持っていき刃物を奪い取ると、誰もいない床の方へ回転させながら投げた。
そしてガラ空きとなった腹部を見逃さず、ユダは膝を折り曲げて魔力強化を行った膝蹴りの一撃をぶつけた
「──がぁ!!」
白目を向けながら倒れた。咄嗟の判断が間に合わなかったのか、魔力防御なしの生身で攻撃を受けたのだ。
ここまで攻撃を受けるのも当然だ。
「──ふぅ」
まず一人をユダは倒した。
次はどいつだと、隣を見るとフェリスが残りの五人を全員投げ飛ばしていた。全員が泡を吹いて倒れている。
大丈夫なのかと、この時はフェリスよりも暴漢の方が心配になった。
(凄いな......)
普段は能天気で馬鹿なフェリス。しかし戦闘になったらいつものお調子者の雰囲気は一切なくなり、遺憾無く実力を発揮する。
訓練の時には勝てたが、それはフェリスが力を抜いていたからで、まだまだ実力に差はあるとユダは痛感した。
「──ユダ。こいつらをアアル騎士団の方に引き渡すぞ」
いつもより低いフェリスの声が耳に入った。それに若干戸惑いながら「あ、あぁ」と返した。
少し不気味だった。
「アルスの方は──」
どうなっているのかと、安全圏に避難した友達と少女の方を見る。そして言葉を失った。
「あ、ありがとうございます! よ、よかったらお名前を教えて下さい!!」
少女は赤面しながらアルスの名前を聞き、アルスはまんざらでもない顔で自身の名前を教える。アルスは髪をかきあげる動作をして、どうにか自分をカッコ良く見せようとしている。
もしも手元にハンカチがあれば、妬ましさのあまりハンカチを嚙んでしまっただろう。
言葉を失うユダのような反応なら良かった。しかしそうはならないものもいる。フェリスが見たとき、どんな酷い反応をするのかは想像にかたくない。
「...フェリス。怒るなよ。ぜ~ったいに怒るなよ」
子供が泣かないようあやす親のように、ユダは優しく語りかけた。そんな努力は泡沫とかすように、フェリスの顔は徐々に赤くなっていった。噴火前の火山のように。
そして限界を迎えると──
「何女の子をはべらせてんだ!! アルス!! タマキンもぎ取るぞ!!」
(あ、やっぱりフェリスはフェリスだ)
ユダの今までの考えは杞憂だった。ユダの友人フェリス。やはり彼は能天気でお調子者で馬鹿だった。
「ウギャー!!」
「い、いやぁぁ!!」
フェリスは暴れた。抑え込もうとするユダなどは無力な存在と言わんばかりに。
アルスの頑張ってセットした髪はボサボサに、少女の可愛く結った髪は解けて台無しになった。
アルスと少女両方ともあまりの衝撃に、暫く放心状態となって石像のように固まった。
「フ、、フェリス!!」
怒りのあまりにアルスは肩を揺らす。しかし──
一番の被害者は少女の方である。
その後、暴漢たち七人をアアル騎士団の詰め所に持っていき身柄を渡すと、ユダ達は帰路についた。
ギルド本部に戻った時にはとっくに昼休憩は終わっており、副隊長のマナ・イハートからガミガミ言われたのは別の話である。
──そして翌日、第一部隊による『出雲遠征』が行われることが正式に発表された。




